30試合を戦って、3勝27敗勝ち点6。大阪ラヴィッツは最下位でリーグH元年を終えました。日本リーグ時代から3年連続の最下位ですが、2024~25年のシーズンは負けるにしても、これまでとは内容が大きく違いました。長年の課題が改善されて、田中美音子ヘッドコーチの意図が浸透しています。(下に記事が続きます)
2016年創設、速攻が伝統

大阪ラヴィッツは2016年に創設されたクラブチームで、2017年から日本ハンドボールリーグ(現在のリーグH)に加盟しています。大阪の四天王寺高校出身者が多いこともあり、四天王寺仕込みの速攻がチームの伝統です。一方でセットOFでの得点力に課題があるため、試合後半になると息切れする傾向がありました。点数が止まると、バックプレーヤーが一か八かのシュートを打ちだして、さらに点が入らなくなる悪循環に陥ります。かと思うと「自分たちの頼れる武器は速攻しかない」と、北國銀行(現北國ハニービー石川)を相手に31-47というハイスコアゲームで勝負した年もありました。「自分たちの良さを貫く」と言えば聞こえはいいですが、ゲームコントロールという点ではあまりにも無謀かつ無策でした。思考停止で走り続ける戦い方は、女王北國から30点を取った収穫以上に、チームに深い傷跡を残しました。(下に記事が続きます)
上田遥歌「マインドセットを」

2024年9月のシーズン開幕当初も、ラヴィッツの弱点が露呈しました。勝負どころで踏ん張れなくて、こらえ性のないシュートで攻撃が終わってしまいます。「走るしかないやろ」と前のめりになればなるほど、ミスが増えます。ピヴォットで3枚目を守る上田遥歌は「このチームは勝つためのマインドセットを考える必要がある」と、課題を口にしていました。「ただ走れば勝てるって訳でもない」とも言っていました。変えなきゃいけないのはわかっているけど、どこから手を付けたらいいのかわからない――そんなチーム状況で2024年度のシーズンもスタートしました。(下に記事が続きます)
土居佳加、丁寧に攻める

負けが続いていたラヴィッツですが、年が明けた2025年あたりから、試合内容がよくなってきました。元々レフトウイングの土居佳加がセンターになったあたりから、セットOFに粘りが出てきました。土居は「とにかく球離れをよくすること。ボールを長く持ち過ぎずに、すぐさばいて、エースの喜田ことみに気持ちよく打たせる。それだけです」と言っていましたが、やることが整理されてきた印象がありました。たとえ点差が離れても、丁寧にセットOFで攻めているから、試合が壊れません。「入ったらラッキー」という無謀なシュートがかなり減りました。これまでのような「見るに堪えない」敗戦ではなく、「正しいアプローチをしている」ように映りました。
ミスが少ないセンター・成松沙弥佳

土居とともにセットOFを安定させたのが成松沙弥佳でした。突出した特徴のないセンターですが、田中美音子ヘッドコーチは「ミスが少ないから」と、2年目の成松を重宝していました。成松自身は「まだまだ消極的なところがあるので、自分が相手DFを崩していけるようになりたい」と言っていましたが、ミスをしないのも立派な才能です。粘り強くボールを回し続けて、なおかつミスが出ないということは、それなりのスキルと判断力がないとできません。
エース・喜田ことみ、成長

30試合で241得点。初のリーグH得点王になったエースの喜田ことみにも成長の跡が見られました。速攻での爆発力やアウトスペースを割る長所はそのままに、今シーズンは2対2を絡めた得点を増やしています。ピヴォットの松田梨璃郁との2対2の外側を切れ込むだけでなく、センターの成松とクロスしてからピヴォットの松田にパスを落としたりと、周りの得点も伸ばせるようになってきました。
「シーズンが始まる前から2対2の合わせをやってきました。ボールをもらう前からピヴォットと目を合わせて、タイミングを合わせていくのは、普段の練習からやってきたこと」と喜田は言います。チームのセットOFが丁寧になったことについては「1回攻撃したあとの第2局面で攻撃が止まることが多かったので、最初にきっかけで攻め切れなくても、継続して攻められるよう、第2局面で何をするかを徹底してきました」と話していました。
最初のきっかけの動きでうまくいかなくても、淡白にならずに攻め続けているから、今年のラヴィッツは簡単に崩れません。無謀な個人技でプレーが終わらないから、見ていて期待が持てるのです。このあたりは田中ヘッドの教えが浸透しているのでしょう。 (下に記事が続きます)
田中美音子ヘッドコーチ「第2局面を整理する」

田中ヘッドにも、今シーズンの変化について聞いてみました。「戦う上で、どういう準備をするのか。どのように準備をしていくのか。そこは選手と会話しながらやってきました。OFでは動きのある局面はだいぶ良くなっていますが、最初のきっかけが終わった第2局面になると足が止まることが多い。第2局面で何をしたいかがわかれば、点も取れるし戻りやすい。ミスを減らすためにも、第2局面で何をするか意思疎通をしてきました。OFは積極的に行きながら、時間を使いたい場面では消極的になりすぎず、けれども博打をし過ぎない。そんな感じです」
この言葉からも、48歳まで現役を続けたレジェンド・田中美音子のハンドボール観が伝わってきます。日本リーグ歴代最多となる通算1655得点はあくまでもオマケ。それ以上のアシストとゲームメイクが、司令塔・田中美音子の真骨頂でした。(下に記事が続きます)
正しいことを積み重ねていく
田中ヘッドはさらに続けます。「攻守ともに、今やっていることを積み重ねていけたら、勝てるチームになっていけると思うんですよね。選手も負けが続いて、すごく苦しいと思います。『ここをもうちょっと、どうしたらいいのか』というのを、選手自身が感じて準備する試合が増えたからこそ、余計に苦しいと思います。選手はがんばっていますよ。勝たせてあげられないのは、私の力不足です」。
2024~25年のシーズンは試合数が多かっただけに、ダメージも大きかったでしょう。それでも正しいことを積み重ねて、3つの白星をもぎ取りました。やっていることは間違っていません。どこから手を付けたらいいのかわからない状況から、ようやく勝負のポイントが整理されてきました。田中ヘッド就任2年目で、ようやくラヴィッツが「美音子さんのチーム」になってきた感があります。田中ヘッドの現役時代のような「最後は勝負の責任を背負って、私が点を取りにいく」姿勢まで落とし込めたら、勝ち切る試合がもっと多くなるはずです。
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