2024年11月24日のイタリア・スーペルレガ第9節は、ミラノがホームで、今季負けなしの首位ペルージャと対戦した。ミラノは、ペルージャの石川祐希(28)が昨年まで4シーズンに渡って所属した古巣。現在は日本代表の後輩である大塚達宣(24)が石川と入れ替わりで今季から加入し、スーペルレガに挑戦している。3か月前、イタリア到着直後に行った単独インタビューでは、満面の笑顔で毎日が楽しいと語った大塚はどのように変わったのだろうか。約9,000人の観客を動員した一大決戦の舞台裏をリポートするとともに、大塚の近況にも迫った。
日本人対決に特別ツアー、練習見学パックも
石川が昨季まで4シーズン在籍したミラノは、日本人選手のすさまじい人気ぶりを熟知している。日本人対決の機会を見過ごすはずはなく、Attacchi dei Giganti del Volley(バレーの進撃の巨人)と名付けたプロモーションを行った。ボールを押し合う両選手のデフォルメイラストは、SNSなどでも大きな話題になった。
日本発着としては出発まであまり期間がなかったが、1か月前に公式SNSで試合観戦ツアーの募集告知投稿を行った。さらに現地参加型の「Special Forum Experience Pack」では、練習見学やチームとの写真撮影、優待席での観戦チケット、特別Tシャツを含む記念品をプレゼントした。試合当日のペルージャの練習見学も可能であったため、このツアーとパックに申し込んだファンにとっては二重の喜びとなった。
試合に注目していたのは所属チームと日本人ファンだけではない。イタリアを代表するスポーツ紙ガッゼッタ・デッロ・スポルトでは試合当日の紙面で「サムライダービー」と銘打ち、石川と大塚のインタビューや過去の対戦結果を盛り込んだ記事を片面の半分を使って掲載した。日本人選手2人の対戦が世界最高峰リーグでこれだけ取り上げられることに、イタリア在住ライターとしてもとても誇らしく思った。(下に記事が続きます)
片道6時間、ペルージャ応援団は200人
今季から敵チーム所属とはいえ、石川は4シーズンをここミラノで過ごした。2022-23シーズンはプレーオフ準々決勝でレギュラーシーズン全勝のペルージャを打ち負かし、2023-24シーズンはチーム初のCEV欧州チャンピオンズリーグ出場権獲得へ導いた立役者だ。ミラノファンの心には「ユーキ」への愛が根強く残っているのも無理はない。
実際、2階角に横断幕を掲げたミラノ応援団・Curva Biancorossaでは「コートの逆側にいてもユーキは特別な存在」と石川への慕情が漏れたが、大塚にも期待を寄せるコメントが相次いだ。石川がミラノにやってきたのは今の大塚と同じ年齢の24歳のとき。これからの成長につれて、大塚も愛される存在になるに違いない。
コートを挟んだちょうど反対側には、試合開始前から大賑わいのペルージャ応援団・Sirmaniaci が陣取る。「この2年はしてやられたことも多いが、今はユーキもロセルも俺たちのもんだからね!」としたり顔だ。
ペルージャからの片道6時間の長旅もなんのその。試合前から太鼓、メガホン、巨大な横断幕でホームさながらの盛り上がりだ。会場で配られるミラノカラー青白のモンスターブロックパネルは使わず、ペルージャカラー赤のパネルを持参するなど抜かりがない。
ワンポイント起用の大塚、盛り上げ役に徹する
皆が心待ちにしていたスターティング・シックスの発表では、両チームのファンの感情があからさまに露呈した。ペルージャOHではまず16番のセメニウクのコール。次に待ちわびた14番ではなく17番のプロトニツキがコールされた時は、彼に同情してしまうほどの静けさとなった。ミラノでも同様に大塚はスタメン起用ならず。両選手ともセット途中のワンポイント起用で同時にコートに立つことはなく、日本人対決は絵に描いた餅となった。
しかし、コート外の大塚はいい意味でとても目立っていた。8月のインタビューで聞いた、円陣でのコール担当も継続している。コートのチームメートに声援を送るだけでなく、タイムアウト後やセット開始前には誰よりも早くコートに戻り、プレーする選手に声がけとタッチでエネルギーを注ぎ込む。そして同じ控えの選手たちとも絶えず言葉を交わし、何とも言えないニコニコの笑顔が輝いていた。
いきなり生やしたヒゲの意味は?
試合は第3セットまで接戦だったものの、結果は1-3でペルージャに軍配が上がった。しかし試合後も熱は冷めやらず、写真やサインを求めるファンがコートエンドにあふれかえる。コート取材でもイタリア国営放送RAIや日本のTV局など取材陣と関係者が入り乱れたが、そんな中、大塚に話を聞くことができた。
「毎日が楽しくてたまらない」と言っていた前回インタビューから3か月、生活リズムや気持ちは基本的にほとんど変わっていない。しかし腹筋の肉離れで1か月半プレーできなかった期間は「いろいろありましたけど」と前置きしたうえで、「回復に向けて全力で尽くしてくれたチームと仲間のサポートのおかげで前向きに過ごせていた」と言う。コミュニケーションもイタリア語の割合が増え、バレー用語はほぼイタリア語になっているそうだ。
ヒゲを生やし始めたのはリハビリ中の心境と関係があるのかと聞いてみたが、答えはノー。「11月にヒゲを生やすのが男性特有のガンに対するキャンペーンになると知ったんです。そんなのがあるんだったらヒゲを生やす月もあっていいかな、って」
Mo=口ひげと、November=11月をかけ合わせた”Movember”と呼ばれる啓発運動なので、12月になればこのヒゲは剃ってしまう予定だとか。残念ながら「ヒゲのタツ」もあと数日で見納めだ。(下に記事が続きます)
ピアッツァ監督「タツの力、こんなものではない」
最後に、ミラノのロベルト・ピアッツァ監督に大塚について尋ねた。ピアッツァ監督は、2028年ロサンゼルス五輪に向けてアジアで日本のライバルとなる男子イラン代表監督に就任することが決まっている。
「シーズン前に故障してから初めて先日の欧州チャンピオンズリーグで起用したが、タツ(大塚)なしでは勝てない試合でした」とその実力を評価した。しかしまた少し症状がぶり返したため、この試合では後衛のワンポイント起用にとどまった。
「ユーキも言っていたように、タツの力はこんなものではない。早く100%に戻ることを願っている。チームには彼の力が必要ですからね」と締めくくった。
ミラノは現在リーグでは6位につけ、初出場の欧州チャンピオンズリーグでも2戦2勝と調子をあげている。大塚の完全復活が、更なる躍進のカギとなるだろう。
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