エジプトのタラート「底知れない」

「今回はたまたま僕が得点王(5試合で59得点)と男子のMVPをもらいましたが、世界のナンバーワンプレーヤーはエジプトのマグディ・タラートです。今回は車いすを低くして、GKフォルムになっていました。得点力なら、僕も負けないだけの自負はあります。それでもGKでのセービングも含めた総合的な支配力は、彼が一番です。2年前より成長していて、底知れないプレーヤーだなと感じました」
「おこがましいかもしれませんが、僕が世界で戦う間は、ずっと彼を意識してプレーしないといけないでしょう。どの国にもエースと呼ばれる選手がいて、そのエースがどれだけ活躍できるかが勝敗に直結すると、今回改めて感じました」
原点は佐藤誠司先生
2年前の世界選手権では、日本の得点は諸岡と森谷の2人だけに偏っていた。今大会はプレータイムを分け合いながら、得点もいい具合に分散している。
「前回は『僕が点を取らなきゃ』と気負っていました。今回はみんなへの信頼感もあって、パスを出せるようになりました。(伊藤)優也や(小貫)怜央にも信頼してパスを出せたのは、チーム力が上がった証拠です」
「周りの動きがよくなったから『こう動けば、相手もこう動いてくるだろうから、こういうパスが効くよね』という共通理解ができてきました。僕の頭の中にあった、健常者の7人制のプレーとイメージがかなり近くなって、パスにも余裕が出てきました」
「僕のパスの原点は、明星中学(東京)の佐藤誠司先生(現・明星高校女子監督)です。佐藤先生は両利きのセンターで、練習から両手でノールックのパスを繰り出して『ここを狙えば、ここが空くから、こうやってパスを出すんだよ』と教えてくれました。世界選手権のあとご挨拶に伺ったら、佐藤先生は『俺が教えたパスをやってたじゃないか』と言っていましたね。ボールを片手で自由に扱えるスポーツだから、ハンドボールはおもしろいパスを出せます。佐藤先生に教わった自由なハンドボールが、車いすの世界選手権でも出せたかな」
故・木野実さん「君なら世界で活躍」

「日本車椅子ハンドボール連盟の会長だった木野実さん(元湧永製薬・故人)にもお世話になりました。もう直接感謝を伝えられませんが、木野さんが何度も世界に出向いて、世界選手権であったり国際ルールの整備をしてくれたから、こうして日本代表も世界選手権に出場できています。『君ならきっと世界で活躍できるよ』と声をかけてくれたのも木野さんでした。お亡くなりになる前にも、電話で『これからきっと車いすハンドボールが大きくなるから、腐らずに続けるんだぞ』と言っていただきました」
「木野さんだけでなく、多くの人たちにつないでもらった道だからこそ、日本の車いすハンドボールを取り巻く環境をもっと良くしていくことが、結果を出した僕らの次の課題だと思っています。僕らが途切れさせてはいけないと、強く感じています」
勝利への貪欲な姿勢

対戦国から学ぶところもあったと、諸岡は言う。
「前回僕らがエジプトに負けた時、エジプトの選手が泣いて喜ぶ姿を見て、競技に対する熱量だったり、生活をかけたハングリーさを学びました。ラフなプレーもありますが、それも勝利に対する貪欲さの表れです。『スポーツは勝ち負けだけではない』というのはもちろんありますが、世界選手権のような場では、勝利に対してどれだけ貪欲な姿勢を見せられるかが、すごく大事になってきます」
「今回はキャプテンの森谷さんが『闘争』というキーワードを打ち出していました。英語で言うと『struggle(もがき苦しみながら奮闘する)』。森谷さんは不器用なところもあるけれど、 こちらが思っている以上にみんなのことを考えています。今大会でも『俺は戦いに来ているんだ。チームに闘争を求めているんだ』と言っていました。前回のエジプトが見せたような姿勢を、彼なりに見せようとしていました。それでいて森谷さんは、熱くなってもプレーの質が落ちることはありません。チーム全体が戦う姿勢になれたのは『闘将・森谷』のおかげです」
次こそ金メダルを

「世界選手権は闘争です。決勝のスペインがまさにそうでした。第3セットの残り10秒ほどで、スペインのロレンソ・エンボ・エジャンが退場になってまで僕を止めに来ました。冷静な選手であれば、最後まで退場しないでコートにいることがエースの仕事だと思うでしょう。でも彼は違いました。相手を削って、退場になってでも止めに来たあの執念は、やはり闘争だなと感じました。そういう闘争に勝って、2年後には金メダルを獲(と)れるよう、僕たちもさらに積み重ねていきます」
諸岡 晋之助(もろおか・しんのすけ) 1994年6月19日生まれ、東京都出身。明星高(東京)-明星大とハンドボール部に所属していたが、20歳で交通事故に遭い、右手と左足に障がいが残った。その後、東俊介さん(元・ハニービー石川監督)の紹介で、宮城フェニックスの車いすハンドボール体験会に参加。車いすハンドボールを始めるきっかけとなった。また車いすバスケットボールでは東京ファイターズB.Cに所属し、チェアスキル(車いす操作の技術)を磨いた。車いすバスケの2023年度強化指定選手に選ばれている。車いすハンドではKnockü SC新宿に所属。2026年第4回IHF車いすハンドボール世界選手権では、日本ハンドボール界初の銀メダルを獲得。得点王(5試合で59得点)と男子MVPも受賞した。障がいの持ち点は、車いすバスケでクラス3.5。車いすハンドでクラス4。
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