ハンドボール取材のために訪ねた旅先で、一品縛りで名物を食べ続ける「○○選手権」を開いています。初日から順調に開催できる時もありますが、何で勝負すればいいのか迷う時もあります。今回は岩手の花巻で紆余曲折の末、名物の早池峰(はやちね)だんごにたどり着いたお話です。花巻は宮沢賢治とわんこそばだけではありません。だんごがあります。
選手権どころか雪ふりつむ
宮沢賢治生誕の地・岩手県花巻市で、2023年12月下旬にハンドボール日本選手権・女子の部が開かれました。花巻と言えばわんこそばが有名ですが、日本選手権は朝から夜まで試合をやっています。第4試合が終わったら、もうそば屋はやっていません。スーパーマーケットも夜の8時に閉まります。しかも花巻には雪が積もっています。夜の気温は氷点下。県外の素人が気軽に出歩いたりはできません。これはまずい。選手権をやるどころか、このままでは飢えてしまうかもしれない――。生命の危機を感じたので、ひとまずパックのご飯を買い込んで、飢えをしのぐ準備から始めました。花巻は宮沢賢治の言うところの「イーハトーブ(理想郷)」ですが、冬の花巻の現実を思い知らされた次第です。
かきわけてもかきわけても野菜
今回宿泊したのは、JR花巻駅からひとつ隣の花巻空港駅の宿でした。花巻空港駅周辺は、地元のスーパー「フレッシュたもり」が20時に閉まると、あとはコンビニが一軒ある程度。夜はふぶいて、人影もまばらです。雪が降り積もる道をあてもなく歩いていると、赤い看板が光り輝いていました。タンメン専門店「ワインレッド」。元々はスナックだけど、タンメンに自信を持っているようで、麺類のメニューはタンメン一択。入るのにちょっと勇気がいる店ですが、ここのタンメンがおいしかったのです。野菜が山盛りで、種田山頭火の言葉を借りるなら「かきわけても かきわけても 野菜」。天地返しもできないキャベツともやしの山を食べ進んで、3分後にようやく麺にたどり着けました。ちょっとチープな感じのちぢれ麺が、塩味のスープとよく合います。これはいいタンメンだ。温まるなあ。今日から「花巻タンメン選手権でもいいな」と思うくらい、身も心も温まるタンメンでした。
タンメンは一期一会
「ワインレッド」のママにそれとなく店の状況を聞いてみると「明日以降は忘年会の予約で埋まっているから、入れないよ」と言われました。私の母親と年格好がほとんど変わらないママは、カウンターで私の隣に座って、テレビを見ながらくつろいでいました。そうか。このおばあちゃんちみたいな店も、年末は地元の人たちが集う人気店なのか。喜ばしいことですが、タンメンの温もりにはもうありつけません。そもそも何で選手権をやればいいのか、大会2日目が過ぎていまだに決まっていません。花巻の人たちはとても温かいのですが、またしても厳しい現実を突きつけられました。
花巻市総合体育館で救世主、早池峰だんご
途方にくれていたら、選手権の会場である花巻市総合体育館でだんごを売っているじゃないですか! 地元の「早池峰(はやちね)だんご」が大会期間中に出店していたのです。これはありがたい。試合の合間にだんごを食べて、レポートすれば、花巻でも選手権が開催できます。日本百名山の早池峰山にちなんだ地元の老舗が、大会通して出店してくれたことに感謝です。かくして「花巻だんご選手権」が、少し遅れながらスタートしました。
梅しそだんご:だんごそのものがおいしい
ファーストだんごは梅しそ味です。梅干しのような香りがして、梅よりもしその風味がしっかりしています。香りは高く、駄菓子の梅ジャムよりも優しい味だから、だんごそのものの甘味も十分に感じられました。4本入って500円。試合の合間に食べるにはもってこいです。
いちご大福:あんこがシームレス
厳密に言うとだんご選手権からは外れますが、いちご大福も食べてみました。こしあんが邪魔にならずに、いちごと一体化しています。いちご大福の中身があんこが小豆だと、いちごとケンカしてしまいがちなので、個人的には「いちご大福には白あん」と思っていました。ところが早池峰だんごのいちご大福は、こしあんがなめらかで、いちごとあんこの境界線がうまいこと融合しています。このシームレスな食感、相当工夫しているに違いありません。仕事が丁寧なだんご屋さんです。
謎の反響と朗読会
花巻だんご選手権の初日の模様をSNSにアップすると、今大会を運営している中島昭博さん(花巻市ハンドボール協会会長)がいたく喜んでくださいました。そして私が取材の受付をしている時に、昨日の投稿をとてもいい声で朗読しだしたのです。これは恥ずかしい。朗読が終わると、受付のみなさんから謎の拍手が。ますます恥ずかしい。逃げるように、その場を立ち去りました。
ハンドボール界の宮沢賢治
後日、中島さんからは「これは新手の周知プレーです」と粋な返しがありました。さすが「ハンドボール界の宮沢賢治」と呼ばれた人物です。インターハイや全国選抜大会など、花巻で大きな大会が何度も開催されたのは、「花巻をハンドボールの町にしたい」と願う中島さんの熱い思いがあったからです。車椅子ハンドボールの国際審判員の資格を取り、東京で大会があれば夜行バスで往復し、将来の夢は「車椅子ハンドの世界選手権を花巻で開きたい」と語る。そういう人に、なかなかお目にかかれません。「私はただの木偶の坊(でくのぼう)ですから」と謙遜するあたりにも、「雨ニモマケズ」の精神が伺えます。(下に記事が続きます)
だんご6種類で選手権
大きな期待を背負った、花巻だんご選手権。ここからは駆け足で進めていきます。あんこ(粒あん)は王道の味。甘すぎなくて軽やかで、パクパク食べられます。ずんだは枝豆臭さが消えていて、ちゃんと和菓子になっています。おつまみではありません。みたらしはキリッと辛口。塩分多めの東北の味です。黒ゴマは濃厚なゴマの香りがしながら、きちんと甘くて、最後にゴマの香ばしい歯ごたえが感じられました。白ゴマは、お店のおばちゃんが「甘さ控えめ」と言っていましたが、水飴のようなねっとりとした甘さが感じられました。
磯辺もちのありがたみ
最終日の電車でも食べ続けて、ようやく全種類をコンプリートしました。ラストは磯辺もち。ノリとしょうゆがあるから、これはご飯です。お菓子ではありません。ノリとしょうゆのうまみにホッとします。やっとご飯らしい味にたどり着けました。磯辺もちは、フロアに落ちた汗を拭き取るモップのような存在です。甘さを適宜リセットするために、毎日少しずつ食べておくべきでした。
王道の強み。だんご選手権の優勝は「あんこ」
連日1500円を早池峰だんごにつぎ込んだ結果、今大会の優勝はあんこ(粒あん)のだんごでした。甘いのに甘すぎない。ほどよい甘味が勝利の決め手でした。日本選手権の女子の部も女王・北國銀行が5連覇でした。どちらも王道の強さですね。ベースがしっかりしているから、変化にも対応できます。次に花巻に行った時も、早池峰だんごを食べましょう。できれば雪が降らない時期に。花巻はハンドボールとだんごのイーハトーブ(理想郷)でした。
早池峰だんご(はやちねだんご)
住所:岩手県花巻市桜木町2丁目48
電話:0198-23-0712
営業時間 9:00~17:30
定休日:日曜日
ペンスポニュースレター(無料)に登録ください
スポーツ特化型メディア“Pen&Sports”[ペンスポ]ではニュースレター(メルマガ)を発行しています。「へぇ」が詰まった独自ニュースとスポーツの風を届けます。下記のフォームにメールアドレスを記入して、ぜひ登録ください。
\ 感想をお寄せください /