【サッカー】口を覆う選手の退場処分を提案 | FIFA会長が持論展開

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国際サッカー連盟(FIFA)が2026年6月に開かれる北中米ワールドカップを前に、大胆なルール改正を検討している。それは、口元を覆って発言した選手を退場処分にするという刺激的な案だ。混乱を生みかねない新ルールの導入をなぜ慌ただしく検討しているのだろうか。

目次

ヴィニシウス・ルール制定か

UEFAチャンピオンズリーグ・ノックアウトフェーズ・プレーオフでレアル・マドリード(スペイン)はSLベンフィカ(ポルトガル)と対戦し、2026年2月17日の第1戦に1-0、2月25日の第2戦に2-1で勝利し2試合合計3-1でベスト16進出を決めた。

第1戦で得点を決めたブラジル代表ヴィニシウス・ジュニオール(25)につっかかったアルゼンチン代表ジャンルカ・プレスティアーニ(20)が人種差別的な言動を行ったとして、第2戦は暫定的に出場停止処分となった。

ジャンルカ・プレスティアーニは人種差別的発言を否定しているが、ユニフォームで口を覆う行為が論争の的になっている。

FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長は、選手が口を覆って人種差別的な発言であれば当然、退場させられるべきとの持論を展開している。後ろめたいことを言っているから隠しているという主張である。

国際サッカー評議会(IFAB)は2月28日にウェールズ・ヘンソールで年次総会を行い、多くのルール改正を決定し、口を覆う行為についても議論したが結論は出ず継続審議されることになった。もし4月30日にカナダのバンクーバーで開催されるFIFA総会で決定すれば、2026年の北中米ワールドカップまでに新たなルール改正が行われる可能性もある。

FIFAは人種差別をなくすべくキャンペーンを展開し毅然とした態度で臨んでおり、SLベンフィカは第1戦で人種差別的行為を行ったことが確認された5人のサポーターに重い処分を科している。第2戦でも得点したヴィニシウス・ジュニオールはスター選手で度重なる人種差別行為に悩まされており、レアル・マドリードの支援のもとに訴訟を行ったことがある。有力選手をどうにか抑え込もうと相手選手やサポーターはあらゆる手段をとろうとするが、差別行為が許容されてはならない。

戦略と情報戦への影響

一方で、一律に口元を覆って発言する行為を処罰の対象にするのは、弊害をもたらす可能性がある。試合は多くの高精細カメラで撮影されており、メディアのほか、対戦相手も読唇を行い、相手チームの目論見を読み解こうと躍起になっている。Jリーグではあまり一般的ではないが、ヨーロッパの主要リーグでは選手や監督・コーチが会話をする際に口元を隠すことはスタンダードになりつつある。

もしサッカーの試合で口元を覆う行為が禁止になったら、チーム内のコミュニケーションはどのように行われるのだろうか。連携を取るために、野球のようにサインが発達するのか……。現在、サッカーで行われているサインプレーは、セットプレーの時など非常に限定的である。サッカーには定型のプレーが少なく、コード化するのは簡単ではない。

戦術やシステムの伝達は、日常使用している話し言語で行われており、秘匿したい場合は、小声で話したり口元を隠したりする程度である。それで十分であり、一番簡単なコミュニケーション方法だ。(下に記事が続きます)

相手チームへの発言が対象か

チーム内での会話は対象とせず、対戦相手や審判への発言を処罰の対象とすることも考えられる。しかし、誰に発しているかの判定基準は曖昧だ。また、対戦相手に親友がいることも珍しくなく、試合の際に親密な会話をすることもある。口元を隠せなくなると、至高の社交の場で本音を交わすことができなくなる。サッカーはエンターテインメントとしての見世物なだけではなく、人と人が交流する場でもある。対戦相手であっても選手同士が体をぶつけ合って心を通わせ友情を深める場なのだ。そのフィールドで言いたいことが言えずに、プライバシーも確保されないのであれば、サッカーの魅力を削ぐことになってしまいかねない。

違反行為を取り締まるために口元を隠せなくなると、それはまるで路上に沢山の監視カメラがあるようで、折角の社交の場が息苦しくなる。

差別行為は許されるべきではないが、同時に表現の自由やプライバシーも保護されるべきという主張があっても不思議ではない。(下に記事が続きます)

音声を全面公開しない事情

不適切な発言の証拠として録音する方法も考えられる。ピッチ周辺には集音マイクが設置されているが、サポーターの歓声やチャントなどにより掻き消されるため、試合中に選手やコーチ陣、審判団の会話が聞き取れることは稀である。

以前に「審判に装着したマイクで会話を公開したらどうか」という提案があったが、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の説明で一部が公開されることはあっても、全面的な中継には至っていない。

それは、IFABの方針によるところが大きい。まず、理由として挙げられているのは、サッカーは注目度が大きく、一つ一つの判定にフォーカスが集まると審判員に過度のプレッシャーがかかり誤審を誘発しかねないというものである。(下に記事が続きます)

サッカーとラグビーの対応の違い

サッカーの競技自体はシンプルであり、言語に依存せずともそれなりに理解や試合進行が可能だ。

一方で、サッカーと共通のルーツを持つラグビーにおいては、レフリーのマイクが拾った音が試合中に中継される。これには、ラグビー特有の事情がある。まず、ラグビーは審判が言葉を発して両チームとコミュニケーションを取ることで試合を円滑に進行するだけでなく、選手の安全を確保している。激しいフィジカルコンタクトがあり、スクラムを組むのにも一つ間違えると大怪我や深刻な事故を招きかねない。

また、サッカーと比較するとラグビーのルールは非常に複雑であり、審判が話してくれないと、一般的なファンにはフィールド上で何が起こっているのか理解不能だという状況が生まれうる。そして、エンターテインメントの観点からも審判の声を中継した方が面白いという側面もあるだろう。

試合内容のどこまでを公開して、どこまでのプライバシーを保護すべきか。これは、永遠の議題になりそうな話だ。ワールドカップを目前に控えていることもあり、解決策として口元を隠すことが禁止となるヴィニシウス法が足早に採用されることになるのだろうか。

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