【ハンドボール】球際制するディフェンダー33人 | リーグH名鑑2025 vol.8

ハンドボールの各ポジションに求められる役割、技術を、2024年9月に発足した国内トップリーグ・リーグHで活躍する選手のプレースタイルとともに紹介します。最終回となる第8回はディフェンダー。選手の交代が自由なハンドボールでは、攻守交代が頻繁に行われます。自陣ではDF専門の選手を入れて、守備力を高めます。

中山朋華（ザ・テラスホテルズラティーダ琉球）3枚目で体を張る

6：0DFの中央を守るのが3枚目。ここに大きくて体の強い選手がいてくれないと、DFが安定しません。日本の男子なら身長190㎝、女子なら170㎝あれば、長いリーチでロングシュートを防げます。

不来方高校（岩手）時代はスーパーエースだった安倍竜之介（大崎オーソル埼玉）は、ケガなどもあって現在はDF中心になっています。3枚目DFでチームを落ち着かせるために、スタートで出場します。身長197㎝の露木涼はブレイヴキングス刈谷からレンタル移籍で富山ドリームスにやってきて、コートに立つ機会が増えました。刈谷にいても出番は限られていたでしょうから、富山で実戦経験を積めるのは、本人にとっても、日本全体にとっても大きなプラスです。髙橋翼（琉球コラソン）は心も体も強い選手。180㎝しかありませんが、3枚目で奮闘します。

鈴木きらら（HC名古屋）は日本体育大学までエースでしたが、HC名古屋に入ってからはDF色が強くなりました。並木梨紗（三重バイオレットアイリス）は山口眞季のよき相棒。田村圭（飛騨高山ブラックブルズ岐阜）は、愚直なまでに体を張るのが特徴です。黒川のどか（大阪ラヴィッツ）は長いリハビリの末に、ようやく戻ってきました。手薄な3枚目に入って、上田遥歌を支えてほしい選手です。中山朋華（ザ・テラスホテルズラティーダ琉球）は、3枚目での経験が豊富な選手。個々で見るとDF力の高い若手が揃っていながら、好不調の波が激しいチームを、中山のリーダーシップで安定させてほしいところです。(下に記事が続きます)

戸井凱音（豊田合成ブルーファルコン名古屋）3枚目で攻撃力も期待できる

2次速攻、3次速攻で押したい場面で、ディフェンダーにも攻撃力があると、流れを止めることなく点が取れます。相手に交代をさせずに、DFが崩れた状況で打ち込んで自陣に戻れば、短時間で実質2点分のプラスになります。

戸井凱音（豊田合成ブルーファルコン名古屋）は、今季から3枚目DFでの出場機会を増やしています。強い体でライン際を守り、3次速攻では体を預けるようなカットインでゴールに突進します。大柄のレフトバックが揃うチームのなかで、今季の戸井は「DFとカットイン」で自分の色を確立しました。窪田礼央（大崎オーソル埼玉）は3枚目でハードワークするだけでなく、流れのなかでロングシュートを叩き込めます。ピヴォットとレフトバックの両方で上手に使えば、大崎特有のオールラウンダーになれそうです。川﨑駿（福井永平寺ブルーサンダー）はチーム事情でDFメインになっていますが、鍛え抜かれた筋力を生かしたカットインにも定評があります。

田沼美津希（HC名古屋）はリーグに入ってからDF専門みたいになっていましたが、肩痛が癒えた3年目の今季は、東京女子体育大学時代の攻撃力が戻ってきました。DFの枝が上がる前にサクッとミドルシュートを叩き込むなど、点の取り方にも工夫が感じられます。(下に記事が続きます)

宮田日菜子（アランマーレ富山）小さくても3枚目ができる

背の高い選手から順に3枚目、2枚目、1枚目と並ぶのが、6：0DFのセオリーです。本来ならば一番背の高いところに小柄な選手がいると、大きな穴になりかねませんが、そこは運動量でカバーします。

宮田日菜子（アランマーレ富山）は身長164㎝で、3枚目をハードに守ります。前後のフットワークで相手に圧をかけ、ルーズボールには真っ先に飛び込むなど、短時間で強烈なインパクトを残します。福田丈ヘッドコーチは「国内レベルであれば、160㎝の選手でも運動量で3枚目を守れる」と言います。セオリーから外れたような選手起用をセオリーにしてしまうのが、アランマーレらしさ。宮田が出てくると、チームのDFがより引き締まります。高橋杏奈（飛騨高山ブラックブルズ岐阜）も161㎝で3枚目を守ります。弟の翼（琉球コラソン）と同じ背番号14で、ともに3枚目を守れるDF力が特徴です。

川端勝茂（トヨタ自動車東日本レガロッソ宮城）は2枚目で勘のよさを発揮するベテランですが、メンバー交代ができなかった時には3枚目に入って仕事をします。2008年のインターハイで全国優勝した長崎日大高校（長崎県）時代には、センターで3枚目を守り、チームをまとめました。34歳になった今も、体を張ってチームのピンチを救います。

江藤美佳（ザ・テラスホテルズラティーダ琉球）サイズのある2枚目

2枚目DFには運動量が求められます。大きくて強くて動けたら言うことなし。DFの強度を上げてくれる、頼もしい存在です。

橋本明雄（ジークスター東京）がDFメインで入る場合は、2枚目で出場します。ジークの課題は「2枚目DFの強度」。ヨアン・バラスケス（豊田合成ブルーファルコン名古屋）や櫻井睦哉（ブレイヴキングス刈谷）と比べると、攻撃型の選手が揃うジークの2枚目は強度でやや見劣りします。そこに体の強い橋本を持ってくることで、サイズと強さで勝負できるようになりました。

江藤美佳（ザ・テラスホテルズラティーダ琉球）はDFのオールラウンダー。170㎝オーバーの上背で、2枚目、3枚目、トップDFのすべてをカバーします。そのなかで一番力を発揮できるのが2枚目DF。長い手足と運動量でタイトに守ります。 (下に記事が続きます)

立花志友（トヨタ自動車東日本レガロッソ宮城）フットワーク力のある2枚目

2枚目のアグレッシブな動きは、チームDFのやる気スイッチ。2枚目の足が動くと、つられて他の選手の足も動きます。

立花志友（トヨタ自動車東日本レガロッソ宮城）は、2枚目DFのスペシャリストになりつつある22歳。時にはセンターラインを越えて、相手の球回しにプレスをかけていきます。立花が高く仕掛けられる日は、レガロッソの勝率が高いので、立花が勇気を持ってどれだけ勝負できるかが、ひとつのバロメーターになります。利光克仁（安芸高田わくながハンドボールクラブ）はフットワークが持ち味。3：2：1DFの2のところ（45度とも言います）に入って、運動量で貢献します。半田亮佑（ゴールデンウルヴス福岡）は守備型のキャプテン。高い3：3DFを仕掛ける時は、日本大学の後輩にあたる石川稜大、斎藤伎海の動きをさりげなくサポートします。

植松莉子（HC名古屋）と植松花乃（熊本ビューストピンディーズ）は、2枚目での牽制が上手な姉妹。特に姉の莉子は、HC名古屋がここ一番で使う4：2DFで、夏堀郁音との2トップで動き回ります。

藤勢流（豊田合成ブルーファルコン名古屋）究極のエースキラー

2枚目DFは、相手のエースと対峙します。運動量はもちろんのこと、様々な駆け引きで得点源を封じこめて、味方の速攻につなげます。

藤勢流（豊田合成ブルーファルコン名古屋）は、ボールを奪いにいく合成DFの象徴とも言える存在。右の2枚目で高い位置に出て、相手のエースを完璧に封じます。リーグHのとある監督が「藤勢流は代表に選ぶべき」と言うくらい、玄人筋での評価が高い選手。DFだけで場の空気を変えられる存在です。津山弘也（トヨタ紡織九州レッドトルネード佐賀）は、ベンチに近い側の2枚目に入って、相手の攻撃を邪魔します。2枚目のような、トップDFのような、マンツーマンでエースについているような、なんとも言えない絶妙な位置取りで、相手の足を止めてしまいます。(下に記事が続きます)

倉岡愛実（イズミメイプルレッズ広島）トップDFで動き回る

5：1DFもしくは3：2：1DFのトップは、運動量と勘のよさが求められます。パスコースに入る。ボールを持った選手に圧をかける。相手の攻撃の方向付けをする。様々な役割が求められる専門職です。

谷口尊（大同フェニックス東海）は、大同伝統の5：1DFのトップで機能する新人。富田恭介、千々波英明と、大同の黄金期には大型のトップディフェンダーが活躍しました。偉大なる先輩方と比べると、182㎝の谷口は小柄な部類になりますが、DFの貴重なオプションになっています。布施凜太郎（琉球コラソン）は高く仕掛けたい時の切り札。動きのキレ、勘のよさは非凡です。

倉岡愛実（イズミメイプルレッズ広島）はトップDFがはまり、自分の居場所をつかみました。171㎝と女子では上背がある方なので、前にいるだけで視覚的な効果は抜群。試合の途中から出てきて、流れを変える存在です。

東江太輝（琉球コラソン）フルバックでピンチの芽を摘み取る

立体的なDFの最後尾で、全体をコントロールするのがフルバック。3：2：1DFなら、ライン際にいる3人の真ん中にいる選手です。元日本代表の名ディフェンダー永島英明（元大崎電気ほか）は「3：2：1DFはスペースだらけのシステムだけど、そのスペースを相手に見えないように操作するのが、フルバックの仕事」と言っていました。シュートコースを制限するための上背以上に、賢さが求められるポジションです。

本来はディフェンダーではない東江太輝（琉球コラソン）が、3：2：1DFのフルバックに入ったシーズンがありました。サイズのないコラソンが立体的なDFで仕掛けたいのはわかります。でもバリバリの攻撃型の東江がフルバックというのは、ちょっと無理があるのでは？　と思っていたら、東江本人は「長くハンドボールをやっているんで、理屈はわかっています」と答えていました。フルバックでの出場経験はなくても、DFの仕組みを理解しているから、味方をどう動かして、スペースを消していくかはわかっているということでしょう。チーム事情でDF要員が足りなかった時に、東江兄はフル回転でチームを支えました。(下に記事が続きます)

勝木彪太郎（アルバモス大阪）1枚目で気が利く

サイドDFともいわれる1枚目は、楽なポジションと思われがちですが、1枚目の選手がしっかり守ってくれると、2枚目、3枚目がとても楽になります。1枚目が「1人で2人守る」くらいの運動量を出してくれたら最高です。 

1枚目に専門のディフェンダーを入れるチームはほぼないので、レギュラークラスでDF力の高い1枚目を紹介していきます。松倉みのり（北國ハニービー石川）はクロスアタックが得意な1枚目。相手のエース級に負けないだけの、当たりの強さが持ち味です。1枚目DFの基本である「キョロキョロと周りを見る」動きもよくやっています。西川千華（香川銀行シラソル香川）は出場時間が増えるにつれて、パスカットの勘のよさが目立つようになりました。ベテランの出村直嗣（豊田合成ブルーファルコン名古屋）もパスカットが得意技。2枚目、3枚目と連動して、パスコースを制限されたところに走り込み、ワンマン速攻に持ち込みます。

アルバモス大阪は左サイドがベンチに近い時間帯に、左の1枚目に勝木彪太郎をDF要員で入れます。銘苅淳監督は「勝木を入れると、速攻の展開がよくなるから」と言っていました。速攻のボール運びを任せる意味合いが強いようです。勝木のパスカットから展開するまでもなくワンマン速攻に持ち込んだり、勝木からの速い展開で2次、3次速攻で押したりと、アップテンポな攻撃が多くなります。

1枚目DFで印象的だったのが鰍場雅予（元北國銀行）。2010年代半ば、北國の連覇が始まった当初の右利きライトウイングです。豊富な運動量と、高く弾んだリバウンドをもぎ取る感覚が一級品でした。空中に高く弾んだリバウンドは意外と難しくて、他の選手がタイミングを合わせ損ねるなか、1人だけ最高到達点できれいにキャッチする姿が記憶に残っています。右端から鰍場、石野実加子、塩田沙代と同学年の3人で形成されたDFラインは鉄壁でした。 

辛島美奈（香川銀行シラソル香川）DFで盛り上がる

DFだけでチームを盛り上げられる選手は、得難いキャラクターの持ち主。ケガで苦しんだり、コツコツと練習を積み重ねてきたりといったプロセスを仲間も知っているから、盛り上がるのでしょう。 

辛島美奈（香川銀行シラソル香川）は、明るさと闘志でチームを引っ張るベンチキャプテン。ワンポイントで出てきて、ルーズボールを奪って、やたらと盛り上がります。長かったケガも治って、ようやくベンチに戻ってきました。亀井好弘監督とのテンポのいい漫談もストロングポイントです。塩田成未（三重バイオレットアイリス）はトライアウトで入団し、4年目の今季からベンチ入りの機会が増えました。右の2枚目に入って、キレのいいフットワークを披露しています。これといった武器がなかった状況から、時間をかけて、リーグHで戦える武器を手に入れました。

これですべてのポジションを紹介しました。選手ごとの役割や特徴をわかって見れば、ハンドボール観戦がとても楽しくなります。