東京・味の素ナショナルトレーニングセンターで2025年12月29日、ハンドボール男子日本代表(彗星JAPAN)の練習が、メディア向けに公開されました。国内での強化合宿ののち、サウジアラビアでの直前遠征を経て、2026年1月15日からの男子アジア選手権(クウェート開催)に乗り込みます。代表選手18名の寸評をまとめました。
#1:中村匠(豊田合成ブルーファルコン名古屋)GK

日本を代表するGK。長い手足を上手に操り、迷いなくシュートに飛び込みます。体のバランスがいいから、逆を突かれた時にも残り手、残り足で対応できます。セーブしたあとのリバウンドボールへの「もうひと跳び」が出る時は絶好調。悟りを開いたようなメンタル面も含めて、チームを後方から支えます。エンプティゴールの大遠投など中村の見せ場が増えれば、日本代表は勝利に近づきます。2025年度のシーズンからは「シャツイン」する着こなしを、国内で流行らせようとしているとのこと。
#4:櫻井睦哉(ブレイヴキングス刈谷)RW

右の2枚目が守れる大型ライトウイング。櫻井が右2枚目にいてくれる安心感は、何物にも代えがたいです。長いリーチがありながら、脚力でついていけるだけのフットワーク力もあり、相手エースを、マークを受け渡さずに「そのまま」守るのが得意技。櫻井を入れておけば、右側がベンチから遠くなっても、攻守のバランスが整います。サイドシュートもシンプルによく入るので、攻守両面で大きなプラスを作ってくれそうです。(下に記事が続きます)
#8:石田知輝(公益財団日本ハンドボール協会)LW

海外でのプレーを熱望しているため、今回のアジア選手権は「就職活動」を兼ねての戦いになります。身体能力が高く、速攻、セットともに長い滞空時間で魅せるレフトウイング。空中でフェイクを入れる「ダブルクラッチ」は、石田の得意技のひとつです。また今大会ではトップDFの役割も担うことになりそう。「ここ一番で足を動かして、相手のボールをカットしたい」と意気込みます。トニー・ジェローナ監督の期待する「速さ」を、攻守に思う存分発揮してくれたら、所属先も決まるでしょう。
#9:杉岡尚樹(ブレイヴキングス刈谷)LW

ベテランの扱いになりましたが、攻守の切り替えの速さは今もなお国内随一。素早くボールを奪い、速攻に飛び出し、高確率で点を取ってくれる存在です。アップテンポな展開に持ち込むなら、杉岡がレフトウイングのファーストチョイス。突き上げるように放つ、回転数の多いループシュートは唯一無二。縦の変化でGKのタイミングを外しながら、得点を伸ばしたい時間帯で貢献してくれると助かります。石田知輝とともに京都出身の高速ウイング2人が、左サイドを駆け抜けます。
#12:岩下祐太(ジークスター東京)GK

経験豊富な守護神。ジェローナ監督は「国内No.1のGK」と言って、岩下の代表復帰を決めました。運動神経のよさは相変わらずで、世界のGKと比べるとやや小柄でも、爆発的な動き出しでシュートを阻止します。ここ一番のノーマークシュートを止めてくれるし、近年はDFとの連携に力を入れている発言も増え、若い頃のような気持ちのムラがなくなり、どんな場面でも頼れるベテランになりました。若い世代に「日本代表とはなにか」を教える役割にも期待。 (下に記事が続きます)
#15:部井久アダム勇樹(ジークスター東京)LB

9mラインの外から放つ豪快なロングシュートもありますが、今回の代表では「DFの柱」でいることがメインになりそうです。3枚目DFは部井久と誰を組ませるのか。玉川裕康(ジークスター東京)がケガでいないので、DFのリーダーとしての役割が期待されます。長いリーチでシュートコースを消して、屈強なピヴォットをケアし、周りに声をかける。代えの効かない存在なので、とにかくケガなく大会を全うしてくれたら。
#20:渡部仁(ブレイヴキングス刈谷)RB・RW

2024年のパリ五輪後に「代表監督が変わっても、日本代表に呼ばれる」との目標を掲げ、2025年10~11月の海外遠征から代表に復帰しました。年明けに36歳になりますが、渡部以上に「右2枚目をハードに守れるライトバック」は、国内にいません。前回の海外遠征では鎖骨骨折のアクシデントがありながら、1カ月ほどで復帰した驚異の肉体の持ち主。今も筋トレを欠かさず、「筋肉の貯金」を続ける大ベテランです。攻守に2ポジションで「シンプルに強く」プレーできるから、ジェローナ監督体制でも重宝されるでしょう。(下に記事が続きます)
#31:吉野樹(ブレイヴキングス刈谷)LB

ジェローナ監督体制で初の国際大会だった、2025年1月の世界選手権で孤軍奮闘したエース。9mの外から打ち分けるシュート技術がありつつ、カットインもできて、近年はパス捌きにも磨きがかかりました。強い武器を正確な状況判断で使い分けるから、先発でも途中出場でも安定した活躍が期待できます。どんな状況でも前向きで、若手の成長を見守る姿からも、人間性の素晴らしさが伺えるベテラン。「日本代表とはなにか」を、言葉と行動で示してくれる選手です。
#38:水町孝太郎(豊田合成ブルーファルコン名古屋)LB・CB キャプテン

2025年12月の日本選手権はケガで全休でしたが、代表合宿には間に合いました。若い頃は地肩の強さに任せて打ちまくっていましたが、近年は速いパス回しと正確な判断に技術が備わった、いいベテランになりました。今大会では5:1DFのトップに水町が入る時間帯もありそうです。ジェローナ監督は「水町には経験と強靭なフィジカルがある」と言います。水町自身は「トニーのハンドボールを攻守に理解している人間が、トップDFをやることに意味がある」と解釈しています。ジェローナ監督の求める役割をどう表現するのか。キャプテンは攻守に大切な役割を担います。
#39:藤坂尚輝(大同フェニックス東海)CB

2024年パリ五輪代表に選ばれてからは、若くして代表の中心選手になりました。DFの陰を利用した強烈なブラインドシュートに、キレキレの1対1で、得点力は国内最高峰。その気になれば1試合で10点が取れます。得点力で試合を作るタイプの司令塔なので、課題は自身のシュートが決まらない時間帯のゲームメーク。ボールを回せる田中大介の力を借りながら、いいところだけを出せたら、最高のインパクトプレーヤーになれるでしょう。勝負どころでは、3枚目DFを孤立させての1対1で、簡単に相手を振り切ってくれます。(下に記事が続きます)
#43:榎本悠雅(ヴィオヴォディナ/セルビア)RB

眼光鋭い、期待の若手左腕。2025年11月の北マケドニア戦での大活躍で、ライトバックの一番手に名乗りを上げました。身長が175㎝しかないのに、DFの枝にかからず、ディスタンスシュートを決め切れるのが一番の魅力。「DFとGKとの関係性を見ながら、相手が準備できていないタイミングや、GKから出所が見えない場所で打つ」という高い技術は、ハンガリーやセルビアなどで生き残るために身につけたもの。ジェローナ監督は「大きい選手と対峙してきた経験を、日本代表に還元してくれる選手」と、期待を寄せています。

#48:山田信也(ブレイヴキングス刈谷)PV

所属では若い頃からDFリーダーの役割を担ってきました。試合に出続けるうちにOFでの強さも出てきて、ライン際でのスクリーンの力強さは、おそらく今回の代表メンバーのなかで一番かと思われます。大きくて少々粗いイランなどとの肉弾戦には欠かせない存在です。無骨なようでいて、目の前のスペースが広ければ1対1を仕掛けるなど、「オシャレな引き出し」を隠し持っている選手なので、山田の得点が増えると、チームも活気づくでしょう。
#51:中田航太(レッドトルネード佐賀)RW

2025年1月の世界選手権のリベンジを果たしたい左腕。純正のライトウイングで、国内では8割を超える高確率でシュートを決めています。高精度な技を、国際レベルでも発揮してくれたら言うことなし。最後まで流しか引っ張りかがわかりにくいシュートフォームは、きっとアジアでも通用するはず。「どんな相手にも、自分のシュートを打てばいい」と悟った、2025年8月のパリ・サン=ジェルマン戦の経験を生かす時が来ました。(下に記事が続きます)
#54:伊禮雅太(ジークスター東京)CB・LB・LW

国際大会での印象がいい選手です。シンプルな1対1を軸に組み立てるセンターで、ポジションチェンジでレフトバックに移動してからのアウト割りが得意技。戦術理解も優れているので、即席の合わせでも力を発揮する頼もしさがあります。2枚目DFもできるので、攻守交代なしで押したい時間帯に重宝します。2025年11月の北マケドニア戦では、ケガ人が続出したレフトウイングに入り、サイドシュートをソツなく決めていました。もしもの時のオールラウンダーとしても期待大です。
#56:荒瀬廉(豊田合成ブルーファルコン名古屋)RB・RW

日本選手権で負傷した蔦谷大雅(ジークスター東京)に替わっての追加招集です。この1年でプレースタイルが大きく変わり、オフ・ザ・ボールの動きや状況判断が見違えるほど改善されました。2024年8月のパリ・サン=ジェルマン戦ではトリッキーなブラインドシュートで会場を沸かせましたが、今回のアジア選手権では「理にかなったプレー」で魅せてくれるはず。「初見殺し」と呼ばれたトリックシュートを控えめにして、次につながるシュートの駆け引きで点数を伸ばしてくれそうです。
#57:中沖仁希太(ジークスター東京)PV

2025年1月の世界選手権で日本代表デビュー。まだピヴォットが本職でもないのに、攻守にハイレベルなことを求められ、ちょっと不憫でした。あれから1年、日本体育大学から期限付き移籍で入ったジークスター東京でも、徐々にピヴォットらしい動きができるようになってきました。練習からジェローナ監督は「仁希太、スピーーーーク!(もっと話せ)」と、中沖に目をかけています。先行投資に応えられるか。殻を破る時が来るの待ちましょう。(下に記事が続きます)
#58:田中大介(豊田合成ブルーファルコン名古屋)CB

2025年11月の北マケドニア戦で大いに株を上げ、30歳にして代表に定着しました。素早いパス回しと的確な判断で「国際試合でも、ここまでゲームコントロールができるんだ」と、多くの人を驚かせました。若い頃はよくも悪くも「シュートもアシストも自分発信」で、ボールを長く持つタイプでした。近年は球離れが格段によくなり、位置取りとパス回しでスペースを作れる王道の司令塔になりました。鼻っ柱の強いプレースタイルは健在で、DFの頭をかち割るようなステップシュートはいいアクセントです。
#68:市原宗弥(豊田合成ブルーファルコン名古屋)PV

球際の強さで信頼を勝ち取ったピヴォット。数字に残らない「粘り腰」で、チームを下支えします。DFでは誰よりも体を張り、ルーズボールに率先して飛び込みます。OFではサイドスクリーンで味方のスペースを作りながら、ラインクロスギリギリのところで踏ん張って、得点につなげます。2025年1月の世界選手権では、泥臭さが裏目に出て、入っていきなり退場のシーンが何度かありました。国際レベルで退場にならずに、フリースローを取れる強さを見せてくれるか。成長を示したいところです。
トニー・ジェローナ監督:「北マケドニアとの試合がベース」

ジェローナ監督は「2025年11月に北マケドニアと戦ったメンバーが中心になる。戦い方も北マケドニアとの試合がベースになるだろう。蔦谷がケガで外れたのは残念だが、11月にケガで参加していない藤坂が加わり、今回はこの18名で戦う」と言っていました。思うようなメンバーを組めなかったりと、就任以来苦労してきましたが、今回のアジア選手権に向けては、明確な意図を持ってメンバーを組めたようです。
練習では水町、石田をトップに出した5:1DFにも取り組んでいました。キャプテンの水町は「ダグル(・シグルドソン監督)の時の5:1は、大きい選手をトップに置いて、相手の攻撃を遮るイメージ。トニーの5:1は、相手にプレーをさせてから誘い込むイメージ」と、違いを説明していました。部井久を中心とした6:0DFで試合を落ち着かせながら、要所で仕掛ける5:1DFがカギを握りそうです。
世界選手権へ アジア枠は上位4つ
2026年1月15日からのアジア選手権では、オーストラリア、サウジアラビア、イランと同じグループDに入りました。伝統的にいいハンドボールをするし、今大会へ向けて入念な準備をしているサウジアラビア。重たいピヴォットとロングシュートの二択でシンプルに攻めてくるイラン。この2カ国とは接戦が予想されますが、グループリーグをできれば1位で抜けて、メインラウンドも勝ち抜き、準決勝進出といきたいところ。世界選手権の出場権は上位4カ国に与えられるので、準決勝進出は最低ノルマです。まとまりが出てきた彗星JAPANの戦いぶりに期待しましょう。
【男子アジア選手権の出場チームとグループ】
- グループ A:カタール、韓国、オマーン
- グループ B:バーレーン、イラク、中国、ヨルダン
- グループC:クウェート、UAE、香港、インド
- グループD:日本、イラン、サウジアラビア、オーストラリア
※出場15チームがA~Dの4グループに分かれてリーグ戦を行う。各グループ上位2チームがメインラウンドに進出、メインラウンドでは予選ラウンド各グループの上位2チーム(計8チーム)が、2グループに分かれてリーグ戦を行う。各グループの上位2チームが準決勝に進出する。
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