【カヌースラローム】羽根田がパリ五輪切符。5大会連続出場、ラストチャンスで決める

カヌー・スラロームのアジア選手権は2023年10月29日、東京五輪の会場だったカヌー・スラロームセンター（東京都江戸川区）でパリ五輪のアジア大陸予選を兼ねて行われ、男子カナディアンシングル決勝でリオデジャネイロ五輪銅メダルの羽根田卓也（36）＝ミキハウス＝が優勝し、5大会連続5度目の五輪出場決めた。予選を全体の2位、準決勝を4位で通過した羽根田は、ゲートに接触する2秒加算のペナルティが1回あったものの、決勝進出した10選手のなかで、唯一100秒を切る99秒05の好タイムをマーク。2位には9月の世界選手権のセミファイナリスト、中国の張鵬（ZHANG Peng）が入ったが、羽根田のタイムが1秒19上回った。

「東京で決めろという天啓」

9月の世界選手権（英）で五輪代表内定条件を満たせず、今大会がパリ切符獲得のラストチャンスだった。「世界選手権で決められなかったのは残念ですが、東京でみなさんの前で決めろという天啓だと思って頑張ります」と、この大会前にペンスポにコメントを寄せていた通り、有言実行の五輪出場権獲得。ここぞという場面で集中力を研ぎ澄まし、最後のアジア「1枠」をつかみ取ったのは経験のなせる業だろう。

人生をかけたレース　7年前と重なる

「ずっと張り詰めた気持ちで毎日過ごしてきたので、やっとそれが報われた」「五輪というのは紙一重で決まるもの。本当にほっとしている」とレース後のインタビューで語った羽根田。その表情を観て、7年前のリオ五輪で銅メダルを獲得した後の記者会見を思い出した。

カヌースラロームでアジア人初のメダルを獲得して臨んだ会見でその時、海外の記者から少し意地悪な質問が飛んだ。「あなたはアジアで初めてメダルを取った。それなのに、なぜもっと嬉しそうにしないのですか」。羽根田は流暢な英語で答えた。”I’m the happiest feeling in my life right now. Don’t I look like that?”（私はいま、人生で一番幸せな気分です。そう見えませんか？）。確かに羽根田のその時の表情は頬がこけ、うつろな目は眠たそうで、やつれて見えた。リオの銅メダルレースはそれだけ、持てる力と集中力を注ぎこんだ人生をかけたレースだった。きょうのレース後の表情は7年前の表情と重なって見えた。人生をかけたレースを乗り越え、羽根田はまた結果を出した。

無観客で行われた2021年の東京五輪は10位と不完全燃焼で終わった。来夏のパリ五輪で、銅メダルを獲得した2016年リオデジャネイロ五輪以来、2大会ぶりの表彰台を目指す。

羽根田 卓也（はねだ・たくや）1987年、愛知県豊田市生まれ。7歳〜9歳までは器械体操に取り組み、9歳から父と兄の影響でカヌーを始めた。世界レベルで活躍することを目標に、高校を卒業後すぐにカヌー強豪国のスロバキアへ単身渡る。2008年北京、2012年ロンドン、2016年リオデジャネイロ、2021年東京大会と4大会連続で五輪出場。リオ五輪で、この競技アジア人初となる銅メダルを獲得、一躍カヌーを国内に知らしめた。スロバキアの首都ブラチスラバの国立大学院卒業。愛称「ハネタク」はマツコ・デラックスさんが命名。

カヌースラローム競技　カヌーには大きく分けて急流で速さを競う「スラローム」と穏やかな水面で速さを競う「スプリント」がある。1972年のミュンヘン五輪で初めて採用された「スラローム」は近年、主にコース約200～300ｍの人工コースで開催され、艇をパドルで漕いで18～25か所のゲートを通過して競う。競技は1艇ずつのタイムトライアル方式で行なわれる。上には2本のポールでできたゲートが吊るされ、ゲートには上流から下流に通過するダウンゲートと、下流から上流に回り込むアップゲートがある。各ゲートに対して指定された順番、指定された方向から通過しなければならない。不通過なら＋50秒のペナルティ。ゲートに接触した場合にも＋2秒のペナルティーが課され、最終的なフィニッシュタイムが速い順で順位が決まる。レースは人が立てないほどの急流で行われ、艇をコントロールするバランス能力と柔軟性、急流のコース取りなどの状況判断力と敏捷性が求められる。