ハンドボール男子ネクスト日本代表の練習が2025年6月6日、東京・味の素ナショナルトレーニングセンターで公開されました。ネクスト日本代表はフル代表の次の位置付けで、今回は春のリーグ戦が終わった大学生と、リーグHでプレーオフに出場しないチームの若手、計20名が選ばれています。
ジローナ監督は若手の育成が得意

かねてから「日本の若手を育成したい」と考えていた男子日本代表のトニー・ジローナ監督の発案で、今回の男子ネクスト日本代表の合宿が行われました。東京在住のジローナ監督は、リーグHだけでなく学生リーグも視察して、将来有望な若手をピックアップしました。スペインのバルセロナでも若い年代を教えてきたジローナ監督は、若手育成の手腕に長けた監督です。
公開練習は座学からスタートしました。動画とホワイトボードを使いながら、ジローナ監督はDFの約束事と判断の根拠を説明していました。スペイン人のジローナ監督はシンプルな英語で、熱量を持って話しかけます。間に通訳を挟んでしまうのがもったいないくらい。簡単な英語なので、直接聞いて理解する選手が増えてくれば、日本の若い年代はもっと強くなれるでしょう。
シャイすぎる。もっとしゃべろう

合宿は5月31日から始まっているので、雰囲気にもそれなりに慣れているはずなのですが、ジローナ監督に質問されても、とっさには英語で返せない選手が見受けられました。トニーさんは少しもどかしそうに「Too shy! Speak, speak, speak! And shout!(シャイすぎるよ。もっとしゃべって、しゃべって、しゃべって、叫ぶんだ)」と、選手に言っていました。その場で英語で議論ができればいいのですが、このあたりがフル代表との差かもしれません。ちなみに2025年6月21日の日韓定期戦に、ネクストからメンバーに選ばれるのは「3~4人ぐらい」(ジローナ監督談)とのことでした。 (下に記事が続きます)
末岡拓美(大崎オーソル埼玉)のリーダーシップ

まだ手探りな選手が多いなかで「さすがだな」と思わせる声かけをしていたのが、最年長26歳の末岡拓美(大崎オーソル埼玉)でした。「2024年8月のパリ・サンジェルマン戦に代表に呼んでもらって、今回が2回目。トニーの練習の意図もわかるし、厳しいなかにも明るさや楽しさがあった方がいいので、周りに声をかけて雰囲気を作っています」と、末岡は言います。
所属の大崎オーソル埼玉では、この1年でチームの顔になり、中堅ながらも若いチームメイトにハンドボールを教える機会が増えました。「代表ではハンドボールを学べるので、とても楽しい。トニーはリーグHの試合を何度も見に来てくれて、僕のよさを認識してくれているし、課題も伝えてくれる」とのこと。末岡の課題は、セットOFを組み立てようとしすぎて、前を狙う怖さがないままパスを出して、相手にパスカットされること。
「トニーからは『大崎でも同じようなミスをしていたよ』と指摘を受けました。自分を消さないようにしながら、周りにバランスよく点を取らせたい。僕はオールラウンダーだけど『どのポジションもそつなく』みたいな生半可な気持ちではなく、一つひとつのポジションにこだわりと責任を持てるようにしたい」と話します。CP(コートプレーヤー)6ポジションすべてができる末岡ですが、代表では「パスをさばいて、周りを生かすセンター」でメンバー入りを狙います。(下に記事が続きます)
ジローナ監督は「カケヒキ」好き

練習中にジローナ監督の口から何度も出てきた日本語が「カケヒキ」でした。市村志朗アナリストが興味深いことを言っていました。「スペインの指導者は『カケヒキ』って日本語が好きですよね。カルロス・オルテガ(前日本代表監督)もそうだったし、ウーゴ・ロペス(豊田合成ブルーファルコン名古屋コーチ)もトニーもそう。ハンドボール用語の『駆け引き』にあたるスペイン語がないのかも」。辞書をひけば「tàctica」というスペイン語(英語なら「tactics」)が出てきますが、個人戦術というよりは「相手とのやりとり」というニュアンスを、ジローナ監督は伝えたいのかもしれません。
キーワードは「牽制」「駆け引き」「しゃべる」

ちなみにジローナ監督の練習でのキーワードは「駆け引き」のほかに「牽制」「しゃべる」があります。「相手が動いてからリアクションでDFするのではなく、牽制を入れることでイニシアチブを取るんだ。特に若い選手には駆け引きが必要。DFの時にいい判断をするために、もっとしゃべるんだ。ここはメトロ(地下鉄)ではない。ハンドボールなんだ」というのが、ジローナ監督の哲学です。「日本の地下鉄では、みんな黙っているよね」と、笑いを交えながら伝えるトニーさんですが、日本人特有の奥ゆかしさを変えてほしいと切実に願っています。 (下に記事が続きます)
谷藤要(アースフレンズBM東京・神奈川)「頭の整理が必要」

ジローナ監督の練習は細かく、たとえばクロスアタック(目の前のマークマンではなく、ひとつ隣の選手に当たるDF)でも、色んなパターンを図に示して、3枚目、2枚目、1枚目DFにそれぞれ必要な判断基準を落とし込んでいきます。初の代表合宿だった谷藤要(アースフレンズBM東京・神奈川)は「頭を使うハンドボールなので、練習が終わったらその日その日で頭のなかを整理する必要がありました」と言っていました。これがまさしくジローナ監督の狙いです。ジローナ監督は「こういったトレーニングをして、頭を使ったプレーを2年、3年と続けていけば、いい意思決定をするようになるだろうし、簡単にボールを失うことも減るだろう」と言っていました。
前田理玖(富山ドリームス)「脳が疲れるのが楽しい」

同じく初代表の前田理玖(富山ドリームス)も「代表合宿の1日目、2日目は特に脳みそが疲れました。でもそういうハンドボールは楽しいし、(富山ドリームス監督の吉村)晃さんのハンドボールに似ているところもありつつ、代表とウチとでの戦術の違いを楽しみながらやっています」と、粋なコメントをしていました。富山ドリームスのストーリー性のある練習でプレーの幅を広げて、今季リーグHの得点王になっただけあって、理解は早いようです。「1対1だったり点を取ることは、代表合宿でも通用すると実感できたので、これからは判断力を磨いて、もっと周りを生かせるようにしたい」と、意欲を見せていました。(下に記事が続きます)
練習のなかで伏線回収

ストーリー性という点では、ジローナ監督の練習も負けていません。田中俊行ハイパフォーマンスアシスタントディレクターは「トニーさんの練習は、もっと指導者にも見てもらいたい」と言います。「パーツごとの部分練習をしながら、それが試合のなかでどういう風に使われるのかまで、1時間半の練習のなかでトニーさんはつなげていく。そういった伏線の回収というか、ストーリー性のある組み立てがとても上手な監督です」
劇薬タイプのオルテガ監督とは違い、じっくりと種をまいて育てるのが得意なジローナ監督。強化のストーリーが実を結ぶのは、2年後、3年後なのでしょう。急ごしらえだった2025年1月の世界選手権は苦しみましたが、地道な強化で日本全体のレベルを引き上げてくれそうです。
ハンドボール男子ネクスト日本代表2025年度第1回強化合宿 メンバー
No. | 氏名 | ポジション | 身長 | 年齢 | 所属 | 出身 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 南城 魁星 | LW | 194cm | 22 | 中大 | 富岡高 |
2 | 神初 真郁 | LW | 167cm | 22 | 大崎オーソル埼玉 | 国士舘大 |
3 | 本多 大地 | BP | 194cm | 19 | 日体大 | 小松明峰高 |
4 | 斎藤 伎海 | BP | 183cm | 22 | ゴールデンウルヴス福岡 | 日大 |
5 | 末岡 拓美 | BP | 186㎝ | 26 | 大崎オーソル埼玉 | 福岡大 |
6 | 前田 理玖 | BP | 179㎝ | 26 | 富山ドリームス | 早大 |
7 | 野尻 雄偉 | BP | 177cm | 23 | 琉球コラソン | 関東学院大 |
8 | 古澤 宙大 | BP | 177cm | 18 | 中大 | 駿台甲府高 |
9 | 井手 悠登 | BP | 178cm | 25 | 大崎オーソル埼玉 | 日大 |
10 | 秋吉 快生 | BP | 183cm | 18 | 日体大 | 千原台高 |
11 | 金岡 宙斗 | RW | 184cm | 23 | アルバモス大阪 | 日体大 |
12 | 谷藤 要 | RW | 177cm | 25 | アースフレンズBM東京・神奈川 | 福岡大 |
13 | 佐藤 秀亮 | RW | 187cm | 21 | 東海大 | 函館大学付属有斗高 |
14 | 露木 涼 | PV | 197cm | 24 | 富山ドリームス | 明星大 |
15 | 岡田 広規 | PV | 190cm | 21 | 大同大 | 大同大学大同高 |
16 | 根路銘 泰成 | PV | 188cm | 24 | 安芸高田わくながハンドボールクラブ | 東海大 |
17 | 黒島 太貴 | PV | 180cm | 20 | 大同大 | 那覇西高 |
18 | 今井 寛人 | GK | 189cm | 23 | 安芸高田わくながハンドボールクラブ | 大体大 |
19 | 田中 星矢 | GK | 190cm | 22 | 関西大 | 関西大学北陽高 |
20 | 境 駿太 | GK | 181cm | 23 | 福井永平寺ブルーサンダー | 中部大 |
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