【ハンドボール】三重バイオレットアイリス2025-26総括。黄慶泳監督に聞く

パスカットから速攻に転じる横田希歩=2026年1月、AGF鈴鹿体育館(久保写す、以下すべて)
パスカットから速攻に転じる横田希歩=2026年1月、AGF鈴鹿体育館(久保写す、以下すべて)
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ハンドボール女子リーグHの三重バイオレットアイリスは2025-26シーズン、7勝1分12敗で11チーム中9位に終わりました。とはいえ、年明け以降はDFが整備され、上位のチームに勝ち切る試合も出てきました。我慢強くチームの土台作りをしてきた黄慶泳(ファン・キョンヨン)監督に、4年目のシーズンを総括してもらいます。 

目次

年明けから強さ

黄慶泳監督はオムロン(現熊本ビューストピンディーズ)や女子日本代表でも、DFを軸にチームを作ってきた=2026年5月
黄慶泳監督はオムロン(現熊本ビューストピンディーズ)や女子日本代表でも、DFを軸にチームを作ってきた=2026年5月

――2025-26シーズンの総括をよろしくお願いします。前のシーズンではスムーズに試合に入れていた先発メンバーが、2025年の開幕からは一転して、試合の出だしでつまずきました。

黄慶泳監督(以下黄):それが僕にとって最初の誤算だった。

――2025年10月までは2勝4敗と、チームがバラバラでした。しかし11月以降はチャレンジゲームズを重ねるごとに、チームの形ができてきました。

黄:今季の一番の問題は、飯塚美沙希、横田希歩の見極めに、少し時間がかかったところです。2人とも2024年の開幕からセンターで起用したかったが、同じ時期にヒザの手術をして、復帰してから半年ぐらいしか試合で使えませんでした。だから2人がどこまでやれるかの見極め、交代のタイミング、他の選手との相乗効果を把握するのに、2025年のシーズン前半まで時間がかかりました。

――本当なら2024-25シーズンにやり切っておきたかったことの「積み残し」があったのですね。

黄:あとは選手の長所を生かすのではなくて、弱点を直すことにフォーカスしながら前半戦を戦ってきたので、なかなかチームが固まらなかった。でも年明けからは、ある程度選手の見極めができたので、選手の強みを出すところにフォーカスするようになりました。僕自身も、選手たちの起用の仕方がわかるようになってきて、チャレンジゲームズでも若手が使える目途がついてきました。それらが全部重なって、シーズン中盤から終盤に向かう時にはチームの強さが生まれてきました。(下に記事が続きます)

チャレンジゲームズと横田希歩の覚醒

才能きらめく横田希歩。左2枚目DFで前に出て、動き回ることで、チームに活力をもたらした=2026年1月
才能きらめく横田希歩。左2枚目DFで前に出て、動き回ることで、チームに活力をもたらした=2026年1月

――チャレンジゲームズを利用して、横田の才能を上手に引き出しました。横田がここまでDFのキーパーソンになるとは思わなかったので。

黄:さっきの話に戻りますが、飯塚と横田が2人同時にケガをして、そこからチーム作りが遅くなってしまいました。でもやっと横田の良さである、攻撃的な守りからの速攻とか、レフトウイングとセンターバックの両方で使えて、周りとの組み合わせ次第で司令塔でもフィニッシャーでも使えるところが、チームの武器になってきました。そこは大きな収穫かな。

――横田は「小さい点取り屋」のイメージから、本当の意味でチームの核に成長しました。シーズン終盤は完全に「横田のチーム」になりました。

黄:藤澤舞子のケガ(2026年3月末に前十字じん帯断裂)もひとつのきっかけで、そこから僕も腹をくくって横田をDFで使えるようになってきました。あとはチャレンジゲームズで「若手のリーダーとしてチームを引っ張るように」と、横田には伝えていました。飯塚が引退して、これからのチームで主軸になっていくことを考えたら、すごく大きい収穫だったかなと思っています。 

DFは改善、課題も

これまでOF専門だったキャプテン飯塚美沙希も「少しでもDFで貢献したいから」と、クロスアタックに出るようになった=2026年1月
これまでOF専門だったキャプテン飯塚美沙希も「少しでもDFで貢献したいから」と、クロスアタックに出るようになった=2026年1月

――横田が左の2枚目で前に出て守ることで、全員の足が動くようになり、飯塚や森本方乃香のような「OF専門」の選手も必死でクロスアタックやパスカットに行くようになりました。このあたりの意識改革も大きかったですね。

黄:ただ勝負どころのDFで、監督の采配と選手の動きがチグハグになってくると、一気に突き放される。負け試合ではそういう部分が顕著に表れていました。そこは僕が動き過ぎる部分もあるし、「ここ」という時に、選手たちがそれをわかった上でプレーするうまさ、経験がまだ足りていない。私の采配に、その瞬間ちょっとついてこられなくて、そこでチーム全体が一気に壊れることもありました。

――2026年5月24日のアランマーレ富山戦が典型的でした。29-29と終盤まで競りながら、DFでプレスを掛けた瞬間に相手にやられて、30-36でシーズン最終戦を終えています。

黄:最後の局面で一気に7点取られてしまいました。負けていたからDFで仕掛けたのだけど、その前に僕の指示に対してチームの動きがチグハグになっていたので、一気に離されました。そこは今日の試合で残念な部分かな。 (下に記事が続きます)

セカンドメンバーへの信頼

初見姉妹の妹、初見巴菜子。2025-26シーズンはトップDFと7人攻撃で、出場機会をつかんだ=2026年5月
初見姉妹の妹、初見巴菜子。2025-26シーズンはトップDFと7人攻撃で、出場機会をつかんだ=2026年5月

――とはいえシーズン終盤は、5:1DFのトップに並木梨紗、小林愛、初見巴菜子の3人を使い分けるなど、DFでの仕掛けが効果的でした。

黄:今季に向けてDFシステムはいろんな戦術を準備していたが、あんまり多くのことをやりすぎるといけないと思ったから、シーズン前半はやることを絞ってきました。ある程度力を発揮できるようになってきたシーズン中盤から終盤に向かう時に、真ん中から変化を起こせるよう、 5つのDFシステムを準備しました。あとは僕がめざしているトータルハンドボール。いろんな選手が、どのポジションに入ってもできるように、攻撃のバリエーションを増やして、走って点を取るランニングハンドボールができるように、シーズン中盤から終盤に少し幅を広げながらやってきました。

――今季途中にも「セカンドメンバーを信頼して使えるようになった」と言っていましたね。

黄:前は点が取れなくて、守り合いの後手に回るハンドボールをしていたが、今は負け試合でも大体27から30点ぐらい点が取れるようになってきた。それはチーム全体でトータルハンドボールができるようになってきたから。いろんなメンバーを使えるようになってきたし、点を取れるメンバーが増えてきました。(2026年5月17日の)ハニービー石川戦ではこう言いました。「ロースコアではなくて、ランニングゲームでも構わないから点を取りに行け」と。そういうプランで挑んだ結果、最後までみんなが気持ちよくやってくれましたね(結果は25-25の引き分け)。

――黄監督の掲げるトータルハンドボールの定義を改めてお願いします。

黄:戦術の幅の広さと、選手の組み合わせ。いろんな選手がどのポジションでもこなせるようにしながら、世の中にある沢山の戦術を、我々もやりきる。それがトータルハンドボールです。 

苦労人・塩田成未の存在意義

右側のDFで動き回る塩田成未。課題だった右サイドからのシュートも決まるようになった=2026年5月
右側のDFで動き回る塩田成未。課題だった右サイドからのシュートも決まるようになった=2026年5月

――2026年5月17日のハニービー石川戦では、ライトウイングの塩田成未が連続でシュートを外しても信用して使い、最後は塩田の速攻で引き分けに持ち込みました。

黄:あの日のハニービーのGKが、サイドシュートに対して出てから戻る捕り方だったから、股下と上を狙うと止められる。GKの腰横に打てる選手が必要だった。僕は塩田が左右の腰横に打てる選手だと思っているから、そこを信用して途中から使い続けました。

――塩田にとっても、すごく大きい経験だったと思います。交代してすぐに、最初の1本を決めました。でも、その後に2本止められました。そこからもう一度取り返すチャンスがあって、 塩田が決め切りました。チームにとっても、塩田にとっても、今後につながる1点だったと思います。

黄:塩田はリーグに入る時も、トライアウトに2度挑戦した末に入ってきた苦労人だから。そういう選手がちゃんとレベルアップして試合に出るというのは、クラブチームの魅力だと思うし、僕はそういう選手を切り捨ててはいけないと思っています。塩田がコートの中で活躍してくれることで、チームに対して示しがつく。最高です。

――2026年2月7日のアランマーレ富山戦で、GKのフレア・ハマー相手に7/7で決めたあたりから、周りの見る目も、塩田本人の意識も変わってきたように感じます。

小林愛、3年計画で育成中

トップDFで長いリーチを生かす小林愛。攻守のバランスを考えて、ライトバックでの出場時間も増えてきた=2026年4月
トップDFで長いリーチを生かす小林愛。攻守のバランスを考えて、ライトバックでの出場時間も増えてきた=2026年4月

―― ほかにも小林愛の使い方がおもしろくなりましたね。ライトバックで使ったり、センターで使ったり、切らせてピヴォットになったり。

黄:小林は職人タイプではないが、いろんなバランスの中でハンドボールセンスが生きる選手なので、僕のハンドボールの中でも欠かせない選手です。5:1DFのトップでも手足の長さを利用できるようになってきました。もうちょっと強さを発揮してもらいたいけど、あと1年かかるかな。

――小林のトップDFは、相手にとって邪魔だと思います。

黄:僕は3年計画で小林を育てるつもりでいます。どこかできっかけをつかんだら爆発する時が来ると思うので、我慢強く使いながら今育てています。来季が3年目なので、2026年から2027年の間に、自分の世界観を作ってくれたらうれしいな。まだ調子の波があるけど、僕は順調に育っていると思っています。(下に記事が続きます)

新井梨奈のサイズがあるから、引いて守れる

中学時代は吹奏楽部だった新井梨奈。少しずつではあるが、攻守に自信をつけてきた=2026年5月
中学時代は吹奏楽部だった新井梨奈。少しずつではあるが、攻守に自信をつけてきた=2026年5月

――新井梨奈もようやく3枚目DFで戦力になってきました。

黄:吹奏楽部(新井梨奈は中学時代は吹奏楽部だった)は周りが何と言おうが、僕にとって一番必要な選手です。僕のハンドボールは攻撃的なDFをするから、元に戻すためのオーソドックスなDFも用意しておかないといけない。そういう時に新井が入って、ライン際を固めてちょっとチームを落ち着かせる。彼女がいるから、原点に戻る守り方ができます。

――少しずつですが、新井も成長しています。

黄:ハンドボール歴は浅いし、東京女子体育大学もDFの実績があまりなく、本格的に戦力でやるっていうのは、バイオレットに入ってからなので。

――塩田にしても新井にしても、学生時代にそこまで名の売れていない選手を伸ばしていけたら、チームのひとつの売りにもなりますね。 

インパクトプレーヤー池畑咲和、できること増やす

池畑咲和は、エースの山口眞季に次ぐロングヒッター。4つのポジションから力強く打ち込める=2026年4月
池畑咲和は、エースの山口眞季に次ぐロングヒッター。4つのポジションから力強く打ち込める=2026年4月

――OFでは、池畑咲和がライトバックでも点を取れるようになったのが驚きでした。どちらかと言うと左側のイメージが強い選手なので。

黄:池畑は左サイドから右側にドライブをしながら使うと、シュートが単発になりがちでした。練習から「最初から攻めないで、ドライブしながら1回ボールを振ったりとか、左側に逆パスしてからもう一度自分でシュートを打ったりとか、そういうバリエーションが必要だよ」と言っていたけど、どうしても攻撃のリズムが単調になるのが課題でした。そこでライトバックをやらせて「こっちの2枚目と3枚目の間をシンプルに、小さいフットワークからシュートを打つことをやれば、レフトバックでも、レフトウイングから回り込む場合でも、センターバックでも使えるようになるんじゃないか」と思って、練習から準備してきました。

――レフトウイングから回り込んで打てるのは池畑の魅力ですが、相手もそのシュートは警戒しているし、あっさり打って止められている印象もありました。

黄:普段のプレーの中でも、1歩の大きさを自分でコントロールするように。大きく離れて逃げていったり、ディフェンスがついてくる前にコンパクトに細かいステップで打ったりとか、そういったことも自分で考えるようになってくれたらいいかな。本人にもそういう説明はしましたよ。どのスペースに動いても、大きく動いたり小さく動いたりしながらシュートを狙えるようにしていきたいからと。練習で準備したことを試合でもやってくれって、やっぱり才能がありますよね。(下に記事が続きます)

トータルハンドボールをアップデート

ベンチ入り全員のよさを組み合わせるトータルハンドボールに、黄監督のハンドボール観もバージョンアップした=2026年5月
ベンチ入り全員のよさを組み合わせるトータルハンドボールに、黄監督のハンドボール観もバージョンアップした=2026年5月

――途中出場で池畑の点が入ると、チーム全体の得点も伸びてきます。2025年9月17日の飛騨高山ブラックブルズ岐阜戦は、途中から出てきた池畑の6連続得点で試合をひっくり返しました。そういったことを含めてトータルハンドボールに近づけていくわけですね。

黄:一人ひとりの良さを生かしながら、選手をいろんなところに配置しながら、いろんな選手と組み合わせても点が取れるように。正直言うと、僕は今までそんなことあまりなかったが、今はトータルでいろんな戦術を使いながら、選手の起用方法もローテーションも含めて、バランスよく点が取れるチームを作っていきたいなと思っていて、今季は意図的にやってきました。

――以前は「60分出られる不動のレギュラーを7人作りたい」と言っていましたが、黄監督の考え方もアップデートされていますね。仮にプレーオフで3連戦を勝ち抜くとなると、色んな組み合わせでも戦える引き出しや選手層が必要になってきます。

黄:結果は厳しくて、今季は9位で終わりましたが、僕は後半戦の内容を考えたら、今のところは3位から5位の間のチーム力はあると思っているので。あとは来季のスタートからこういうゲームができるかどうかが、一番大きなポイントと思っています。 

来季こそプレーオフへ

今季限りで引退した並木梨紗(写真中央)の得点を、全員で喜ぶ=2026年5月
今季限りで引退した並木梨紗(写真中央)の得点を、全員で喜ぶ=2026年5月

――女子日本代表の名将がバイオレットに来て、来季で5年目になります。

黄:まだまだチームで果たせていない部分もあるけど、僕自身は選手の成長、チームの成長は順調だと思うし、その結果が来季出てきてくれたら嬉しいかな。DF要員の並木が引退するので、DF面でダメージなくスタートダッシュができるかが課題になるけど、そこは新人の吉武美咲を鍛えていきます。今シーズンのように「最初は作りながら」だと、同じことの繰り返しになるので、スタートから勝負できるような状況に持っていけたら。

――時間はかかりましたが、ようやく黄監督のチームらしくなってきました。

黄:最初の2年間は前のチームを整理する時間で、3年目は自分のチームを強化する時間で、4年目の今季は本気で戦いに行ったが、立ち上がりでちょっとつまずいてしまった。でも最後にチームらしくなってきました。長いプロセスでしたが、そこは僕の中では「通らなきゃいけない道」だと思っているので。クラブも我慢強くまだ僕に任せてくれているから、来季こそ本当に勝負に行けるかなと思っています。

――「プレーオフに出てほしい」というファンやスポンサーの声も聞こえてきます。

黄:僕にとっても、来季が最後のチャンスだと思っています。プレーオフで優勝争いができるチームになるために、今季はすごくいい経験をしてきたと思うし、来季に入った時にはいきいきと、ある程度変わった雰囲気で試合に入ってくれるだろうと期待はしています。来季のことも考えながらチームの準備をしてきたので、選手の持っている力を最初から発揮できるようなゲーム運びを開幕からしていきたいな。

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