激動の2023年。日本のハンドボール界の話題をベストテン形式でまとめました。2023年はハンドボール日本代表が、男子、女子ともに大きな仕事を成し遂げた年でした。来年はパリ五輪があります。男女そろってパリ五輪出場の夢がかないますように。その他のカテゴリーでも、いい話題がたくさんありますように。
1位:男子日本代表、パリ五輪に自力出場決める
2023年10月のパリ五輪アジア予選で、男子日本代表(彗星JAPAN)は優勝し、パリ五輪行きを自力で決めました。予選ラウンドと決勝で2度バーレーンと対戦して、どちらも勝ち切れたのが大きかったですね。ダグル・シグルドソン監督が「我々の最強の武器(our strongest weapon)」と評する5:1DFが、大会を通して機能していました。特にトップDFに髙野颯太(トヨタ車体)が入る時間帯はDFの強度が格段に上がり、バーレーンのやりたいことを先読みで封じていた印象です。髙野の「パスコースに入りつつ、自分のマークからも目を切らない」守り方は、2024年1月のアジア選手権でも多く見られるはずです。
なお、自力での五輪出場は諸説あって、先日日本協会から注釈がありました。1988年のソウル五輪の時代は五輪予選がなく、アジア選手権の優勝国が五輪にも出場していました。ソウル五輪は韓国が開催地枠で出場したため、2位の日本が繰り上がって出場しました。アジア1位通過での五輪行きは、1984年のロサンゼルス五輪以来の40年ぶりになります。細かい話になりましたが、いずれにしても彗星JAPANは重い扉をこじ開けてくれました。
2位:女子日本代表、ハンドボール強豪・デンマークに勝利
2023年12月の女子世界選手権メインラウンドで、日本は強豪・デンマークに27ー26 で勝利しました。ハンドボール発祥の国で、過去にはオリンピック3連覇を達成している強豪国を相手に大金星でした。しかも開催地がデンマークという「完全アウェー」での勝利です。決勝点は後半終了間際に決まった、相澤菜月(北國銀行)から松本ひかる(北國銀行)へのスカイプレーでした。松本自身は「あのスカイプレーは相澤さまさまです」と言っていましたが、大一番で勝負の責任を背負って決め切るあたりは松本さまさまです。彼女の「勝負の節目に絡む運」は、無形の力です。
3位:歴代最多1655得点・田中美音子(大阪ラヴィッツ)が引退
日本リーグ男女通じて歴代最多の1655得点を挙げた田中美音子が、2023年3月に48歳で引退しました。途中にデンマークで2年間プレーし、出産も経ての数字です。しかし田中にとって得点は「おまけ」にすぎません。得点以上のアシストなどでゲームを組み立ててきたからです。残した数字もすごいですが、数字に残らない部分でもすごい選手でした。30年間もプレーできたのは、身体能力に依存しないプレースタイルだったからでしょう。大阪ラヴィッツで現役を終えた田中は監督に就任し、チームを育てています。
4位:女子の大阪体育大、インカレ10連覇
2023年11月の函館インカレで、大阪体育大はインカレ10連覇を達成。日本代表監督も兼ねる楠本繁生監督が不在の間も、キャプテンの藤井愛子を中心に4年生がチームをまとめました。楠本監督とはZoom等で毎日連絡を取りながら練習してきたとのこと。今年の大体大はスペシャルな選手こそ日本代表の石川空ぐらいしかいませんが、全員が勝負の際を熟知しています。理にかなった2対2からの攻撃を粘り強くやりつつ、攻守の切り替えの早さであっという間にリードを広げていきます。楠本監督は常々「連覇はいつか途切れる。連覇の数字を気にするのではなく、その年、その年の日本一を目指そう」と言っていますが、連覇はどこまで伸びていくのでしょうか。
5位:女子日本代表、アジア大会で韓国を破る
2023年8月のパリ五輪アジア予選の決勝で、女子日本代表は韓国に1点差で敗れました。しかし9月のアジア大会では29-20と快勝しました。韓国戦の勝利は2012年以来。アジア大会の韓国戦で大活躍したのはGKの馬場敦子(北國銀行)。スーパーセーブを連発し、阻止率は脅威の5割越えでした。これまでも韓国戦に強いイメージが馬場にありましたが、アジア大会での活躍で名実ともに「韓国キラー」になりました。
6位:パリ・サン=ジェルマン来日。観客数が連日1万人を超す
世界のトップスターを擁するパリ・サン=ジェルマンのハンドボールチームが2023年夏に来日。東京の有明アリーナでジークスター東京、日本代表とプレシーズンマッチを行いました。ハンドボールファンにはおなじみのカラバティッチ兄弟に、フランスの次期エース候補のプランディ、オランダの小さな司令塔スタインズなど豪華メンバーが、有明アリーナに詰めかけた1万人以上の観客を沸かせました。2戦目の日本代表戦の10801人は、国内史上最多の観客数でした。日本リーグ期間中で、週3試合の過密日程にもかかわらず、激しいファイトを見せたジークスター東京の選手たちも立派でしたね。
7位:北國銀行、日本リーグプレーオフ9連覇 荷川取義浩監督勇退
2023年3月のプレーオフで、北國銀行は9連覇を達成。監督、総監督としてチームを30年間見てきた荷川取義浩監督が勇退しました。大きな体のニカさんは、たまに怒ると制御不能になる時がありましたが、選手の性格や特徴をよく見ている監督さんでした。松本ひかるのような「どのポジションでも機能するオールラウンダー」だったり、横嶋かおる(元北國銀行ほか)のような「リバウンドやルーズボールの嗅覚が抜群の選手」など、他の監督なら見落としがちな才能を引き出すのがとても上手でした。1点差に泣き続けてきた時代から、ボールに対する執着心を大切にしてきた伝統が、日本リーグ9連覇につながったのだと思われます。
8位:ミスターハンドボール・木野実さん逝去
初代ミスターハンドボール。立教大、湧永薬品(湧永製薬・現ワクナガ)、日本代表で活躍した木野実さんが、2023年10月に77歳でお亡くなりになりました。1972年のミュンヘン五輪、76年のモントリオール五輪にも出場したレジェンドでありながら、えらぶることなく、いつも気さくな方でした。湧永製薬を退職後は環太平洋大や京都大を指導しました。また日本車椅子ハンドボール連盟の会長を務め、国際ルールの統一などにも尽力されました。湧永製薬でよく言われていたのが「立教大にはミスターが2人おるんやで」。1人はもちろんプロ野球の長島茂雄さん(巨人軍終身名誉監督)。もう1人がミスターハンドボール・木野実さんです。御冥福をお祈りいたします。
9位:日本リーグ葦原一正代表理事が退任
「日本リーグのプロ化」を打ち出し、華々しくハンドボール界に乗り込んできた葦原一正代表理事でしたが、志半ばで2023年6月に退任しました。「結局ハンドボールは変わる気がないのか」と言われがちですが、ハンドボールは野球やバスケットボールと競技人口の数が違うし、チームの基礎体力も違います。改革側は「未来の話をしたいのに、今の議論になってしまう」と嘆き、チーム側は「バスケのやり方をそのまま当てはめないで」とこぼします。いい落としどころはないですかね。誰からも注目されないのが最悪なので、新体制でなんとかいい方向に進んでくれることを願います。
10位:国内の試合にもビデオ判定が導入される
国際試合で導入されていたビデオ判定が、2023年12月の日本選手権の準々決勝以降でも導入されました。審判2人の目だけでは限界があるので、VAR(ビデオアシスタントレフェリー)を置き、必要があれば試合を止めて、動画を巻き戻して確認するようになりました。プレーの強度が上がり、よりスピード化している時代です。昔みたいに権威で押さえつけたり、なあなあで済ますことなく、最新の設備を利用しながら判定していけると、より公正なジャッジが期待できます。審判へのリスペクトも生まれるでしょうし、ハンドボールを嫌いになる人も少なくなるでしょう。とてもいい改革です。
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コメント一覧 (2件)
最高!
思いだします。ありがとうございました。
いつもありがとうございます。木野さんの思いを受け継いで、2024年も進んでいきましょう。私は車椅子ハンドの取材で頑張ります。