【サッカー】中村俊輔氏を日本代表コーチに抜擢、森保監督の狙い

3月のスコットランド代表との国際親善試合で日本代表に帯同した中村俊輔氏=2026年3月27日、英・グラスゴー(写真・REX/アフロ)
3月のスコットランド代表との国際親善試合で日本代表に帯同した中村俊輔氏=2026年3月27日、英・グラスゴー(写真:REX/アフロ)
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日本サッカー協会(JFA)はこのほど元日本代表の中村俊輔がナショナルコーチングスタッフに就任することを発表した。2026年6月に開幕する北中米ワールドカップが目前に迫るなか、日本代表が新たに中村俊輔コーチを追加で抜擢したのには、明確な意図がある。

目次

オールジャパンで挑む決意

中村俊輔は、言わずとしれた元スター選手だ。レッジーナ1914(イタリア・セリエA)で結果を残すとセルティックFC(スコットランド・プレミアリーグ)では毎年のようにタイトルを獲得し欧州チャンピオンズリーグに出場した。そしてキャリア晩年には、RCDエスパニョールに電撃移籍しスペインでプレーするという自らの夢を実現した。

2022年に横浜FCで現役引退すると、2023年に横浜FCのコーチに就任し指導者としての道を歩み始めた。しかし転身後間もない2025年にその職を辞して、見聞を広げるためにフリーでの活動を始めた。

アンダー世代Jリーグ選抜のコーチをしたり、試合の解説者を務めたりするなかで、2026年3月の英国遠征にあわせて渡英し、サムライブルーと深く交流した。試合中継のインタビュアーとして選手と会話する以外にも、森保一監督と会食する機会を得た。そして監督直々にコーチ就任の要請を受けたのだ。(下に記事が続きます)

長谷部コーチとともに「チームの和」重視

中村俊輔は、華々しいキャリアを歩んできた一方で、20代前半でむかえた自国開催の2002年日韓ワールドカップでは、ギリギリで日本代表メンバーから落選した辛い経験もしている。

中村俊輔には、出場機会がない選手の気持ちが手に取るように分かり、その言葉には説得力が生まれる。現在の日本代表は、中村俊輔が活躍するのを観ながら育ってきた世代だ。

日本代表のコーチングスタッフの面々を見ると、森保一監督の方針が浮かび上がってくる。指導者としての経験や実績以上に、国際経験と選手との距離感が近いことを基準に人材を採用していることが分かる。

森保一監督は現役時代に日本代表の選手として活躍し、出身クラブであるサンフレッチェ広島の元同僚でもあった下田崇GKコーチをはじめ、名波浩コーチ、齊藤俊秀コーチ、前田遼一コーチ、長谷部誠コーチらはいずれも元日本代表選手だ。

とりわけ印象的なのが、長谷部誠コーチの登用だ。2024年5月をもってアイントラハト・フランクフルトで現役引退すると同時に、同クラブの育成組織で指導者としてのキャリアを始めた。その直後の8月に兼任での日本代表コーチへの就任が発表された。長谷部誠コーチと中村俊輔コーチは、海外経験が豊富で指導者に転身して日が浅いという状況がよく似ている。

日本を代表する超一流の選手たちの指導を駆け出しのコーチに任せてよいのか、と考える人もいるだろう。だが、森保一監督は、指導実績以上に人材の資質とチームの和を高めることを重視している。

長谷部誠コーチは、現役時代から根っからのキャプテンシーを持ちあわせていた。そして、中村俊輔コーチは配慮の人で、横浜F・マリノスではキャプテンとしてチームをまとめ上げてきた。さらにその気配りはサポーターや報道陣にまで及び、現役時代から有能なリーダーの資質を見せていた。和を重んじる姿勢は、森保一監督の指導スタイルにも通ずるものがある。(下に記事が続きます)

選手の飛躍に遅れをとる日本人指導者

現在の現役選手は、Jリーグが発足後に競技生活を送り、指導者になったJリーグ世代の指導を受けている。コーチングのレベルが上がり、世界での経験を知る者も出てきた。それが、長谷部誠であり、中村俊輔なのだ。

このような若手指導者の大抜擢には、現在の日本代表だけではなく、将来の日本代表の強化まで念頭に入れていることが考えられる。森保一監督のこれまでの選手選考にもその兆候は見てとれる。主力選手のほかにも若手有望株も招へいして経験を積む機会を提供してきた。

選手レベルでは、欧州主要リーグに渡る日本人選手は年を追うごとに増えており、リヴァプールFCの遠藤航、アーセナルFCの冨安健洋(現アヤックス・アムステルダム)、FCバイエルン・ミュンヘンの伊藤洋輝などビッグクラブで活躍する選手も出てきた。

日本代表選手は、どんな強豪チームと対戦しても臆するようなことはなくなり、世界水準に達しつつある。しかし、現役選手が指導者になるまでには時間のサイクルを要する。日本人指導者の国際経験は、選手のそれと比較して乏しいと言わざるを得ない。

日本国内のサッカーのレベルはJリーグが創設されて格段に上がったが、欧州主要リーグの進化も著しく、世界との格差は埋まっていない。

世界レベルへは「壁」

Jリーグと世界の主要リーグには歴然とした格差があり、Jリーグの底上げもあわせて必要だ。

選手同様に指導者も欧州のクラブで活躍する者が出てくるのが理想だが、これまで欧州の主要リーグで結果を出した日本人監督は皆無だ。第一号として最も可能性が高いのが、森保一監督。日本代表の国際的な評価は高く、欧州クラブからオファーが届く可能性はあるだろう。しかし、これは必ずしも日本代表の育成ではなく、日本代表が育てた人材が欧州サッカーの強化に向かうという図式になる。

世界と日本のコーチングの水準には、まだ大きな開きがある。日本の指導者の資質は高いが、世界レベルの経験が乏しいことに尽きる。言語や文化の壁も大きい。ほかにも見えない壁が存在すると考える必要がある。

リヴァプール大学のサム・ホーイ博士らの研究は、興味深い数値を示している。イングランド・プレミアリーグの選手の40%以上、イングランド・フットボールリーグ(EFL)の選手の約35%がアフリカ系で、さらにUEFAコーチングライセンス保有者の25%はアフリカ系が占めているにもかかわらず、監督職に占めるアフリカ系の割合は4%に過ぎない。4%は、英国全体に占めるアフリカ系の割合とほぼ同じだ。さらにはアフリカ系の指導者は解任されやすいというデータもある。

ヨーロッパにおいて、社会的・文化的に接点が希薄で言語も異なるマイノリティーである日本の指導者にチャンスが与えられる可能性は、さらに低いのが現実だ。日本人選手が世界で認められるようになった現在、日本サッカーの次なる課題は、世界的に認められる日本人指導者を輩出することにある。

強豪国は、指導者のレベルも高い。森保一監督が積極的に若手指導者を登用する理由は、大局を見据えた日本サッカーの発展にある。

中村コーチ「日本代表選手と志を同じに」

中村俊輔氏のコメント:このたび、スタッフの一員として日本代表コーチを務めさせていただくことになりました。ワールドカップ本大会を目前に控えた重要な時期に自身が加わることによる影響について慎重に考えましたが、森保監督から熱く力強いお言葉をいただき、お引き受けする決意をいたしました。世界で戦う日本代表選手たちと志を同じにし、チームが掲げる目標の達成に貢献できるよう努めてまいります。

中村俊輔氏(なかむら しゅんすけ)

  • 生年月日:1978年6月24日
  • 出身地:神奈川県
  • 選手歴 ※所属名は加入当時の名称
    • 1994年~1997年 桐光学園高
    • 1997年~2002年 横浜マリノス
    • 2002年~2005年 レッジーナ(イタリア)
    • 2005年~2009年 セルティック(スコットランド)
    • 2009年~2010年 RCDエスパニョール(スペイン)
    • 2010年~2016年 横浜F・マリノス
    • 2017年~2019年 ジュビロ磐田
    • 2019年~2022年 横浜FC
  • リーグ戦成績
    • J1リーグ 408試合出場73得点
    • J2リーグ 16試合出場1得点
    • イタリア/セリエA 81試合出場11得点
    • スコットランド/プレミアシップ 128試合出場29得点
    • スペイン/ラ・リーガ 13試合出場
    • 日本代表 国際Aマッチ98試合出場24得点、FIFAワールドカップ2006、2010出場
  • 指導歴:2023年~2025年 横浜FC コーチ
  • 資格:2025年 JFA Proライセンス 取得

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