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「五島軒」「ラ・ロシェル」で学んだプロ論 | 東京・四谷”IIZAKA”シェフに聞く[前編]

フランス料理・IIZAKAシェフ 飯坂竜太さん
フランス料理「IIZAKA」シェフ・飯坂竜太さん=久保写す、以下すべて
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 スポーツ以外のジャンルのプロに、スポーツ取材に欠かせない技術論や感情のコントロール方法を聞くと、どんな答えがかえってくるだろうか。東京・四谷4丁目にあるフランス料理「IIZAKA」のシェフ・飯坂竜太さんにインタビューした。心身のコンディションを整え、個人の技を磨きつつチームプレーも求められるシェフの世界は、トップアスリートに通じるものがあった。

飯坂 竜太(いいざか・りゅうた)1974年生まれ、埼玉県出身。高校卒業後に北海道・函館の老舗レストラン「五島軒」で修行を始める。4年半の修行ののち、料理の鉄人等で知られる坂井宏行氏の店「ラ・ロシェル」で2年半ほど勤務。その後は在外公館の公邸料理人としてボストン、クアラルンプール、パリ、ジュネーブを回り、2011年から東京・四谷4丁目でフランス料理「IIZAKA」を営む。

目次

どこでも食材のポテンシャルを見極める

東京・四谷四丁目にあるフランス料理「IIZAKA」
東京・四谷四丁目にある「フランス料理 IIZAKA」

久保:プロの料理人の条件のひとつに「味の再現性」があると思うのですが。

飯坂:大使館だったり、ホテルだったり、個人の店だったり、場所によって優先する順位は変わりますが、ただどこへ行っても、自分の思っている味を作り出せる力は必要ですね。 

久保:行った先にひどいオーブンしかなかったとしても、水準以上の味を出さなければいけません。

飯坂:まずはオーブンの特性を見極めるというか、その機材が一番いい状態を知ることが第一です。食材も国によってかなり違うので、その土地の食材の味を知ることから始めます。たとえばカレーを作るにしても、日本の野菜は水分が多いので、最初にローストする方が味がよくなりやすいんですよ。カレーは野菜を煮込んで作りますが、日本の野菜であれば一回オーブンでローストして水分を飛ばしてから入れた方が、味が濃くなります。フランスや海外の野菜は味が濃いので、ローストすると味が濃くなりすぎます。海外で同じ味のカレーを作りたいのなら、そのまま水からゆでた方が、ほぼ同じ味のカレーになります。その時その時で野菜を食べて、その食材のポテンシャルがどれくらいなのかを自分で見極めてから、自分の思っている料理、味にしています。

久保:飯坂さんのカレーの原点は、最初に修行した北海道・函館の老舗レストラン「五島軒」だと思うのですが、たとえば玉ねぎの味はどういう風に調整するのでしょう。

飯坂:産地によって玉ねぎの甘味が違うので、玉ねぎを炒める時間を変えるだけです。炒めていて甘味が足りなければ、もう少し加熱して、イメージしている甘味までもっていきます。もともとの甘味が強い場合は、そんなに炒めない場合もあります。使う玉ねぎの量は変えないで、甘味等は火の入れ方で調整します。 

久保:北海道の玉ねぎを基準に考えると、どうなりますか。

飯坂:フランスの玉ねぎなら、北海道のよりも若干長く炒めますね。淡路島の玉ねぎは甘いから、北海道のよりも炒めないかもしれません。お肉の硬さも、あと10分多く煮込むとかで調整して、それらを合わせて、自分の基準の味に持っていきます。

ムッシュの教え「精神の安定こそ」

IIZAKAの、ある日の魚料理。予算や好みに応じて、メニューを変えられる
ある日の魚料理。予算や好みに応じて、メニューを変えられる

久保:自分の味覚がぶれてしまうと、基準も崩れませんか。

飯坂:そういう怖さがあるので、常に自分が同じ状態にいられるようにしています。仕事中は一切刺激物を食べません。本当は辛い物が大好きですけど、食べるとしたら休日の前夜だけ。激辛の物を食べると味覚がおかしくなるので。あとは味見をする前には必ずブラックのアイスコーヒーを飲んでいます。シェフによって違いますけど、フランス料理の場合はアイスコーヒーで感覚をリセットしている人が多いですね。コーヒーには消臭効果があるので、香水の香りを何種類も嗅ぎ分ける時にも、コーヒー豆の入った缶が渡されます。匂いのリセットです。

久保:体調管理には、感情の管理も入ってきます。

飯坂:これは「ラ・ロシェル」にいた時にムッシュ(坂井宏行氏)から教わってきたことで、「精神が安定していないと、いい料理が作れない」と。周囲の人とハッピーな関係でいることが一番大切だというのが、ムッシュの教えでした。だれかとケンカしたりしていると感情が出るので、味覚のバランスが崩れるんですよ。それをムッシュが察した場合、働く場所が変わったりします。今日はソースを作る場所の担当だった人が、他の場所に回されたりします。

久保:随分細かいところまで見ているんですね。

飯坂:ムッシュは一緒に働くメンバーへの思いが強かったですね。1人でも状態がよくないと、他に影響が出てくるので、チームでいいものが作れない。そうならないためにも、全体のバランスを見ていました。個人で技を磨くけど、チームとしてお店全体で料理を作るところは団体競技にも似ていますね。体調管理とか感情とかは料理にすぐに出るので、大切な部分です。

 客の好み、会話から探って味調整

IIZAKAの肉料理
ある日の肉料理。ソースもおいしいし、下に敷かれたじゃがいものピュレが絶品

久保:一緒に働く仲間のコンディションだけでなく、お客さんのことも観察するのでしょうか。

飯坂:ギャルソン(給仕)がお客さんと話していて、出張なのか、滞在して何年なのか、どういう話し方をしているのかなどを見て、どこの出身で何歳ぐらいかといった情報とともにソーシエ(ソース担当の料理人)に伝えて、最後に塩味の濃さを調整したりしています。だから2人のお皿に同じような料理が出てきても、味つけが全然違う場合があります。お客さんに喜んでもらうために、情報を集めて、微調整しているんです。

久保:対戦相手のデータ分析みたいですね。

飯坂:ギャルソンが「こういうお店によく来られるのですか?」と聞いて、その答えによって味を変えたりもします。フランス料理のソースで言えば、赤ワインの量を減らして、フォン・ド・ヴォー(だし)の量を増やせば、フレンチよりも洋食っぽくなります。そうするとフレンチになじみがない人にも食べやすい味になります。逆に赤ワインを増やした場合、よりフレンチっぽくなりますが、慣れていない人には食べにくいこともあります。何が好みか分からないので、お客さんになるべく喜んでもらえるように、さりげなく探りを入れているんです。

「ラ・ロッシェル」でソーシエになると、小さい鍋で20個ぐらいソースを作ることになるんですよ。常に調節して、お客さんごとに寄り添った味を出しています。

久保:そこまで細かく分けているのですか。

飯坂:それぞれの鍋に余ったソースはひとつに集められて、翌日のランチのソースになります。ランチは色んな人が入れ替わり立ち替わり来店するから、個別の対応はできません。

久保:その分ランチはお得になるんですね。

感情の波が店をつぶす

IIZAKAシェフ・飯坂竜太さん
余計な感情を持ち込まずに、目の前のお客さんに集中する

久保:個人店の場合は、感情が波打っていようと厨房に立たないといけません。大変かと思うのですが、感情を切り替えるスイッチがあるのですか。

飯坂:お客さんに集中しているので「お客さんが終わってからでいいや。今はお客さんに集中しよう」という優先順位になっています。

久保:そういう感情のコントロールはどこで学んだのですか。

飯坂:学ぶというよりは、独立して失敗した先輩を数多く見てきたので。店をつぶすのはケンカ、お酒、あとは調子に乗る人。「1号店でこれだけ利益が出るんだから、来月にでも2号店を出そうか」なんて人は、だいたい失敗しているので。感情的になってフライパンで仲間を叩いている人や、キッチン内でタバコを吸う人も、だいたい店をつぶします。タバコで味覚がおかしくなるというよりも、キッチンは聖域なので、そこを自分で崩すのは料理人としてどうなのか……。そういう例を見てきたからでしょうね。(後編に続く)

フランス料理 IIZAKA

住所:東京都新宿区四谷4-22-17 グランドゥールオークラ 1F
営業時間:18:30~(ランチは完全予約制)
定休日:月曜日
電話:03-5925-8250
席:12席

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