ハンドボールのリーグHで2025-26シーズン、プレーする主力選手の特徴を紹介するシリーズ。8回目の最終回は監督編です。リーグHで指揮する監督、ヘッドコーチを分類しました。いい監督には必ず信念があり、なににこだわってチーム作りをしているのかを見ていくと、よりチームと選手に感情移入しやすくなります。
楠本繁生監督(ブルーサクヤ鹿児島)2対2重視

ハンドボールの基本は2対2。そのすべてのパターンを網羅できれば、必ずプラス1(一人余った状態)が作れます。ピヴォットを絡めた粘り強い攻めで、相手からすると「わかっているのに止められない」状況になります。
2対2と言えば、大阪体育大学出身の指導者の定番です。大阪体育大学の女子からブルーサクヤ鹿児島に転じた楠本繁生監督は2対2をベースに、ハンドボールの全体像を選手に教え切ります。試合前のアップでも、少し時間が余ったら2対2を始めます。当たり前のようにやる2対2は、歯を磨くかのように習慣化されていて、いい意味で「練習の延長が試合」になっています。日本で一番勝っている楠本監督の指導方法に憧れる若い指導者も多いのですが、生半可な理解度でコピーすると危険です。やるからには楠本監督のように「100%正しい」と言い切れる判断と、全員に目を配るマメさがないと、選手はついて来ません。
香川銀行シラソル香川の亀井好弘監督も、丁寧な2対2が信条です。ピヴォットを絡めた2対2でゲームを作るから、勢い任せで守るチームが相手なら、絶えず先手を取って試合を優位に進めます。
大房和雄監督(富山ドリームス)1対1重視

「いやいや、ハンドボールの基本は強い1対1だろ」という流派です。個の強さがあれば、小難しいことをしなくても、シンプルに局面を打開できます。
高岡向陵高校を指導していたころから、大房和雄監督(富山ドリームス)は個の育成に長けていました。富山ドリームスを見るようになってからも「あまり高校生みたいな基礎練習はやらせたくないんだけど」と言いながら、シンプルな個の強さを鍛えるトレーニングを増やして、最高に癖が強かった富山ドリームスを、正統派のシンプルOFに塗り替えました。「もう少し粘り強くボールを回せば、だだっ広いスペースが生まれるんだよな」と言いながら、速いパス回しを志向しています。
大房監督に影響を受けた伊藤寿浩ヘッドコーチ(飛騨高山ブラックブルズ岐阜)は、女子特有のコンビネーション重視から、強い個で勝負するスタイルに切り替えました。純正のプレーメーカーが不在のため、今季は苦戦していますが、取り組み自体は間違っていません。もう少し選手層が厚くなれば、伊藤ヘッドのやりたいハンドボールが表現できる気がします。(下に記事が続きます)
酒巻清治監督(福井永平寺ブルーサンダー)フリーOF

ハンドボールは6対6のセットOFが一番難しいし、どうやって組み立てればいいのかがわかりにくいと言われます。見る側だけでなく、やっている側も「経験則でなんとなく」やっていることも多かったりします。
湧永製薬、トヨタ車体、男子日本代表にイズミメイプルレッズ広島を率いた酒巻清治監督(福井永平寺ブルーサンダー)は、セットOFを噛み砕いて説明するのが上手な指導者です。「片側にDFを寄せて、反対側に広いスペースを作る」「スペースが広いほどOF側が有利になる」「2対2はパラレル、クロス、スクリーンの3つしかない」等々、フリーOFを分解して教えられるから、酒巻門下生はフォーメーションに頼ることなく、ひとつのきっかけから攻撃の枝葉を伸ばしていけます。
銘苅淳監督(アルバモス大阪高石)、藤本純季コーチ(HC名古屋)は酒巻門下生で、トヨタ車体(ブレイヴキングス刈谷)伝統のフリーOFを継承しています。銘苅監督は「世界のトレンドでもある4バックを、もっとクリエイティブにやりたいんだよね」と、選手たちのアイデアを引き出そうとしています。藤本コーチはフリーOFの駆け引き、やりとりを教えている真っ最中。センターの樋口怜於奈は、藤本コーチとの出会いで、点が取れる司令塔になりました。
フリーOF派で忘れてはならないのが、オムロンを率いた水野裕紀監督(現ジークスター東京コーチ)です。時間をかけてフリーOFの原理原則を伝えて、ひとつのきっかけから様々なアイデアが出るチームに育て上げました。水野監督の言葉を体現できる李美京(元韓国代表の名センター)がオムロンに在籍した1年が、水野監督にとってもターニングポイントになったと言います。(下に記事が続きます)
福田丈ヘッドコーチ(アランマーレ富山)人海戦術

ひと昔前のハンドボールは、主力メンバーがほぼ固定でした。代えるとしてもDF要員を一人入れるだけで、「レギュラー固定が最も強い」とも言われていました。プレーの強度の上がった今では、選手交代が采配のポイントになっています。
メンバー固定がまだ根強かった時代に、バスケットボールのような選手のローテーションを取り入れたのが、大崎電気時代の岩本真典監督(レッドトルネード佐賀)でした。スター軍団を上手に回しながら、若い選手にも出番を作り、年間を通してプレータイムを上手にシェアします。
女子で大胆な分業制を打ち出したのが、アランマーレ富山の福田丈ヘッドコーチでした。女子は男子と比べて瞬発力に欠け、メンバー交代をしすぎるとチームが落ち着かないという固定観念を、福田ヘッドはぶち壊しました。練習は短期集中。試合に入った一発目から自分のMAXを出せるような選手を増やして、プレーオフの常連になりました。戦術の根底にあるのは、筑波大学男子を率いてインカレ優勝した時の成功体験。「いろんな選手がいろんな場所で2対2をすれば、相手は対策を立てられない」という戦い方を女子にも当てはめ、成功しています。(下に記事が続きます)
大前典子監督(イズミメイプルレッズ広島)フォーマット作り

強いチームには個々に役割があり、監督のなかには理想の役割分担の形があります。そういう「最強のフォーマット」を元にして、人員の配置を決めていくタイプの監督です。
フォーマットで思い出すのが、大同特殊鋼の黄金期の基盤を作った姜在源(カン・ジェウォン)監督です。大型のトップDFを前に出した5:1DFからの堅守速攻は無敵でした。大型の武田亨(現豊田合成ブルーファルコン名古屋コーチ)をピヴォットからバックプレーヤーに転向させ、最終的には大型サイド兼DFの要に育て上げました。姜在源フォーマットは大同の強みで、姜在源監督が退いたのちも、このフォーマットだけで勝てた時期がありました。ただしトップDFの富田恭介(現大同フェニックス東海コーチ)が移籍したあと、千々波英明が出てくるまで、トップDFの人材をとっかえひっかえするなど、「フォーマットありき」の弱点も見られました。
今のリーグHでフォーマット作りに取り組んでいるのが、大前典子監督(イズミメイプルレッズ広島)です。「役割分担」をテーマに、選手にひとつ上の役割を課して、攻守でメンバー交代なく押せるチームを作っています。たとえば両ウイングなら2枚目を守れるように。レフトバックは3枚目に入って、攻守の柱になれるように。「この仕事ができれば、選手としてワンランク価値が上がる」役割を背負わせて、チームのスケールアップを図っています。今後はフォーマットにあてはまらない選手が出てきた場合に、どうやってローテーションに組み込んでいくのか。大前監督の腕の見せどころになるでしょう。(下に記事が続きます)
洪廷昊ヘッドコーチ(熊本ビューストピンディーズ)コリアンスタイル

古きよき韓国のハンドボールでは、強烈なフェイントを持った強い個が、局面を打開していました。OFはどちらかと言うとフォーメーション重視。サインプレーと個人技で相手の息の根を止めて、DFではフットワークで相手を凌駕します。
熊本ビューストピンディーズの洪廷昊(ホン・ジョンホ)ヘッドコーチは、厳しさを前面に押し出す一方で、ヨーロッパでのプレー経験もあるため「華やかな個人技」を推奨しています。OFではフォーメーションを多めに用意して、早めに札を切ってくるスタイル。どのフォーメーションをどの場面で使うのか、選手の共通理解がもっと深まれば、取りこぼしを減らせるはずです。
黒島宣昭監督(琉球コラソン)DFの哲学

どの競技でも、優勝するチームはDFが安定しています。優勝監督はDFへのこだわりが強く、哲学を持ってチームを指導しています。
「DFのオムロン」で一時代を築いた黄慶泳(ファン・キョンヨン)監督は、三重バイオレットアイリスに移ってからは苦労していましたが、2026年の年明けからようやくDFがしっくりくるようになりました。左2枚目の横田希歩、右2枚目の初見実椰子が積極的に仕掛けるDFで、チームは長い混迷の時期を抜け出したかに見えます。ようやく「黄さんのチームになってきた」と言えそうです。黄監督のトータルハンドボールの土台は強固なDF。ここにOFを上乗せしていければ、プレーオフへの返り咲きが見えてきます。
興南高校(沖縄)で二度の高校三冠に輝いた黒島宣昭監督(琉球コラソン)は、才能をDFで束ねてきました。高校球界で「ハンドリングスキルがあって自由奔放な沖縄の選手が、まじめにDFをやったら、一番強い」と証明した名将です。琉球コラソンで指揮を執るようになってからも、マークを外さず足でついていく3:2:1DFをベースにチームを作っています。対戦相手はみな「コラソンは興南ぽいDFですよね」と言っています。最近は相手に研究されてきたため、クロスアタックを多用する6:0DFも用意しています。(下に記事が続きます)
田中茂監督(豊田合成ブルーファルコン名古屋)チームの規律

規律を重んじるのは、規則でがんじがらめにするのとは違います。個性を尊重しつつも、チームとしてやるべきことを徹底させて、その結果個が育ち、チームがまとまり、強くなっていくのです。
豊田合成ブルーファルコン名古屋の田中茂監督はスペインで学んできたから、選手の個性を消さずに、規律を求めるバランスが絶妙です。「まず、目の前の1対1で勝つこと」「DF、リバウンド、ルーズボールで全力を尽くすこと」など、当たり前のことを求めているだけだと言いますが、当たり前の水準が高いから、豊田合成に入ってしばらくすると「仲間から信頼される選手」に育ちます。毎年必ず「その年のナンバーワン」を獲得している訳ではないところもいいですね。掘り出し物を戦力化するあたりは、田中監督の育成力です。
アースフレンズBM東京・神奈川の梶原晃監督代行はGM兼任なので、チームのコンセプトを大切にしています。バスケットボールも含めたアースフレンズ全体で目指しているのが「世界に通用する人材作り」。そのコンセプトに立ち返り、2025-26シーズンから「チームの文化の作り直し」に取り組んできました。規律というよりは、物の考え方を伝えていくタイプの監督で、早打ちに慣れてしまったチームに、我慢強くボールを回す技術と判断力を植えつけようとしています。





![Pen&Sports[ペンスポ]スポーツ特化型メディア](https://sports.pen-and.co.jp/wp-content/uploads/2026/01/スポーツを深くしる手書き_白字.png)






\ 感想をお寄せください /