日本ハンドボールリーグ男子も2024年5月3日、4日の試合結果により、プレーオフに出場する4チームが確定しました。豊田合成、トヨタ車体、トヨタ紡織九州、ジークスター東京の4チームは、5月24~26日に東京の武蔵野の森総合スポーツプラザで、シーズン最後のタイトルを賭けて戦います。各チームの見どころ、注目選手を紹介します。(5月4日終了時の順位順)
豊田合成:4連覇狙う
田中茂監督は豊田合成を2018年、初のプレーオフに導き、その後黄金時代を築きました。趙顯章とヨアン・バラスケスの両大砲の調子に左右されることなく、安定して勝てるチーム作りをしてきました。GKを含めた強固なDFと、1対1で強く前を狙うOFが特徴です。「目の前の相手に負けない」意識は相当なもので、合成の選手はひとつのクロスだけで相手DFを翻弄します。
個とチームワークの両方を兼ね備え、互いを補い合うチームカラーは、いまや合成の伝統と言っていいでしょう。自分のミスは、試合中に必ず取り返す。仲間のミスは、他の誰かが取り返す。この意識が浸透しているから、合成には大崩れする時間帯がありません。
中心選手:趙 顯章
日本リーグ史上最強の台湾人選手が、今季限りでの退団を発表しました。合成の連覇の歴史は、大型左腕の趙顯章(チャオ・シェンチャン)とともにありました。大きくインに動いて、引っ張りに打ち込むロングシュートは、他の選手にはない角度がありました。ただ打つだけでなく、DFでも右の3枚目に入り、ハードワークしていました。「合成の外国人はハードワークする」伝統を作ったもの趙でしょう。インタビューでは日本語で答え、他チームにも友達が多かったナイスガイ。合成での「有終の美」を飾ることができるでしょうか。
期待の選手:藤戸 量介
2023年のプレーオフファイナル、トヨタ車体戦は第2延長でも決着がつかず、7mスローコンテストにもつれ込みました。既定の5本ずつを打ってもなお決着がつかず、止めたら終わりのサドンデスに。ここで合成のGK藤戸量介が車体のエース・吉野樹を止めて、合成の3連覇となりました。ボクサーのような構えから、どんなコースにも瞬時に反応。「体の中心をシュートに近づけていく」GKの大原則を、小さな体で体現しています。抜群のリアクションの裏には、緻密なデータ分析もあると言います。去年7mスローコンテストでも「(俺の時に)吉野が来い」と思っていたとか。7mスローに藤戸が出てくる。止める。吠える。盛り上がる。ここまでがワンセットです。(下に記事が続きます)
トヨタ車体:過去最高の出力
デンマーク出身のラース・ウェルダー ヘッドコーチは育成型の指導者で、就任1年目から色んな選手のポテンシャルを引き出してきました。いつも「戦いの場に赴くような気持ちで、妻や子供、大切な人を守るつもりで、試合に臨め」と言っています。ただの精神論だけでなく、ひとつひとつのプレーに強度を求め、そのためのアプローチを身振り手振りを交えて選手に伝えてきました。だから今季の車体は、全員のプレーの出力が上がっています。門山哲也チームディレクターまでも、ラースヘッドの言葉を伝える時に「最高の熱量」で通訳しています。
車体は「正しいハンドボールをやっている」自負が、近年はややおごりになっていました。ラースヘッドの熱が注入されたことで、錆(さび)が落ち、チームとしても次の段階に進みました。あとはタイトルを取れるかどうか。シルバーコレクター卒業の時が来たのかもしれません。
中心選手:吉野 樹&渡部 仁
日本代表の両バックが強く打ち続けることが、接戦を物にするための大前提です。ただの打ち屋からアウト割りやDFも覚えて、トータルで信頼されるエースになった吉野。ウイングから後天的にバックプレーヤーになり、シンプルに強く攻守で活躍する渡部。車体伝統のフィジカル強化のおかげで、2人は今もなお成長の途上にあります。12月の日本選手権では吉野が負傷したため、渡部への負担が大きくなりました。左右の両輪が揃って活躍すれば、2019年以来のプレーオフ制覇が見えてきます。
期待の選手:櫻井 睦哉
大型の守備型ライトウイング櫻井睦哉は、右の2枚目に入るエースキラー。ヨアン・バラスケス(豊田合成)、成田幸平(トヨタ紡織九州)、部井久アダム勇樹(ジークスター東京)と、レフトバックはどこも強力です。しかし目の前に190㎝の櫻井がいれば、そう簡単には打てません。長いリーチでロングシュートを防ぎ、マークを外さずに足でついていきます。時にはクロスアタックで相手のセンターをバチンと止めるなど、気の利いた動きもできます。日本の左腕で、ここまでDF力のある選手はいませんでした。プレーオフで活躍して、DFでの評価をさらに高めたいところです。(下に記事が続きます)
トヨタ紡織九州:13年ぶりのプレーオフ進出
大崎電気の監督時代から、選手交代が上手なのが岩本真典監督です。ベンチ入り全員をローテーションしながら、プレータイムを上手にシェアしていきます。年間通しての出場時間の割り振りも考えているから、若い選手を伸ばすのも上手です。基本的に大崎時代からのフォーマットを踏襲しており、必要なパーツも揃ってきました。個の力でやや劣る分は、組織的なOFと速攻でカバー。トータルでゲームをコントロールさせたら、リーグ有数の監督です。前半29分30秒あたりでタイムアウトを取るのが好きな印象も。
中心選手:酒井 翔一朗
プレーオフ進出は13年ぶり。2011年は東日本大震災でプレーオフが中止になったため、実際に戦うのは14年ぶりです。酒井翔一朗をはじめとする、不遇の時代を知るベテランたちが報われる時がやってきました。特に酒井は純粋な向上心が誤解されて、かつての首脳陣と衝突したこともありました。しかし今は岩本監督のハンドボールに心酔し、ピヴォットとしての幅を広げています。背中を丸めて相手の力をいなしつつ、ポイントで力強くがめる(勝ちの位置を取る)プレーは健在です。最近はスライドプレーでDFを連れ去り、バックプレーヤーにスペースを作る動きが上手になりました。「こういうプレーが最近は面白いんですよ」と笑うあたりは10年目の貫禄。ライン際でチャンスを作り出す酒井の姿に注目してください。
期待の選手:岩見 海里
3枚目を守れる組み合わせを3ペア持っているのが、今年の紡織の強みです。酒井と成田のベテランコンビは任せて安心。岡松成剛と庄子直志のペアにはサイズと機動力があります。そして岩見海里と山口直輝のペアには破壊力があります。姉の岩見佳音(三重バイオレットアイリスGKコーチ)同様に強い体を持つ岩見は、普段の練習から相手に嫌がられる当たりの強さで、2枚目のエースキラーにもなり、3枚目の壁にもなります。関西の学生リーグの得点王が、得点へのこだわりを捨てて、DFの鬼になりました。技と間合いで守る津山弘也と、強さで守る岩見の使い分けも見どころのひとつです。 (下に記事が続きます)
ジークスター東京:若手の成長が楽しみ
これまではひたすら即戦力をかき集めてきた感のあったジークスター東京が、今季は若い選手を積極的に登用しています。コーチから昇格して1年目の佐藤智仁監督は「目の前の試合を勝つために、年間通して勝つために、数年後にも強いチームであるために、この3つのバランスを考えながら、若い選手にも出番を作っています」と言っていました。放っておいても育つであろう大物だけでなく、ちょっと手がかかりそうな若手にも寄り添い、成功体験をつかめるように導いてきました。シーズン中は4位になりましたが、未来への種まきを回収するのはこれから。GKの矢村裕斗、レフトウイングの宮本辰弥、レフトバックの伊禮雅太と、若い芽は育ちつつあります。
中心選手:部井久 アダム勇樹
部井久は日本代表のエースであり、3枚目を守れるサイズもあります。いまやジークスターでも攻守の背骨になりました。盛大に外していたロングシュートも精度が上がり、最近は日本代表で覚えたポストパスも上達しています。日本代表でパリ五輪行きを決めたこともあり、自覚も出てきたようです。「日本代表がもっと強くなるために、ジークスターに戻っても規律と強度を意識したい」と言います。バックチェックを徹底する。強く当たってフリースローを取り、相手のOFを止める。当たり前のレベルを上げて、今年こそは接戦を物にしたいところ。部井久、玉川裕康の2m級の3枚目を生かすためには、2枚目DFの強度も不可欠になってくるでしょう。
期待の選手:信太 弘樹
信太弘樹はかつて日本代表のエースでした。ジークスターに移籍した当初も、1試合で10点取るなどチームの柱でした。今はベテランになり、チームの足りない部分を補うバランサーになりました。OFではセンターやレフトウイングにも入り、DFでは2枚目と3枚目の両方をカバーします。大エースを期待された時代よりも、むしろオールラウンダーの役割を任されている今の方が、ハンドボールを楽しんでいるように見えます。2次、3次速攻でボールを運び、相手が攻守交代できなかった混乱に乗じて、真ん中の2対2からサクッとミドルシュートを決めるあたりはさすがです。「無駄打ちしない」ポリシーが、こういう局面で生きてきます。
ハンドボール男子・日本リーグプレーオフ 一発勝負のトーナメント形式。いわゆるステップラダー方式で、まずレギュラーシーズン3位と4位が1stステージを戦い、勝ったチームが2ndステージで2位と対戦する。2ndステージを勝ったチームは、ファイナルステージで1位と対戦する。3位、4位からの下剋上を狙うには、3連戦を勝ち抜かなければならない。上位チーム同士が対戦する面白さもありつつ、レギュラーシーズンの成績によるアドバンテージも考慮されたシステム。大会公式HP
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