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【ハンドボール】豊田合成OB主体のアブレイズ。意識高い「大人のクラブ」

懐かしい顔ぶれが揃うアブレイズ=2025年7月、久保写す(以下すべて)
懐かしい顔ぶれが揃うアブレイズ=2025年7月、久保写す(以下すべて)
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リーグHの歴史ある名門チームには、OBチームがあります。豊田合成ブルーファルコン名古屋のOBチームはアブレイズ。2022年創設と歴史は浅いのですが、現役引退後も意識高くハンドボールに取り組んでいます。また合成OB以外にも門戸を開放し、トップゾーンを体感したい30代の選手を受け入れています。

目次

野田祐希ら懐かしい名前

藤戸量介のボクサーのような構え、俊敏な動きは健在。7mスローの強さも現役時代と変わらず
藤戸量介のボクサーのような構え、俊敏な動きは健在。7mスローの強さも現役時代と変わらず

豊田合成ブルーファルコン名古屋のOBチームであるアブレイズは、2022年にできました。チームを立ち上げたのは野田祐希(37)。「ノッチ」の愛称で親しまれた、トリッキーなセンターです。野田の他にも、歴代屈指の名キャプテンだった中村晃己、クイックシュートが武器の左腕・今村彰伸、GKの藤堂聖二など懐かしい名前が登録されています。2024年まで現役だった藤戸量介(現・豊田合成ブルーファルコン名古屋GKアシスタントコーチ)は、GKでバリバリ試合に出ています。2025年2月の全日本社会人チャレンジでは、アブレイズが優勝しました。

司令塔・野田ありきの7人攻撃

野田の判断力があるから、アブレイズの7人攻撃は美しい
野田の判断力があるから、アブレイズの7人攻撃は美しい

アブレイズのハンドボールは、センター野田がパスをさばく7人攻撃が特徴です。「7人攻撃で運動量を減らして、体力の消耗を防ぐのが狙いです」と、野田は笑っていました。とはいえ、この7人攻撃は野田の判断力がないと成立しません。ポジションチェンジをせずに、野田の速いパス回しだけでプラス1(1人余った状態)を作り出します。 

真ん中にいる野田が3枚目DFの間に潜り込みながら、両方のピヴォットにバウンドパスを出します。ピヴォットと2対2をやりながら、隣の両バックにアウトスペースを割らせます。飛ばしパスを出して、両ウイングに打たせることもあります。とにかくセンターの野田の判断とパス回しが芸術的なのです。一度見たら「これが7人攻撃なんだ」と衝撃を受けること間違いなし。あくまでも個人的な見解ですが、7人攻撃と言えばフェロー諸島代表かアブレイズ。7人攻撃のパスさばきならエリアス・エレフセン(フェロー諸島)か野田祐希。現役時代にほとんど7人攻撃をやっていなかった野田ですが、7人攻撃の統率力に限ればワールドクラスです。 

合成OB以外、西村勇志らも加入

新加入の西村勇志は、リーグH勢に負けない体格の持ち主
新加入の西村勇志は、リーグH勢に負けない体格の持ち主

2025年7月の社会人選手権で取材すると、アブレイズに新たなメンバーが増えていました。合成のOBではなく、体格のいい選手が加わっていました。西村勇志は大同高校(愛知)~名城大でプレーしていた本格派で、身長185㎝の肉体派ピヴォットです。腰のケガもあって日本リーグ入りは断念しましたが、愛知のクラブチームDBCでプレーを続けていました。アブレイズに加わったのは2025年から。合成OBの長江光将に誘われたのがきっかけでした。

「中学の先輩だった長江さんから『もっと高いレベルでやってみないか』と誘われて、アブレイズでプレーするようになりました。今までは試合の日だけプレーしていましたが、アブレイズは平日の練習もあるし、学生時代に戻ったような気分ですね。週1日、2時間だけの練習ですが、内容が濃いしレベルも高いので、集中力が求められます。7人攻撃では、とにかくセンターの野田さんから目を離さないよう意識しています」 

大崎オーソル埼玉戦では、野田からのポストパスをもらうだけでなく、野田からライトバックの長江を経由してのポストパスにも対応していました。ピヴォットらしいターンと2対2の戦術理解があるからできる、高度なプレーです。ですが西村は「実業団にフィジカルで対抗できるよう、ジムで鍛えてきましたが、まだまだ足りません。相手のDFに被られるってことは、僕がいい位置を取れてないからです」と反省していました。35歳にして、再びトップゾーンと対戦できる喜びが、西村を成長させているようです。

7人攻撃、長江光将が左利きレフトバック

左利きの長江光将が、レフトバックでアウトスペースを割る
左利きの長江光将が、レフトバックでアウトスペースを割る

社会人選手権2日目の安芸高田わくながハンドボールクラブ戦で、アブレイズは奇策に出ました。左利きの長江をレフトバックに置く7人攻撃を仕掛けてきたのです。試合の流れのなかで、左利きがレフトバックに入る時間帯はありますが、7人攻撃でポジションチェンジもせずに、左利きがレフトバックに固定されるのは、見たことがありません。試合後に野田に取材すると「やっぱりここが聞きたいですよね」とにっこりしながら、左利きレフトバックの意図を話してくれました。

「左利きの長江をレフトバックにする7人攻撃は、昨日のミーティングで決めました。今まで練習してはいないけど『試す価値はあるだろう』と、みんな納得して取り組んでくれました。長江もこちらの意図どおり、アウトを割って得点してくれました」

確かに左利きがレフトバックに入れば、アウトに行ったときに利き手である左手がずれやすくなります。難しそうに見えますが、右利き右バックと理屈は同じです。利き腕がずれやすくなる以外にもメリットがあると、野田は言います。

「7人攻撃で、センターの僕が前を狙いながらレフトバックへパスを出そうとすると、パスの勢いがどうしても弱くなります。レフトバックがワイドな位置を取っていたら、緩いパスを相手にカットされるリスクが出てきます。そこでレフトバックが僕の近くに位置を取って、パスをもらいながらアウトに動けば、パスカットされるリスクを減らせます」 

これは7人攻撃ならではの発想です。センターの野田が常に前を狙って、左肩をゴールに向けた状態であることが、7人攻撃の大前提。DFの間が広ければ、いつでもステップシュートが打てるし、ピヴォットにもバウンドパスを通せる体勢です。ただ左肩を入れたままだと、レフトバックへのパスが肩越しになって、長いパスを出すのが難しくなります。そこで左利きレフトバックの長江をセンターの近くに置いて、パスをもらいながらアウトへ移動させるのです。この理屈をわかって、練習なしで表現できるあたりは「大人のクラブチーム」です。 

30代半ば、いい選手に成長

現役時代はピヴォットだった田形勇太。アブレイズではGKに転向して活躍中
現役時代はピヴォットだった田形勇太。アブレイズではGKに転向して活躍中

レフトバックに入った長江も「練習はしていないけど、戦術の意図を理解して、アウトを割れました」と話していました。長江は豊田合成での現役時代、身体能力は高いけれど、レギュラーを獲るには至りませんでした。本人も「若い頃は、ただ身体能力に任せてプレーしていましたね」と言っています。それが現役を引退し、30代半ばになってハンドボールへの理解度が高まり、いい選手に成長しました。長江の他にも岡山健太、廣澤勇利、田形勇太など、現役時代よりもハンドボールが上手くなっている選手が何人もいます。合成OBではない西村、中村領佑、加藤沙稔らも成長しようと必死です。 

「人間的成長」「勝つこと目標」

仕事とハンドボールの両方に打ち込む野田。「今一番欲しいのは時間」と言っていた
仕事とハンドボールの両方に打ち込む野田。「今一番欲しいのは時間」と言っていた

アブレイズの立ち上げ当初、チームを作った理由のひとつに、野田は「人間的成長」を掲げていました。「OBが楽しく集うクラブチームに、それはちょっと大げさじゃないの?」と思って聞いていましたが、時が経ち、選手が成長する姿を目の当たりにして、こちらも考えが変わりました。野田は言います。

「会社員になると、趣味も目標も人それぞれ。ひとつの目標に向かって全員がひとつになる機会はほぼありません。アブレイズでは勝つことを目標に集まっています。週1回、2時間だけの練習に集中するのはもちろんのこと、あとの時間を使ってどう成長するかは、自分次第です」

そういう意識で集まっているから、リーグH勢を相手にも、内容のある試合ができるのでしょう。試合は26-42で敗れましたが、安芸高田わくながハンドボールクラブの稲毛隆人監督は「ウチは体力で勝っただけ。ハンドボールの質、理解度では完敗です」と、アブレイズを称えていました。

国スポ成年男子の愛知県代表に選出

2025年の国民スポーツ大会(国スポ)では、愛知県の成年男子チームに、アブレイズの選手が数多く選ばれています。8月23、24日の東海ブロック予選では、愛知県は3連勝で予選を1位通過。10月に行われる「わたSHIGA輝く国スポ2025」に出場します。滋賀県の彦根市で行われる本大会でも、鮮やかな7人攻撃が見られるでしょう。

野田祐希(のだ・ゆうき) 1988年3月23日生まれ、愛知県名古屋市出身。現役時代の身長体重は173cm73kg。愛知高(愛知)から中京大を経て、2010年に豊田合成ブルーファルコンに入団。センターとレフトウイングで活躍した。2020年限りで現役を引退し、社業に専念。2022年には豊田合成のOBチーム「アブレイズ」を立ち上げた。

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