急ごしらえの寄せ集めチームからスタートした、2025-26シーズンのアースフレンズBM東京・神奈川。主力の流出もあり、トータル26試合で勝ち星はわずか2勝でしたが、梶原晃GM兼監督代行がめざしてきた「チーム文化の作り直し」という意味では、確かな手応えが得られたシーズンでした。
こらえ性のないセットOF

アースフレンズBM東京・神奈川は、激動の2025-26シーズンを終えました。開幕前には主力の流出が止まらず、クラブチームの渡辺組の力を借りて、ようやく人数が揃いました。2週間ほどの合わせで開幕から健闘していたものの、試合を重ねるうちにハンドボールが粗くなり、安直に打って外すシーンが増えてきました。
秋のインカレ後から大学生が期限付き移籍で加わり、人数不足は解消されましたが、大学生のシュートまで「早打ち」に染まりかけていました。アースフレンズの課題はセットOFです。よく言えば「隙あらば打つ」。厳しい言い方をすれば「こらえ性のないシュート」。しっかりとした組み立てができないから、単発のシュートを打って、攻撃が終わってしまいます。若いメンバーで走るハンドボールを志向していた創設期の弊害が、新しいシーズンでも見受けられました。
世界で通用するハンドボール観を

就任1年目の梶原晃GM兼監督代行は、いつも言っていました。
「速攻に出ることは否定しない。速攻で点が取れる場面は走ればいい。問題なのは、打っていいかどうかの判断ですよね。打っていい場面と悪い場面を整理するには、時間がかかります」
ハンドボールだけでなく、バスケットボールチームも抱えるアースフレンズの理念は「世界に通用する人材作り」です。世界で通用するハンドボール選手になるには、ボールゲームの4局面すべてで、原理原則に基づいたプレーが求められます。「ただ走っていればいい」といったハンドボール観では通用しません。速攻だけでハンドボールを組み立てるには限度がありますし、いびつなハンドボールだと、見る人もやっている人も楽しくありません。
ただ、長年染みついた習慣は、なかなか取り除けません。試合の勝負どころになると「楽をして点を取りたい」気持ちが出てしまい、以前と同じプレーを繰り返してしまう……。そんな悪循環に陥っていました。 (下に記事が続きます)
元日本代表・笠原謙哉が練習見る

チームの文化を立て直すために、梶原晃GM兼監督代行は、シーズン途中から笠原謙哉に練習の組み立てを任せるようにしました。元日本代表の名ディフェンダーで、アイスランドでプレーしていた笠原は、「OFを伸ばしたいから」と、アースフレンズBMでプレーする選択をしました。下位のチームでOFでの出場時間を得て、自身のスキルを伸ばしたいという考えだったようです。
笠原はストイックな取り組みと、理論にもとづいたトレーニングで、日本代表に定着した選手です。練習メニューも理にかなったものばかり。これまでの走るハンドボールに慣れきった選手には抵抗があったようです。ただ、梶原監督兼GM代行が言うには、「若い選手や大学生は、笠原のハンドボール観を吸収していますよ」とのことでした。物の考え方を伝えられる笠原の存在が、チームの文化が変わるきっかけになりました。
やるべきことをやると、結果もついてくる

練習の成果が出てきたのは2026年の3月あたりからでしょうか。3月7日のゴールデンウルヴス福岡戦は31-25で今季初勝利を挙げました。梶原監督兼GM代行も「やることをきちんとやったら、結果がついてくるよね」と、選手に言っていました。チームにとっても大きな自信になる1勝でした。
期限付き移籍でプレーしていた大学生が3月いっぱいで抜け、エースの中村権一が福井永平寺ブルーサンダーに移籍し、4月から選手層が再び薄くなりました。ベンチ入り11人のうちGKが4人で、CP(コートプレーヤー)が7人しかいないという、大変な試合もありました。それでも試合内容は崩れませんでした。最終的には人数不足で体力を削られて、10点差がつきますが、点の取り方だけなら相手を上回っていたりします。2026年4月27日のホーム戦で、トヨタ自動車東日本レガロッソ宮城に24-34で敗れたあとに、梶原監督兼GM代行はファンに向けてこんな挨拶をしていました。
「最終的には10点差のゲームになりましたけど、我々のめざしてきたハンドボールが表現できるようになってきたかなと思います」
この日のアースのOFは、メリハリが効いていました。セットOFではゆったりとしたボール回しから始まり、両ウイングの三輪颯馬、林凌雅が切ってスクリーンになり、ライトバックの河村優が一気に加速して、スペースに切れ込みます。切りの動きが効果的だし、緩急のついたボール回しができているし、見ていて気持ちのいいセットOFでした。「こういうOFをアースがするようになったか!」という驚きがありました。(下に記事が続きます)
神谷弘平の的確な判断

3次速攻で押す場面では、センターの神谷弘平が真ん中の2対2を狙い、3枚目DFが下がっているのを見て、ミドルシュートを打ち込みました。この判断が間違っていないから、早打ちのようだけど、無茶打ちではありません。神谷の的確な判断は、全盛期の信太弘樹(ジークスター東京)を見ているようでした。
この試合で11点を取った神谷は「笠原さんが状況を作ってくれるので」と、少し照れ臭そうでした。真ん中の2対2でピヴォットの笠原がライン際にいるから、両3枚目DFが前に出られません。笠原に作ってもらった状況で、打てると判断した神谷が高確率で決め切りました。シュート力自慢だった神谷が、今季はチーム全体のバランスを考えるようになり、さらには的確な判断が身についてきました。少し小柄な点取り屋から、30歳にして「打てるセンター」に変貌を遂げた神谷は、「今までやってきたこと、教わってきたことが、ようやく形になってきました」と、喜びを噛みしめていました。
笠原謙哉の求める原理原則

OFがよくなった理由を、普段から練習を見ている笠原にも聞いてみました。
「練習でやっているのは基礎だけ。原理原則です。でもそれだけで、強豪の豊田合成ブルーファルコン名古屋相手にも点を取れています。日本のプレーの強度は上がっていますよ。でも、大学を出てから新しいプレーを身につけた人っています? 強度が上がっただけで、ちゃんと理論でやっている選手、チームがどれだけいるかって話ですよ」
笠原の言葉は止まりません。
「神谷が3次速攻でミドルを打ち込んだのも『絶対にピヴォットとプレーしよう』と言っているからです。東日本の特徴は高いDFですけど、ピヴォットにスクリーンを張られたら、前に出られない。両ウイングの切りの動きにしても、今スクリーンをかけるべきなのか、それとも走るのか。細かいことを言えば、今ドリブルを使うべきなのか、使わないのか。それも全部判断です」
原理原則に基づいた判断をしていれば、気持ちいいくらいにセットOFが整理されていくのでしょう。
少人数トレーニング

笠原はここでおもしろいことを言います。
「原理原則にプラスして、トレーニングのやり方もあります。今、アースの選手は、反復練習はしていないですからね」
全員が仕事しながら、夜に集まっての練習だし、毎回全員が集まれる訳でもありません。ただでさえCPの人数が少ないから、6対6の攻防もできません。ただ笠原は、少人数でのトレーニングに意味があると考えています。
「6対6なら勢いでごまかせるけど、1対1だとごまかしが効きません。自分のスキルが正しかったかどうかがバレるから、みんなスモールグループのトレーニングをやりたがらないんですよ。ウチのみんなも、嫌そうにやっていますよ」
それでも笠原の考えたトレーニングに取り組むうちに、伸びる選手は伸びてきました。神谷は30歳にして急成長を遂げたし、キャプテンの三輪も得意のサイド切りがさらに上達しています。GKも芳山直樹が止めるのはもちろんのこと、新人の遠藤輝もフィジカルを強化して、リーグで通用しています。
「なんだったら、37歳の僕が一番伸びているかもしれませんよ」
笠原はそう言って、ニヤッと笑っていました。
積み重ねてきたことが身になった

キャプテンの三輪颯馬は、チーム全体の成熟を感じていました。
「シーズンの最初からやってきたことが、やっと身についてきたのかな。人数が少ない分、一人ひとりがやらないといけないので、マインドが変わってきたのもいい部分だと思います。若い選手にはのびのびと、自分の持ち味を出してもらえたら。早打ちはチームの課題で、今もまだあるんですけど、しつこく言い続けて減ってきました。戦術面では笠原さんが色々と教えてくれて、それも身になっています」
波乱万丈の2025-26シーズンは、最後に富山ドリームスに勝って白星で終えることができました。最下位だったとはいえ、ミッションだった「文化の作り直し」は達成できたかと思われます。ハンドボールの4局面すべてで、原理原則に基づいたプレーをする。そのために必要な個人スキルやフィジカルを鍛える。アースフレンズBM東京・神奈川は、選手が成長するチームに生まれ変わりつつあります。
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