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【セーリング】パリ五輪「金」狙える「ヨンナナマル」。代表争いリードする岡田・吉岡組

セーリング混合470級岡田奎樹(トヨタ自動車東日本)・吉岡美帆(ベネッセ)組
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パリ五輪開幕まであと8カ月あまり。日本勢のメダルが期待できる種目で急浮上しているのが、セーリング混合470級だ。通称「ヨンナナマル」。2023年8月にオランダで行なわれた世界選手権ではこの種目で、岡田奎樹(トヨタ自動車東日本)・吉岡美帆(ベネッセ)組が優勝、磯崎哲也・関友里恵(ヤマハ)組が3位に入る快挙を達成し、国別のパリ五輪出場枠「1」を日本にもたらした。ただし、どのペアがパリ五輪に出場するかは未定。世界の表彰台に上がったこの2組を中心に代表選考は来年4月まで続く。Pen&Sports [ペンスポ] は神奈川県藤沢市の江の島ヨットハーバーでこの2組を個別取材した。前編は岡田・吉岡組のインタビューを紹介する。

2024年4月まで続く代表選考 2021年東京五輪までは男女別の種目だった470級だが、パリ五輪からは男女混合種目に統合された。パリ五輪に向けては岡田奎樹 / 吉岡美帆組のほか、磯崎哲也 / 関友里恵組、世界選手権24位の高山大智 / 盛田冬華組、同28位の吉田愛 / 吉田雄悟組の国内で4チームが出場を目指している。国内の五輪代表選考は2024年2月の470 級世界選手権(スペイン・パルマ)、同年4月のプリンセス・ソフィア杯(スペイン・パルマ)の2大会。これらの成績とボーナスポイントを調整し、総合得点が最も低いチームが代表に決定する。パリ五輪本番の会場はマルセイユ。

目次

世界選手権V:軽風を味方につけた

ーー優勝したオランダ・ハーグでの世界選手権は初日からトップを譲らずの独壇場。最終レースを待たずに優勝を決めた。

吉岡美帆:大会に臨むにあたって周りの環境、サポートがすごく充実していました。そこで自分たちのベストが発揮できた。今までやってきたことが、結果に現れたと思います。

岡田奎樹:世界選手権の始まりが、軽風で始まったことが大きかったです。他の選手たちにはその環境がプレッシャーで、自分たちはプレッシャーが軽くなった。優勝するチャンスがある人たちが集まってくると、どういうふうに自分たちのパフォーマンスを発揮できるかがポイントになります。他の人たちが順位を崩す回数が増えてくるなか、 自分たちは崩さなかったというのが、勝利につながったと思います。

ーー軽風(※風速2m/s程度の微風)は先行艇に有利なのか

岡田: 一般的には有利です。 ただ風が強い状態から始まったとしても食らいついていけるように準備していました。

どちらも東京7位。次こそメダルへ「この人しかない」

ーーセーリングを始めたきっかけは。

岡田:5歳のころ、父(正和さん)の転勤先だった大分県別府市のB&G別府海洋クラブに入ってヨットを始めました。オプティミスト(OP)といわれる小さなヨットです。そのクラブは大人も子どもも向上心が高くて、自由にのびのびと上達する環境がありました。今振り返れば、5歳児を1人でヨットに乗せて海にポンって出すって、なかなかあり得ないことですが、自分には合っていましたね。そのころに「オリンピックでも勝ちたい」という思いが芽生え、いまの土台になっています。

吉岡: 中学ではバレーボールをしていましたが、入学した兵庫県立芦屋高校にヨット部があって、高校から新しいスポーツに挑戦したいと思って始めました。

ーーペア結成の経緯は。

岡田:東京オリンピックで負けて(男子470級、外薗潤平とのペアで7位)、パリまであと3年しかないし、一番可能性ある選手を探して、吉岡さんに声をかけました。

吉岡:東京オリンピックが終わってから(吉田愛とのペアで女子470級7位)パリを目指すかどうか、悩んだ末にもう1回チャレンジしたいと思いました。 次はメダルが欲しい、そういう覚悟を持ってやろうと。メダルには岡田選手しかいない、と決めました。

来春まで代表選考「ライバルいてこそ」

インタビューに応じる吉岡美帆(左)・岡田奎樹組=神奈川県藤沢市の江の島ヨットハーバーで

ーー世界選手権では金メダル。でも、世界を狙えるライバルが国内には他にもいてパリ五輪は確定していない。来春まで日本代表選考が続くことをどう思うか。

岡田:日本セーリング連盟(JSAF)が、個々の選手の争いではなくまず、国枠を取ろうという方針なのは納得しています。仮に、国枠ではなかったとすると、数日間に渡るレースで相手選手にポイントを取られないように邪魔をするとか醜い争いにもなりかねない。そもそも日本選手が五輪出場を果たせないことだってある。

世界選手権で優勝すれば代表に即決定するとしたら、今一緒に切磋琢磨しているほかの470級の日本チームはもう練習しないでしょう。 セーリングは欧州勢が伝統的に強い競技で、遠征も行きにくい状態のなか、代表チームだけでは上達しないと思います。杭州アジア大会が終わって、パリオリンピックまでどう強化するか。私たちが代表に即決まれば気持ちは楽かもしれないですが、楽をするためにオリンピックがあるわけじゃない。ライバルがいてこそだと思います。

吉岡:今季は私たちにとってベストで、いい成績を残してきました。でもやっぱり海外の選手はオリンピックに照準を合わせるのがとても上手。リオ、東京とオリンピックを経験して、そう感じています。彼らはこれからどんどん速くなってくるので、 全然油断はできないし、私たちももっと頑張っていかなきゃなと思っています。「逆転されるかもしれない」というプレッシャーをしっかり跳ねのけていければ、パリで金が取れるんじゃないかなと思います。

岡田:苦しい環境でも勝ち抜いていける人が世界では強い。日本が今まで勝てなかったのは、代表になった時点で安心してしまったことも大きいと思うんです。金メダルを取るためには技術に加え、強い気持ちがないといけない。その強い気持ちは、来年4月まで続く選考会で鍛えるしかないと思っています。

磯崎・関組は「手ごわい相手」

世界選手権でトップを走る岡田・吉岡組 (日本セーリング連盟提供©World Sailing / Sailing Energy)

ーー自分たちの課題は。

岡田:メインセールや舵など、セッティングで大枠は決まってくる。あとは細かいコントロールをして、環境にあった道具の使い方を確実にしていきたいですね。さらには、コースを選択する能力です。自分たちの欠点も見直したい。総合的に点数が安定する、失敗しない選択を確実にしていけるようになることが課題です。

吉岡:動作と走りの安定性です。動作では、接近戦になると慌ててミスしたり、動作そのものが遅くなったりするので、その対応力を改善したい。走りでは私たちはダウンウインド(風下に向かってヨットを走らせること)は得意ですが、波のコンディションによってムラがあるので、安定させたいと思っています。

岡田:どのタイミングで動作をスタートさせれば、最終的にうまくマーク(海面に設置された大きなブイ)を回れるのかがポイントです。動作をしている最中に他艇が邪魔してきて、自分たちがよけられない状態になると失格になってしまうこともあるんです。

ーー世界3位、磯崎・関組をどうみているか。

吉岡:1番のライバルですね。勢いもあってまだまだ成長していくチームで、波に乗るとちょっと怖いなっていう思いはありますが、勢いは食い止めていかなきゃいけないと思っています。

岡田:すごくいいチームだと思います。流れもあって、ちゃんとゴール(目標)を設定してそれに向けて成長していっている。その過程に合わせて自分たちを変えていくことができるチームだなと。 課題を克服してきたら、手ごわい相手になるでしょう。

岡田 奎樹(おかだ・けいじゅ) 1995年12月2日生まれ、福岡県出身。トヨタ自動車東日本所属。5歳からセーリング競技を始め、小3の時に出場した全日本OP級選手権で小学生の部優勝。佐賀・唐津西高を経て早大。2016年7月の470級ジュニア世界選手権(ドイツ)に、日大の木村直矢とのペアで日本勢として初めて優勝した。ポジションはスキッパー(2人乗りセーリング種目の舵取り役)。外薗潤平とのペアで出場した東京五輪は7位。170センチ。

吉岡 美帆(よしおか・みほ) 1990年8月27日、広島県出身。兵庫・芦屋高、立命大。ベネッセ所属。吉田愛と組み、リオデジャネイロ五輪5位、東京五輪は7位。世界選手権は2018年に金メダル、2019年に銀メダル。ポジションはクルー。177センチ。

セーリング470級とは

2人乗りのレース用ディンギー(小型ヨット)。470(ヨンナナマル)という名称は、艇体の全⻑が470センチであることに由来する。1976 年モントリオール五輪から五輪種目に。その後、1988 年のソウル五輪からはセーリング競技初の女子種目にも採用されてきた。乗員の適正体重は2人の合計で 130kg 前後とされており、五輪種目の中でも最も軽量なクラス。そのため、欧米人に比べて小柄な日本人に適しているとされる。セーリング競技で日本勢が唯一、五輪メダルを獲得しているクラスも470級で、女子は1996年アトランタ大会で重由美子・木下アリーシア組が銀、男子は2004年アテネ大会で関一人・轟賢二郎組が銅メダルを手にしている。

レースは海面に設けられたマーク(ブイ)を決められた順序で回り、着順を競う。10~12レースが行なわれる予選では、1位1点、2位2点…と上位ほど得点が低く、合計点の少なさで順位が決まる。予選上位10組が順位決定レース(メダルレース)へ進出する。

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