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【ハンドボール】三重バイオレットアイリス再建へ 黄慶泳監督の信念

三重バイオレットアイリスの黄慶泳監督=久保写す、以下同じ
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3巡目まであったリーグH元年は7勝23敗勝ち点14。2024-25年シーズンの三重バイオレットアイリスは、11チーム中10位に終わりました。選手もファンも「こんな順位にいるはずのチームではない」と思っていたはず。負け続けた裏には、黄慶泳監督の目指す究極の「土台作り」がありました。

目次

大きく負け越した1年

2024年限りで引退した林美里(写真左)と中田夏海が、後輩たちの応援に駆けつけた
2024年限りで引退した林美里(写真左)と中田夏海が、後輩たちの応援に駆けつけた

かつてオムロン(現在の熊本ビューストピンディーズ)や女子日本代表を率いた黄慶泳(ファン・キョンヨン)監督がやってきて3年目のシーズン。三重バイオレットアイリスはここ10年でなかったような連敗続きでした。2024年限りで林美里、中田夏海、團玲伊奈、熊﨑かずみといった主力選手が引退し、世代交代の1年だったのですが、ここまで負け続けるとは誰も予想していなかったでしょう。2023-24年の5位から10位に後退し、最大で9連敗という屈辱も味わいました。(下に記事が続きます)

主力を引っ張りすぎる

山口眞季は30試合出場で167得点。リーグ4位タイの好成績だった
山口眞季は30試合出場で167得点。リーグ4位タイの好成績だった

主力が入れ替わったとはいえ、日本代表の初見実椰子と山口眞季がいます。スタートで出てくる7人は他と比べて見劣りしません。ただ今シーズンは、黄監督の選手起用が極端でした。主力を引っ張りすぎるから、試合が硬直化します。ベンチメンバーの追加点がないから、いつも試合後半で息切れしてしまい、逆転を許します。

10年前より強度が上がった現代ハンドボールでは、選手交代は必須。アランマーレ富山のように、色んな選手を使う「手札の多さ」で勝つチームも増えてきました。そのなかでバイオレットだけが、時代に逆行するような固定メンバーで負けていました。大事な試合終盤で初見(実)が疲労で動きが鈍り、エースの山口が10点近く取っても勝てないという、不可解なゲームが多く見受けられました。「負けるにしても、負け方というものがあるだろう」が口癖の黄監督が、あまりにも「らしくない」負けを続けていたのです。 (下に記事が続きます)

黄慶泳監督の考える土台作り

1年かけて妥協なき土台作りに取り組んだ黄慶泳監督
1年かけて妥協なき土台作りに取り組んだ黄慶泳監督

2025年5月25日、レギュラーシーズン最後の試合に勝ったあと、黄監督はリーグH元年に取り組んだ「土台作り」の狙いと、不可解に見えた選手起用の意図を伝えてくれました。

「今さらだけど、今シーズンは3巡目の途中までは、自分たちの形を整えることを優先した。相手の分析よりも、メンバーを固めて、主力選手の経験値を高める『土台作り』にあててきた。3巡目の後半あたりからようやく相手チームの分析を取り入れて、自分たちの内部に向けていた目線を外部にも置き始めた。今シーズン中に世代交代をして、土台作りを済ませておきたいという信念があったから、負け続けても僕のなかにブレはなかった。最後の数試合は来シーズンにつながる試合ができたと思うし、上位チームにふさわしい状況に近づけた。選手たちも僕のプランによくついてきてくれて、がんばってくれた」

核となる選手を育てる

新人でレフトウイングの定位置をつかんだ藤澤舞子。ミスを取り返せる明るさも魅力のひとつ
新人でレフトウイングの定位置をつかんだ藤澤舞子。ミスを取り返せる明るさも魅力のひとつ

リーグH元年の2024年開幕当初、黄監督は「僕が三重に来て3年目だけど、今年が実質1年目だと思っている」と言い、チーム再建のための1年にすると宣言していました。その土台作りのための手法が、主力メンバーをフルで使うことでした。かねてから「チームの核になる選手を育てたい」と言ってはいましたが、あまりにも極端でした。でも、黄監督には明確な意図がありました。

「土台作りで重視したのは、主力選手を見極める時間帯を知ること。周りから見て『主力を引っ張りすぎる』ところはあったと思うけど、僕は最後まで『この子はここが限界なんだな。ここで替えるべきなんだな』という見極めをやりたかった」

「結果を取りにいくシーズンだったら、ここまでやらない。主力が多く抜けて、土台作りをしないといけないシーズンだから、新たな主力となる子たちの『最後の力』を見極めないといけなかった。いい時も悪い時も、この子たちには僕が求める采配を体験しておいてほしかったし、僕は今シーズン中にこの子たちのいいところも悪いところも全部知っておかないといけない。これは来シーズンには持ち越せない。選手には悪いけど、3巡目の途中まで時間を使ってきたから、シーズン終盤には選手交代のタイミングに間違いがなくなってきた」 

主力の調子がどんなに悪くても、黄監督が使い続けてきた理由がハッキリしました。(下に記事が続きます)

初見実椰子、山口眞季に勝負の責任を背負わせる

チームの顔でもある初見実椰子。苦しみながらもシーズンを戦い抜いた
チームの顔でもある初見実椰子。苦しみながらもシーズンを戦い抜いた

黄監督がチームの核としてイメージしている選手は、元日本代表の東濱裕子(元オムロン)だと思われます。レフトバックで3枚目を守り、攻守のバランスを整えていた東濱を、黄監督は何があっても信頼し、60分間コートに立たせ続けました。ただ東濱が活躍した2010年代と今では、ハンドボールの強度が違います。初見(実)、山口といった核になってほしい選手を、なぜフルで使ったのか。ここにも黄監督の思いがありました。

「ウチのコーチ陣も言ってましたよ。『なんでここまで主力を引っ張るのか?』と。でも僕には信念があったから。彼女たちはいい選手だけど、山口はソニー(ブルーサクヤ鹿児島)にいた時は控えだったし、初見(実)にしてもソニーでは他の選手と出場時間を分け合いながら20分程度だった。本当の意味でチームを背負ったことがないから、そこをしっかり味わってもらわないと。初見(実)も山口も相手に分析されて、シーズン中盤で崩れかけたんだよね。そこで替えるのは簡単。でもそこを乗り越えていかないと、真のエースにはなれないと思っているから、あえて使い続けた」

森本方乃香、9年目の大ブレイク

森本方乃香はバックプレーヤー3ポジションで力強いカットインを繰り出し、相手のDFを機能不全に陥れる
森本方乃香はバックプレーヤー3ポジションで力強いカットインを繰り出し、相手のDFを機能不全に陥れる

使い続けるなかで、殻を破る選手も出てきました。森本方乃香は以前、黄監督のトータルハンドボールに悩み「私は藤井紫緒さん(元オムロンほか。日本歴代最高の左腕)にはなれない」とこぼしていましたが、フィジカルと利き手側の強さに特化して、9年目にしてライトバックのレギュラーに定着しました。「この歳(31歳)でまだまだ成長できるんですね」と森本は驚きながらも「私が突っ込んだあとの次の展開が課題なんですよ。私がカットインに行けば、必ずDFが2人寄ってくるから」と、勝ち切るためにはさらなるレベルアップが必要だと語っていました。

これまでの森本は、ヒザの状態がよくない年もあり、チーム内では脇役の位置付けでした。ところがフルで使われていくうちに、主力の自覚が芽生え、勝負の責任を背負うところまで成長しました。対戦相手も「ほっしゃん(森本の呼び名)の力強いクロスと突破を、いかに封じるか」と、キーパーソンに森本の名前を挙げるようになりました。勝負の責任を背負えるのは、リーグHの選手のなかでもほんの一握り。今が一番ハンドボールが楽しい時期でしょう。黄監督も「俺は森本を手放さない!」と、絶大な信頼を寄せています。(下に記事が続きます)

飯塚美沙希を軸に育てたい

点が取れる司令塔の飯塚美沙希。飯塚のレベルが上がれば、チームも優勝を争える
点が取れる司令塔の飯塚美沙希。飯塚のレベルが上がれば、チームも優勝を争える

一貫してコアプレーヤーの育成に時間を使った黄監督でしたが、チグハグに見えたのがセンターの起用法でした。1巡目は大物ルーキー小林愛に先行投資したにもかかわらず、2巡目以降はケガから戻ってきたキャプテン飯塚美沙希をセンターに据え、小林の出番が減ってしまいました。育成か勝負なのか、どっちつかずになりそうな気もしましたが、これも黄監督のなかで明確な理由がありました。

「飯塚が半年間ケガでチームを離れていたので、残りの半年でキャプテンの飯塚を中心としたチーム作りをしないといけなかったし、飯塚についても軸作りを今シーズン中に済ませないといけなかった。そこは小林には大変申し訳なかった。もし飯塚が開幕から元気だったら、小林をあそこまで使わなかっただろうし、小林を最初に使ったのは、2~3年後にチームを背負える選手になってほしいという思いもあったから。多少順番が入れ替わったとしても、小林はいい経験をしたと思うし、チームの土台作りと言う点でも無駄ではなかった」 

現時点では飯塚を核にしてチームを作っていきたいというのが、黄監督の考えです。 

「確かに飯塚は気持ちよく点を決める時もあれば、上位のチームを相手に何もできない時もある。でも昔からの飯塚のスタイルだけで、僕は片づけたくない。厳しくチームを背負う姿を期待している。僕が選んだキャプテンだから、彼女のよさを生かしながら、チームを背負う者の役割をきちんと伝えていきたい」

飯塚は多彩なシュートバリエーションを持ちながら、上位勢には守られてしまうことも多く、今のままでは「飯塚のレベル=チームのレベル」になりかねませんでした。優勝するチームを作るためにも、飯塚が殻を破ることを、黄監督は期待しているようです。(下に記事が続きます)

横田希歩は中間の世代の希望

歯切れのいいシュートがあるので、横田希歩はベンチからの得点源にうってつけ
歯切れのいいシュートがあるので、横田希歩はベンチからの得点源にうってつけ

2024年10月にPen&Sports[ペンスポ]の記事でも紹介したように、黄監督は「日本一になるチームには、3つの世代の充実が不可欠」だと考えています。まずはチームの核となるベテランの世代がいて、その背中を見て育った中堅の世代がいて、その下に将来チームを背負えるであろう新人がいる――この選手層を作るべく、2024~25年のシーズンの大半を使って基礎工事を行ってきました。

「初見(実)と山口の世代がいなかったら、チームの軸そのものがなかったから、次の世代もその次の世代も作れなかった。だから初見(実)と山口が移籍で来てくれたのは大きかったし、1年間かけて土台を作ることができた。去年と今年の新人はまだ若いけど、小林、藤澤舞子、南川満帆に初見巴菜子、池畑咲和と、将来チームを引き継げる選手が揃っている。問題なのは、主力と新人の間をつなぐ中間の世代がほとんどいないこと。中間世代の層の薄さが、チームが急に失速してしまう原因のひとつだった。中間の世代では、横田希歩が頭角を現わしてくれたのが唯一の救いで、7mスローだったり、攻撃でインパクトを残してくれた」

まだまだ黄監督が理想とする選手層ではありませんが、これから継続して選手を獲得して、弱点を埋めていきたいと言います。

来季は開幕から勝負をかける

2025-26年シーズンは、多くのウイニングジャンプが見られそう
2025-26年シーズンは、多くのウイニングジャンプが見られそう

想像以上に大がかりだった基礎工事の1年を、黄監督はこう振り返ります。

「周りやスポンサー、応援してくださっている方々には、結果については言い訳できないし、僕がクビになってもおかしくないような成績だった。でも僕には覚悟があった。少しでも小手先の状況を作ってしまったら、日本一になれるチームは絶対に作れないと思っていたから。選手たちも大変だったし、僕も耐えなきゃいけなかった」

「そんななかでも選手がついてきてくれたおかげで、シーズン終盤は力の差が見えるような戦いではなかった。もっと肉付けと味付けはしないといけないけど、ある程度戦える領域に入ってきたかな。今のハンドボールは展開が速くなっているから、戦術やメンバーの変化を柔軟にやっていく必要はある。そこを分かりながらも、土台ができたうえでそれをやりたかった。壊れない土台を作ったうえで、一瞬一瞬で変化できる強さを持ちたい」

土台作りは今シーズンまで。新しいシーズンは開幕から勝負できそうです。

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