関西学生ハンドボール連盟1部リーグに所属する立命館大学女子ハンドボール部は、2026年2月から舎利弗学(とどろき・まなぶ)監督がチームを指導しています。2年前の2024年から立命館大学の男子を見ていた舎利弗監督は、この春から男女かけ持ちになりました。舎利弗監督体制で最初のリーグ戦こそ連敗スタートになりましたが、これから強くなるであろう兆しが感じられました。
アナリスト出身

立命館大学男女ハンドボール部を率いる舎利弗学監督は、選手としての華々しいキャリアはありませんが、アナリストでチャンスをつかみました。2008~12年に男子日本代表を率いた酒巻清治監督(現・福井永平寺ブルーサンダー監督)のもとで、日本代表のアナリストを務めています。最近流行りの「物言うアナリスト」ではなく、監督の要望に応じて、余計な主観を入れずに動画を編集するアナリストでした。アジア選手権や世界選手権といった大きな大会では、連日睡眠時間が3時間くらいになりながらも、ミーティング用の動画を作っていました。
また代表活動と並行して、学法福島高校(福島)の女子ハンドボール部を立ち上げ、2012年には創部5年目でインターハイ初出場を果たしました。当時のレフトバックには、のちの女子日本代表の佐原奈生子(ハニービー石川)がいました。
男子日本代表コーチ8年

2015年からは日本オリンピック委員会の研修制度を利用して、ドイツに2年間留学。そこで世界的な名将ダグル・シグルドソン監督とつながりができました。2016年のリオデジャネイロ五輪でドイツ代表を銅メダルに導いた名将からは「マナブさん」と呼ばれ、信頼されていました。2017年にシグルドソン監督が男子日本代表監督に就任した際も、コーチで入閣しています。2021年の東京五輪を含めて約8年間、アイスランド人の名将の懐刀として、男子日本代表の強化に注力してきました。
「人に恵まれてきましたね」と、舎利弗監督は言います。酒巻監督からは、フリーOFやDFの原理原則を学びました。シグルドソン監督からは、世界を相手にも王道のハンドボールで勝負できる基礎作りを学びました。無色透明のパイプになり、名将のハンドボール観をそのまま選手に伝えてきた日々が、舎利弗監督のハンドボール観を形作っています。(下に記事が続きます)
練習90分、高強度

立命館大学のスポーツ健康科学研究科博士課程で学んでいた縁もあり、2024年春から立命館大学男子ハンドボール部の監督になりました。2024年秋のリーグ戦では入替戦に勝って、関西学生リーグ1部昇格を決めています。その手腕が評価され、2026年2月からは女子ハンドボール部の監督も兼ねることになりました。現在は非常勤講師で健康スポーツ系の授業を教えつつ、男女両方の練習を見る、忙しい日々を送っています。
2026年の立命館大学女子は関西学生リーグ1部にいるものの、選手が4学年で12名しかいません。推薦入試では全国大会出場と学力の両方を求められることもあり、毎年とれる選手が限られています。少人数のチームを強化するために、舎利弗監督は男子同様、女子でも「短時間集中」の方針を打ち出しました。
「試合前の全体のアップは50分前からでいい。練習も90分間。大学生は勉強もありますからね。その代わり、高強度で質の高い練習をしています。次の練習までの時間が長くなれば、体も回復して、コンディションがよくなります。フィジカルトレーニングをする日はリカバリーを考慮して、ハンドボールはやりません。筋トレの翌日を休みにできたら、筋肉痛を気にすることなく追い込めます」
短時間集中とフィジカル強化で、個の強さを高めているところです。
開幕3連敗でも手ごたえ

立命館大学衣笠体育館で2026年4月25日、春のリーグ戦が行われました。対戦相手は力をつけている、びわこ成蹊スポーツ大学でした。攻守の切り替えの早い相手にミスからの逆速攻を許し、立命館大学は17-23で敗れ、開幕から3連敗。新体制での公式戦初勝利はなりませんでした。
敗れはしたものの、改革の兆しは随所に見られました。強化しているフィジカルを生かした1対1で、DFの間を強く割るシーンが何度もありました。相手ベンチから「ロングシュートよりも、間を割られる回数の方が多いぞ」との声が出るほど、戦い方が徹底されていました。(下に記事が続きます)
選手交代に「舎利弗流」

試合中に興味深いシーンがありました。センターの2年生・伊藤彩乃が2次速攻でランニングシュートを打って外しました。そのタイミングで、舎利弗監督はいったん伊藤をベンチに下げています。他の選手も速攻でランニングシュートを打っていたので、このプレーはチーム全体で狙っているとわかりました。では、なぜセンターを替えたのか。舎利弗監督なりの根拠がありました。
「試合運びでは、先にある程度形から教えています。そこに個の力が乗ってきたら、おもしろくなりますよ。2次、3次速攻でのランニングシュートを狙うのも、そういう戦術があるので。伊藤をベンチに一度下げた場面は、打っていいところと悪いところの判断ですね。あの場面は前半の勝負どころでもあったので、交代させました。選手にはいい時もあれば悪い時もあるので、悪い時には一度ベンチで冷静にさせて、もう一度コートに送り出してあげるのも監督の仕事です」
再びコートに戻った伊藤は、力強いカットインで活躍しました。女子では貴重な得点力のあるセンターなので、今は打つべきかどうかの状況判断が整理できれば、いい司令塔になりそうです。
目指すはシンプル・ハンドボール

シンプルな強さを前面に押し出しながら、要所での判断を落とし込んでいるので、立命館大学の女子の試合は、負け試合でも見応えがありました。決めごとで縛りすぎず、かと言って野放しではありません。緩やかな枠組みがあるから、選手もチームも成長していけそうな余白が感じられます。キャプテンの4年生・近藤麻彩美は、チームの変化をこのように言っていました。
「舎利弗さんが監督になって、練習時間は90分くらいで、ダラダラしないで集中して取り組んでいます。週に一度は筋トレで、トレーナーのメニューに沿ってフィジカルを強化しています。舎利弗さんのハンドボールはシンプルです。『ここでクロスをするのは、最終的にここで強い1対1を仕掛けたいから』というように、プレーの目的がはっきりしているから、OFがやりやすいです」(下に記事が続きます)
「大学世代の強化が日本代表強く」

日本代表コーチを経験している舎利弗監督は、大学生年代の強化の重要性を痛感しています。
「この年代を強化していかないといけないし、教育が必要です。トレーニングや食事、休養といった面も含めての教育です。男子も女子も、19歳ぐらいまでは世界と互角に戦えているんですよ。そこから差がつくから、大学生年代の強化が日本代表の強化につながってきます。一足飛びに強化はできませんからね。男子の日本代表がそうだったように、少しずつですよ」
2017年にダグル・シグルドソン監督と舎利弗学コーチ体制でスタートした日本代表は、笠原謙哉(現アースフレンズBM東京・神奈川)と小賀野龍也(元湧永製薬)のダブルポストでの7人攻撃からスタートしました。発足当初の試合を見て「この7人攻撃だと点が取れそうにないな」と感じたのを覚えています。その後8年をかけて、日本代表は重厚な基礎を積み重ね、世界と戦えるだけの素地ができました。シグルドソン監督が鍛え、国際Aマッチ(代表同士の公式戦)50試合以上の経験を積んだ主力たちは、ベテランとなった今も圧倒的な存在感を放っています。当時発展途上だった笠原も、ハンドボールの原理原則を学んで日本代表のDFの柱に成長し、37歳となった今がキャリアハイと言えそうな活躍を見せています。
基礎作りの重要性を知る舎利弗学監督のもとで、立命館大学がどのように強くなっていくのか。これからが楽しみです。
舎利弗学(とどろき・まなぶ)1979年10月17日生まれ、千葉県出身。中学からハンドボールを始め、土気高校(千葉)でプレー。東海大学進学後はケガで選手を断念し、指導、分析の道を志す。東海大学大学院修士過程を卒業し、2008年には学法福島高校(福島)で女子ハンドボール部を立ち上げる。創部5年目の2012年には初のインターハイ出場を果たした。また同時期にアナリストで男子日本代表に帯同するようになり、酒巻清治監督(当時)のハンドボール観を学んだ。2015年からは日本オリンピック委員会の海外研修制度を利用して、2年間ドイツに渡る。そこでドイツ代表を率いるダグル・シグルドソン監督との縁が生まれた。2017年にシグルドソン監督が男子日本代表監督に就任した際には、コーチで呼ばれ、8年間代表の強化に携わる。2021年には東京五輪に出場。2023年10月にはパリ五輪アジア予選で優勝している。2024年春から立命館大学男子監督に就任。2026年2月からは女子の監督も兼ねる。
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