サッカー日本代表は長らくアジアでの戦いが続き、数年間ワールドクラスの相手との対戦がなかったが、過去18回ワールドカップに出場し、北中米ワールドカップの開催国でもある強豪メキシコに善戦し連敗を4でストップ。首尾よくワールドカップモードに突入した。
完全な敵地でメキシコを抑えスコアレスドロー
日本代表は2025年9月6日に米国カリフォルニア州オークランド・アラメダ・カウンティ・コロシアムでメキシコ代表と国際親善試合を行い、結果は0-0で引き分けた。
FIFAランキング13位のメキシコは、同17位の日本代表にとって2023年以来の久々に骨のある世界基準の相手だ。メキシコは国内組が中心で、アメリカへの移動時間や時差は限定的。中立地での試合ながら、スタンドには緑色のユニフォームをまとったサポーターが大挙として詰めかけて日本にとっては完全なアウェイ状態だった。国境を接する隣国アメリカにはメキシコ出身者が1千万人以上住んでおり、メキシコ系アメリカ人も含めると約3,800万人いると言われている。会場はアメリカンフットボールや野球が行われる設計で、独特の雰囲気に包まれた。
この試合で森保ジャパンは、現状で考えうる最強のチームを組んできた。先発メンバーは、GKが鈴木彩艶、DFが板倉滉、渡辺剛、瀬古歩夢、MFが遠藤航、鎌田大地、堂安律、久保建英、南野拓実、三笘薫、FWが上田綺世だった。
日本は立ち上がりからハイプレスでメキシコのパスに網をかけて、ショートカウンター。そして早速パスワークで相手を崩して久保建英がシュートを放つ。
メキシコは、ショートパスでしっかりとビルドアップしてくるチームだが、そこにうまく日本のプレスがハマった。ハビエル・アギーレ監督は、イライラするような仕草を見せ大きく身体を動かしてチームに指示を送った。失点する前に戦い方に修正を行い、徐々に日本のプレスをかいくぐってくるようになったのは、さすがだ。(下に記事が続きます)
課題は勝ち切る攻撃力
53分には、堂安律、久保建英とつながり南野拓実がフリーでダイレクトボレーを放つも、シュートは枠の上に外れた。
日本は選手交代を機に攻撃の枚数を増やしてゴールを目指したが、得点を奪えるような雰囲気を醸し出すことはできなかった。ワールドカップ本大会までの限られた期間で、試合を変えてくれるスーパーサブは現れるだろうか。チームとして試合の流れを引き寄せる仕組みも構築する必要があるだろう。
日本のチーム全体として守備戦術はよく機能したが、前線の攻撃が有効だったかといえば、こちらもメキシコにうまく消された。
日本代表はサイドアタッカーのタレントが豊富で、ワールドカップ・アジア予選ではウイングバックが高い位置を取り攻撃的にプレーしたが、メキシコ相手には守備に大きな労力を割くことになり、攻撃に費やすエネルギーが削がれた。
69分の選手交代で伊東純也と前田大然というスピードと突破力のある選手を両アウトサイドに投入。そして中盤の中央には運動量が豊富な佐野海舟を入れて勝負をかけた森保監督。しかし、メキシコのゴールを脅かすには至らなかった。(下に記事が続きます)
試合終盤の攻防で勝負弱さを露呈
ホームのような雰囲気で勝たなければならないメキシコが、試合終盤になると前線の圧力を高めてきた。試合の最後の10分の攻防ではメキシコが上だった。このギリギリの攻防は、日本が頭一つ抜けているアジアでは経験できない。その勝負弱さが、この試合で露呈した。実力が拮抗したチーム同士の対戦では、試合は終盤に決するものだ。
ワールドカップで決勝トーナメントを勝ち進んでいくためには、試合終盤の勝負強さは絶対に必要だ。公式戦で常日頃から強豪チーム同士が試合をしている欧州や南米のチームに比べて日本は圧倒的にその経験が不足している。
森保一監督は、試合終盤に勝ちに行きたい場面だったが、逆に勢いを増しペースを掴んだメキシコへの対応に追われる場面もあった。88分にはメキシコに大チャンスが訪れる。ペナルティエリアでのヘルマン・ベルテラメのシュートは枠の左に外れた。
試合終了間際にはGKと1対1になりそうな日本のビッグチャンスの場面。上田綺世の脚を後方から引っ掛けたセザール・モンテスがVARの末に90 + 2分に退場となった。この絶好機を演出したほか、技術的そして精神的な支柱としてチームを統率し巧みにゲームをコントロールした遠藤航は実にキャプテンらしかった。(下に記事が続きます)
開催国の重圧を背負うメキシコにブーイング
日本は前半のいい時間帯に得点できなかった。そして試合終盤の勝ちに行きたい場面で、迫力を感じさせることができなかった。
日本が用意していた戦術がハマり、メキシコは攻めあぐねた。一方で、選手交代で勝負に出た試合終盤に、日本は攻撃の迫力を見せることができなかった。日本のリズムである時に得点できず、勝負を決めたい終盤は、まともにシュートすら打てずに得点が決まる気配がなかった。
中盤の構成を得意とするメキシコの良さを消したことは評価できる。データ的にはほぼ互角の試合だったが、日本にとっては完全なアウェイ状態のなか、メキシコに息苦しいボールポゼッションを強いた。しかし、日本の攻撃の良さを出し切ることができたかといえば、必ずしもそうではない。
メキシコは、完全ホームのような状況で歯切れのよい試合を見せることができずに退場者も出した。試合後には大きなブーイング。これが、日本の善戦を雄弁に物語っていた。(下に記事が続きます)
メキシコ戦は4連敗でストップ
日本が4連敗中だったメキシコに主導権を握らせなかったこと自体、評価していいだろう。
この試合は得点が入らず、エンターテインメント性が乏しいと感じたファンもいるかもしれないが、ここはアジアではなくマインドを切り替える必要がある。両チームは非常にレベルの高い攻防を繰り広げた。
引いた相手を攻略することが焦点だったアジア予選。攻撃が注目されたアジアでの戦いとはうってかわって、メキシコ戦でキーポイントになったのは日本の守備。ワールドカップでも考えられるような戦い方だった。
一定の成果が見られた反面、新たな課題も出てきた。本大会に向けて非常に収穫の多い試合になったといっていいだろう。
森保ジャパンはアジア仕様からワールドカップ仕様にバージョンアップ。試合後に緊張した面持ちながら、時折見せた森保一監督の笑顔は、充実感に満ちていた。

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