世界的な強豪、パリ・サン=ジェルマン(PSG)のハンドボールチームが今年も来日し、2025年8月19日、20日にプレシーズンマッチを戦いました。19日はジークスター東京相手に36-35。20日は日本代表を相手に30-23。スコア以上の凄みを見せつけて、東京の代々木第一体育館に詰めかけたファンを沸かせました。
夏の代々木の風物詩

2023年からスタートしたパリ・サン=ジェルマンジャパンツアー。始まった当初は「パリ・サン=ジェルマン? サッカーが来るの?」という人も多かったようですが、3回目の今年は「ハンドボールの一大イベント」として定着した感がありました。初日のジークスター東京戦の入場者数は7,939人。代々木第一体育館の最上段までお客さんで埋まって壮観でした。2日目の日本代表戦は6,566人でしたが、PSGの旗で観客席が埋め尽くされて、PSGのゴーディンは「ホームで試合しているような雰囲気だった」と喜んでいました。
新人GK大山悠伍の活躍

試合を軽く振り返っていきましょう。初日のPSGージークスター東京は、ハイスコアな点の取り合いになりました。取って取られての展開になりかけたところを引き締めたのが、ジークのGK大山悠伍でした。2番手で出てきて、後半途中にPSGの左腕マラシュのミドルシュートを両手でキャッチ。日本人のシュートが両手で捕られるのは、国際大会でよくあることですが、相手のシュートを日本人GKが両手でキャッチするシーンは珍しく、これまでになかったことです。
「あの場面はDFがコースを消してくれていたから『ここしかない』と思って捕りに行けました。世界の大型選手のシュートにも対応するために、しっかりと腕を上げることを意識しています」
大山は身長183㎝で、世界に行くと「小柄なGK」です。それでも筑波大学時代から「世界で勝負できるGKでありたい」と、意識高く取り組んできました。その成果が、今回のPSG戦で表れたのかもしれません。2025年4月に加入したばかりの大山のことを、佐藤智仁監督は「若いけど大御所感がある選手」と評していました。若くして場数を踏んできた落ち着きが、彼の強みです。 (下に記事が続きます)
中村翼、1点の重みを痛感

試合は終盤まで1点を争う展開になりました。後半28分45秒のタイムアウト明けに、ジークの伊禮うたがカットインを決めて35-36の1点差に迫ります。残り1分を切って、ジークは高橋のパスカットから中村翼が速攻に走りましたが、GKルヴクヴィストにシュートを防がれ、同点ならず。PSGが逃げ切りました。
中村は「普段から佐藤監督に口酸っぱく言われている『勝負どころでの一本』を決め切れなかったのが、自分の甘さ。こういうことをしていたら、去年の二の舞になる」と、反省しきりでした。プレーオフや日本選手権でファイナル進出、優勝するためには、こういう「際(きわ)の一本」を決めたいところです。とはいえ、1対1に強い中村は、途中までいい動きを見せていました。ライトバックから真ん中にポジションチェンジして、3枚目に1対1を仕掛けて抜く場面は、中村のよさが凝縮されていました。 (下に記事が続きます)
207cmシプシャク、基本に忠実

佐藤監督は接戦を振り返り「スコア上は1点差だったけど、基本の練度の差は明らか」と、課題を口にしていました。PSGの大砲プランディを最後まで止めきれず、12/12とやられました。ライン際も、207㎝のピヴォット・シプシャクらに制圧されました。シプシャクは長身を生かしたスクリーンプレーだけでなく、スペースへスライドする動きも上手でした。シプシャクは「普段のトレーニングから、よい習慣をつけるよう意識しているよ」と、スライドプレーの話をしていました。ただ大きいだけでなく、確かな技術と戦術理解があるのです。
DFを整備してきたPSG

翌20日の日本代表戦では、PSGのDFの強度が上がっていました。前日にライン際でいい働きを見せていたキャプテン・橋本明雄(ジークスター東京)がピヴォットで入ると、ライン際でもみくちゃにされていました。世界のトップが本気を出したら、まずはピヴォットを潰しにかかります。DFを整備したPSGが、前半17分過ぎから前半終了まで日本代表を無失点で抑えました。前半終わって日本は9-19と苦境に立たされます。
23歳にしてPSGの3枚目を守るペレカは「日本はスピーディーだから、スペースを与えないよう、隣の人と一緒に守る。戻りも意識した。ルカ(・カラバティッチ)やマチュー(・グレビル)といったベテランから習って、DFが上達したよ」と話していました。正しい技術やメンタリティが、ベテランから若手に受け継がれていく――。強いチームのあるべき姿です。 (下に記事が続きます)
ベテラン岩下祐太「日本代表とは何か」示す

後半に入って日本は、GK岩下祐太(ジークスター東京)に当たりが出てきました。岩下のセーブしたリバウンドを、初代表の中村璃玖(大同フェニックス東海)が拾ってマイボールにすると、ベンチが盛り上がります。岩下は「あの場面は僕ではなく、中村の働き」と、後輩をたたえていました。中村は「大同ではベンチから近い側での出場が多いけど、代表ではベンチから遠い側での出場で、2枚目DFにも入るので、チャレンジする姿勢を示したかった」と言います。有言実行のリバウンドでした。
一方で、岡田広規(大同大学)、中沖仁希太(日本体育大学)の若い3枚目が2対2で崩された場面では、岩下が前に詰めてポストシュートを枠外に追いやりました。「DFの調子が上がるまでは、GKがカバーする。自分が助けようと思っていました」と言えるあたりは、さすがベテラン。「後半はDFが機能するようになり、GKと噛み合ってきた」とも、岩下は言っていました。こういった信頼関係は、去年の日本代表にはなかった部分です。
国際経験を積むことが大事

日本代表のトニー・ジローナ監督は「後半は集中してDFできたし、岩下のナイスセーブで失点を防げた」と、後半の出来にはある程度納得している様子でした。この日両チーム最多の8得点を挙げたセンター・藤坂尚輝(大同フェニックス東海)については「8点を取ったが、5本シュートを外して、3回ボールを失っている。ポテンシャルは高いが、DFやゲームコントロール、チームを統率するといった部分で、改善の余地がある」と、一つ上の要求をしていました。 (下に記事が続きます)
大きい相手に慣れる

2024年8月のPSG戦が、ジローナ監督にとって日本代表での初采配でした。2025年1月の世界選手権では32カ国中28位と悔しい思いをしましたが、就任から丸1年たって、世界レベルに順応してきた選手が何人か見られました。ライトウイングの中田航太(レッドトルネード佐賀)は、2本の7mスローと速攻を当たり前のように決めていました。「世界選手権で大型のGKに止められて、自分のなかで考えた結果、世界が相手でも『自分のシュートを打つ』ことに行きつきました」と、中田は言います。GKの大きさに惑わされることなく、中田の持ち味である「最後まで流しか引っ張りか読めない」シュートフォームで打てば、世界のトップ級が相手でも入るのです。大型GKへの慣れは、国際経験を積むしかないでしょう。
ジローナ監督も「今回代表に参加しなかった選手も、海外のチームとのプレシーズンマッチを経験している。日本人選手が国際経験を積むことは、代表にとって大きなプラスになる。もっともっと経験を積むべきだ」と、長期的な目で見ていました。国内にいながらにして、世界のトップゾーンに触れられるPSG戦は、日本の強化にも役立っています。

ペンスポニュースレター(無料)に登録ください
スポーツ特化型メディア“Pen&Sports”[ペンスポ]ではニュースレター(メルマガ)を発行しています。「へぇ」が詰まった独自ニュースとスポーツの風を届けます。下記のフォームにメールアドレスを記入して、ぜひ登録ください。
\ 感想をお寄せください /