サッカーの2026年FIFAワールドカップ北中米大会で日本代表のキーマンになると期待されているプレーメーカー久保建英。18歳でスペインに再渡航してから着実に成長し、2023-2024は自身初の欧州チャンピオンズリーグ出場を果たし、日本人として初めて月間最優秀選手に選出されるなどキャリア最高のシーズンだった。この状態を維持するだけでも凄いことだが2024-2025は、やや鈍化し足踏みをしている感がある。その要因には、どんなことがあるのだろうか。久保がさらなる高みへとキャリアの階段を上るために今、必要なことについて考えてみたい。
古巣相手に気を吐き善戦
2025年2月26日に行われたスペイン国王杯(コパ・デ・レイ)準決勝、レアル・マドリードを相手にした第1戦でレアル・ソシエダの久保はシュートを決めたかに見えた。しかし、その前に別の選手がファウルをしたという判定が下った。
「僕はゴールを決めたし、うちは2、3回決定的なチャンスがあった。相手はうまくいったというより運があった。90分間で相手は2、3回のチャンスがあったのに対して、うちは7回チャンスがあった。うちの方が優勢で、試合を支配していた。しかし、重要なのは結果。残念」と試合後の現地インタビューで負けん気をあらわにした久保。
4月1日の第2戦ではアウェイに乗り込んだソシエダが先制すると久保が3点目をアシスト。延長戦に突入し4-4の同点で終了。2試合合計4-5となり敗れたが、壮絶な打ち合いを演じた。
レアル・マドリードとの別の試合では、2023年5月2日に久保が得点して2-0で勝利している。また、もう一つのビッグクラブで古巣でもあるFCバルセロナには、2024年11月10日の試合で先発フル出場し1-0で勝利を収めている。
そろそろ、スペインの2強でプレーできるだけの実力を蓄えてきているのではないだろうか。しかし、年齢的に即戦力になることが求められる。レアル・マドリードの攻撃陣はタレント豊富で、最近のバルセロナの攻撃力も冴え渡っていて、メンバーに食い込むのは簡単ではない。(下に記事が続きます)
育成世代を卒業
久保はプロ入り前から若手有望株として注目されてきたが、すでに23歳になった。欧州クラブはBチームをU23世代で形成しているところが多く育成を完全に卒業する年頃で、もう若手選手ではなくなる。
バルセロナ育成組織から2015年3月、涙の帰国を余儀なくされた久保。当時のバルセロナが18歳未満の外国人選手の獲得・登録違反でFIFAから制裁を受けたためだった。バルセロナのトップチームに合流するのを夢見ていただろうが、18歳になる頃にはバルセロナの昇格システムには収まらないほどの選手に成長していた。バルサのBチームとトップチームにはレベルのギャップがあり、それをどのように乗り越えるかがハードルになる。
そこに舞い込んだのがレアル・マドリードへの移籍話だ。金銭的に好条件だったと言われるが、それ以上に他クラブへのレンタルによるステップアップに前向きだったことが大きいだろう。マジョルカ、ビジャレアル、ヘタフェへのローン(期限付き移籍)で着実に実戦経験を積んで、ソシエダで実力を証明し2029年まで長期契約した。
課題は肉体改造
久保の特徴は超一級品のテクニックと攻撃力だが、ソシエダの主力となり相手チームに警戒されて持ち味が発揮できない試合もある。ファウルされることが多いが「ファウルでないと止められないので激しくチャージされている」というポジティブな側面もあるが「久保が倒されやすい」という見方もできる。身体が抑え込まれた際には、なかなか久保の良さが出てこない。
だいぶ大人の体つきになってきたものの、体幹の線が細くフィジカルが強い選手とは言えない。フィジカルを改善することで、選手としてさらなる成長が見えてくる。
ただし、身体を強くした代償として、柔らかさを失ってはいけない。久保は元々、テクニカルな選手であり、いくらフィジカルを鍛えたところで、大柄な選手に正面からの体当たりで勝つことは見込めない。
フィジカルな戦いを生き抜くために、必ずしも肉体的な強さを必要としないのが、サッカーの面白いところだ。「柔よく剛を制す」。牛若丸になればよいのである。この術を会得したら、ディフェンダーにとって封じ込めるのが非常に困難な選手になる。(下に記事が続きます)
挑戦すべきは世界一フィジカルなプレミア
サッカースタイルの観点からは、スペインは久保にあっている。テクニカルなスタイルの国で、育成時代を過ごしており環境にも言語にも慣れている。スペイン・ラ・リーガや欧州チャンピオンズリーグでも結果を出してきた久保にとって今、考えうる最大の挑戦は何か。それは、激しいフィジカルが特徴のイングランド・プレミアリーグでのプレーだ。
プレミア中堅クラブの主力として、それなりにプレーすることは想像に難くないが、ビッグクラブでスター級の活躍ができるかは未知数である。だからこそ、久保にとっては挑戦する価値があるのだ。
イングランドでは、倒されても主審が笛を吹いてくれない場面が増えてくるだろう。フィジカルなサッカーの中で本来のテクニックを発揮できれば、それは完成品でどこに行っても通用するし、もはや誰にも止められない。(下に記事が続きます)
急がば回れ、スペインの超ビッグクラブへの道
イングランド・プレミアで選手として一回り大きくなれば、当初から目指していたスペイン・ラ・リーガのビッグクラブであるレアル・マドリードかバルセロナでさらなる活躍をする道が見えてくる。「急がば回れ」だ。
チームでレギュラーを獲得できるかどうかは、久保自身が心の中に抱く大きな問いに違いない。
2026年にW杯があることを考えると、その直前のシーズンに環境を変えるのはリスクがある。仮にプレミアで出場機会が少なければ、日本代表で先発落ちする可能性はゼロではないだろう。しかし、試合に変化をつけられる選手のため、怪我でもなければサブから外れることは考えづらい。逆にプレミアでうまくいけば、W杯でさらに心強い存在になる。
ここでリスクを恐れて選手としての成長にブレーキをかける方が、よほどもったいないというものだ。
青春時代を過ごしたバルセロナへの愛着があり葛藤しながらも、選手として一番成長するためのキャリアパスを選んだことが、現在の活躍につながっている。今、また選手としての岐路にさしかかっているように感じる。移籍に際しては、クラブ側の意向や構想、具体的な条件などを考慮する必要があるが、安住するのではなく成長のために変化を恐れないで欲しい。
プレミア移籍かスペイン2強への移籍。久保のさらなる成長のために必要なのは、このどちらかだろう。
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