Jリーグ・セレッソ大阪などでプレーした元日本代表のトリックスター、柿谷曜一朗(35)が2024年シーズンを最後に自らの18年のサッカー人生に幕を閉じた。それもつかの間、柿谷劇場が再開し引っ張りだこだ。今もなお注目を浴び続け、人を惹きつけてやまない柿谷の魅力について改めて考えてみたい。
女性ファン「セレ女」ブームの火付け役
2013年から2014年にかけて、セレッソ大阪では「セレ女」と呼ばれる女性追っかけファン・ブームが沸き起こり、柿谷の人気がクローズアップされることになる。「セレ女」はクラブが女性ファンにターゲットを絞ったプロモーションが成功した例で、柿谷に加えて、日本代表MF山口蛍らの人気も爆上がりした。
同世代の日本代表には、DF内田篤人(鹿島アントラーズ、シャルケ04、1.FCウニオン・ベルリンでプレー)という女性ファンに絶大に支持される選手がいた。しかし、一時はその内田の人気をも上回るほどの勢いを柿谷は誇っていた。2人は全くタイプが異なり、内田が清純派アイドルだとしたら、柿谷はポップスターといったところだろう。
柿谷にはスポ根の泥臭さがなく、軽快でファッショナブルな立ち振る舞いには、魅惑的ながらもどこかもろい雰囲気が漂い、人々は心配で不思議と気になってしまうのだ。(下に記事が続きます)
広く共感を呼ぶ人間的な弱さ
ピッチ上では努力というより、持って生まれた天賦の才でプレーする天才肌だ。サッカーは柿谷にとって楽しさを体現するもの。チームの規律や決まり事は二の次三の次だ。柿谷本人に悪気はなく、天才というか天然なので本人も周囲も非常に対処に手を焼く。
それに輪をかけて事態を難しくしたのは、柿谷が非常にナイーブな性格の持ち主だったということだ。窮地に陥って反骨心を発揮するというよりは、内気になってしまう意識低い系。レアル・マドリードに練習参加して契約オファーをもらったにもかかわらず、断ってしまうほどだ。その繊細さといったら、まるで鮮やかな羽をはためかせて空をふわふわと優雅に舞う蝶のようだ。
柿谷は若手時代に度重なる寝坊が原因でプロ意識の欠如を指摘されセレッソを追放された。アスリートとして潰れかけたが、このようにして消えていった逸材は実はごまんといて、柿谷は氷山の一角に過ぎない。しかし、柿谷は日本代表にまで上り詰めて、2014年にはスイスの名門・バーゼルへの海外移籍も果たし充実したプロ生活を終えた。
その傑出した才能を見抜き、救いの手を差し伸べた人々がいたからこそ、成し得た偉業だろう。なにか一つボタンの掛け違いがあったら、日の目を見ずに日の丸を背負うこともなく、プロサッカー選手としてさして認知されることもなく今日に至っていた可能性もあった。
意識低い系の平凡な人のなかに眠る才能。それが、さまざまな出来事や出会いで目覚めて成長していく。そんなヒューマンドラマを地で行くのが柿谷なのである。ファンは「なんだ、自分と変わらないじゃないか」「自分だって、やればできるかもしれない」と思い、共感し勇気をもらうのだ。
弱い人間が試練を乗り越えて、敵を倒していくサクセスストーリー。こんな話をどこかで見たことはないだろうか。そう、これは少年漫画によくあるパターンだ。柿谷曜一朗とは、漫画から現実世界に飛び出してきた主人公のような人物なのである。
子供からコアなファンまで魅了する離れ技
ひとたび、柿谷がピッチ上で本領を発揮すると子供から大人まで観る者を虜にする。ドリブルをしてよし、パスを出してよし、シュートを打ってよし、と三拍子揃っている。
ファンタジスタと呼ばれる選手たちは、多かれ少なかれプレーや気質が不均質で脆さをはらんでいる。奇抜だからこそ、人の意表を突くトリッキーなプレーができるのだ。
それを活かすも殺すも周囲次第というところがある。柿谷が輝くのは、その土台を周囲のメンバーが固めて演出している証拠だ。11人が等しく懸命に汗をかくチームもあれば、1人の才覚を引き出すために残りの10人が辛抱するチームもある。要するに、全体としてどのようにチーム力を最大化するかということだ。
この主役を演じるには傑出した才能が必要で、誰でも真似できるものではない。そのようなパフォーマンスは、やはり観ていて面白いものだ。だから、柿谷のプレーは目の肥えたサポーターをも唸らせるし、子供たちから憧れの眼差しを向けられる。
華やかなプレーは、エントリークラスのファンにも分かりやすく、幅広い人々が楽しむことができる。(下に記事が続きます)
サッカーの垣根を超えて伝わる魅力
柿谷がセレッソに入団するキッカケは偶然、道路で出会ったセレッソのチームバスを見て憧れを持ったからだ。今度は、自らが子供たちの憧れの的となり、夢を与える存在になっている。
柿谷がデビュー当時は、やんちゃなイメージだったが、タレント丸高愛実との間に3児をもうけ、家族思いの良き父親というイメージが定着している。妻が芸能人ということで、芸能界でも注目されるようになっている。茶髪の柿谷はポップ歌手のような雰囲気があり、エンタメ業界には似合っている。
これまで見てきたように、ライト層のファンからコアなサポーター、子供から大人まで魅了するだけではなく、サッカーの枠を超えて広く人々の共感を呼ぶ。そんな多彩な魅力が、柿谷の根強い人気の秘密なのである。
生来のスター性に長年のプロサッカー選手としての素養が加わり、一段と深みのある人間になった。柿谷は脚光を浴びる役回りが似合う伊達男だ。今後も、多くのシーンで活躍を目にすることになるだろう。
「計り知れないポテンシャルを持った面白い選手が出てきた」と思い、若手時代から注目して見てきた。今後は、新競技テックボールでその才能をどれだけ発揮するか、お手並み拝見だ。
柿谷曜一朗(かきたに・よういちろう) 大阪市出身(1990年1月3日生)。ポジションはMF、FW。抜群のテクニックとセンスを誇りU17・U20代表を経て日本代表18試合に出場。2014年FIFAワールドカップブラジル大会には2試合に出場した。4歳でセレッソ大阪の下部組織に入団すると、16歳にしてクラブ史上最年少でプロ契約。その後、J2徳島ヴォルティス、 スイス名門FCバーゼル、名古屋グランパスでプレー。Jリーグ最優秀ゴール賞を2013年と2021年に受賞。2024年を最後にサッカー選手を引退。その直後の2025年に、新興スポーツ、テックボールのプレイングアンバサダーに就任し現役復帰。

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