2024年夏に開かれる伝統の自転車レース、第111回ツール・ド・フランスのコースがパリ五輪の影響で様変わりする。「ツール・ド・フランス」を直訳すれば「フランス一周」だが、2024年はそうはいかなくなった。例年7月に3週間に渡って開催されるツール・ド・フランスは来夏、パリ五輪の時期と重なるため、日程が1週間前倒しされ、史上初めて隣国イタリア・フィレンツェからスタート。フィニッシュも史上初めてパリではなく、地中海沿岸のニースとなる。
111年目にして初のイタリアスタート
2023年10月25日、パリで開かれたコースプレゼンテーションで全21ステージ総距離3492キロのコース全容が明らかになった。
2024年のツール・ド・フランスは6月29日から7月21日まで開かれる。その5日後にパリ五輪が開幕する。大会主催者は、ツール・ド・フランスの開幕地がイタリアになるのは、1924年にオッタヴィオ・ボッテッキアが、イタリア人として初めてツールで総合優勝してから100年目になるのを記念したものだとうたっているが、実際はパリ五輪・パラリンピックの影響を直接的に受けるためのコース移転となる。
パリ五輪・パラリンピック大会組織委員会の要請により、人や物資の輸送寸断を回避するために、ツール・ド・フランスがまるごとパリ五輪に押し出された格好だ。開幕からの3日間はイタリア国内を走行し、途中では小国サンマリノにも入国する。
最終日、35年ぶり「ガチ」レース。タイムトライアル実施
2024年のツールで特徴的なのが7月21日の最終ステージが、35年ぶりにモナコからニースまでの34キロのタイムトライアル(TT)となることだ。ツール・ド・フランスの慣例では前日までにマイヨ・ジョーヌ(総合優勝)が事実上決まり、最終日はノンアルコールのシャンパンを飲みながら走行したり、肩を組みながら自転車を走らせたりする「お祭り」色が強いが、2024年は最終ステージまで「ガチンコ」レースの様相だ。ツール・ド・フランスでは1989年以来、最終日の総合逆転は起きていないが、2024年はその可能性があり、波乱もありうる。
ツール・ド・フランスは1989年にシャンゼリゼ大通りで競われた最終日の個人タイムトライアルで、マイヨ・ジョーヌをまとった地元フランスのローラン・フィニョンが、米国のグレッグ・レモンに逆転負けを喫した。その差はわずか8秒だった。
フランス人にとっては忌まわしい歴史と語り継がれており、そのため長らく最終日に個人タイムトライアルを実施しなくなったと言われている。開催国フランスは、1985年のベルナール・イノー以来、母国の優勝者が出ていない。
ツール・ド・フランスといえば、別府史之さん
Pen&Sports編集長の私にとってツール・ド・フランスといえば、別府史之さん(40)である。2009年に日本人初のツール・ド・フランス完走者の1人となり、第21ステージでは日本人初の敢闘賞を獲得。北京五輪、ロンドン五輪にも出場し、2021年シーズン終了で引退した。
朝日新聞記者になって3年目の2004年秋だった。広告会社から転職後、支局から東京本社スポーツ部に異動してまもなく、私は別府さんのことをコラム「ひと」欄で書いた。「ひと」は読者の注目度が高いコラムである一方、社内での競争率も高い。私が書いた初めての「ひと」の記事だった。
別府さんは当時21歳。ツール・ド・フランスで6連覇したランス・アームストロング(米)が所属した世界最強チームの一つ、「ディスカバリーチャンネル(旧USポスタル)」から白羽の矢を立てられ、国内チームのブリヂストンアンカーから移籍した。
自転車ロード界に、そんな日本人選手はかつていなかった。デスクに「野球で言えば、メジャー移籍です」と、原稿を売り込んだことを覚えている。そんな別府さんが人生の目標だったツール・ド・フランスに2009年、実際に出場し、日本選手として初めて完走し、第21ステージではパリ・シャンゼリゼで粘り強く逃げて敢闘賞を獲得した。取材して記事にした選手が数年後、夢をかなえる瞬間に巡り合い、スポーツ記者の醍醐味を感じさせてくれたアスリートの一人だった。
ツール・ド・フランス2024のルート
日 | ステージ | 出発~到着 | 距離 | タイプ |
---|---|---|---|---|
6月29日 | 1 | フィレンツェ-リミニ | 206km | 丘陵 |
6月30日 | 2 | チェゼナティコ-ボローニャ | 200km | 丘陵 |
7月1日 | 3 | ピアチェンツァ-トリノ | 229km | 平坦 |
7月2日 | 4 | ピネロロ-ヴァロワール | 138km | 山岳 |
7月3日 | 5 | サン=ジャン=ド=モーリエンヌ-サン=ヴルバ | 177km | 平坦 |
7月4日 | 6 | マコン-ディジョン | 163km | 平坦 |
7月5日 | 7 | ニュイ=サン=ジョルジュ-ジュヴレ=シャンベルタン | 25km | 個人タイムトライアル |
7月6日 | 8 | スミュール=アン=ノーソワ-コロンベ=レ=デュー=エグリーズ | 176km | 平坦 |
7月7日 | 9 | トロア-トロア | 199km | 丘陵 |
7月8日 | 休息日 | オルレアン | ||
7月9日 | 10 | オルレアン-サン=タマン=モンロン | 187km | 平坦 |
7月10日 | 11 | エヴォー=レ=バン-ル・リオラン | 211km | 山岳 |
7月11日 | 12 | オーリヤック-ビルヌーブ=シュル=ロット | 204km | 平坦 |
7月12日 | 13 | アジャン-ポー | 171km | 平坦 |
7月13日 | 14 | ポー-サン=ラリ=スラン プラ・ダデ | 152km | 山岳 |
7月14日 | 15 | ルダンヴィエル-プラトー・ド・ベイユ | 198km | 山岳 |
7月15日 | 休息日 | グリュイッサン | ||
7月16日 | 16 | グリュイッサン-ニーム | 187km | 平坦 |
7月17日 | 17 | サン=ポール=トロワ=シャトー-シュペルデヴォリュイ | 178km | 山岳 |
7月18日 | 18 | ガップ-バルスロンネット | 179km | 丘陵 |
7月19日 | 19 | アンブラン-イゾラ2000 | 145km | 山岳 |
7月20日 | 20 | ニース-コル・ド・ラ・クイヨール | 133km | 山岳 |
7月21日 | 21 | モナコ-ニース | 34km | 個人タイムトライアル |
ツール・ド・フランス 毎年7月にフランスや周辺国を舞台にして行われる世界最高峰の自転車ロードレース。1903年に始まった。スポーツ新聞「レキップ」や一般紙「ル・パリジャン」などを傘下に抱えるフランスの大企業アモリ・スポル・オルガニザシオン(A.S.O.)が主催者。 ツール・ド・フランスの名称はフランス語で「フランス一周」を意味する。エースとアシスト8人からなる9人編成のチームが20~22チーム出場する。ステージによって山岳賞、ポイント賞、新人賞など、様々な賞があるが、各ステージの所要時間を加算し、合計時間が最も少なかった選手が総合時間賞に輝く。この総合1位の選手が着用するの黄色いジャージが「マイヨ・ジョーヌ」。袖を通すだけでも名誉である「マイヨ・ジョーヌ」をめぐってレースは展開される。沿道に詰めかけるファンは約1500万人。世界190か国でレースが放映される。
ペンスポニュースレター(無料)に登録ください
スポーツ特化型メディア“Pen&Sports”[ペンスポ]ではニュースレター(メルマガ)を発行しています。ペンスポの更新情報やイベントのご案内など、編集部からスポーツの躍動と元気の素を送ります。下記のフォームにメールアドレスを記入して、ぜひ登録ください。
\ 感想をお寄せください /