何とも後味の悪いエンディングだ。なでしこジャパンの8強で盛り上がったFIFA女子ワールドカップ2023オーストラリア&ニュージーランド大会表彰式(2023年8月20日)での「事件」のことだ。スペインの優勝をたたえるトロフィー授与式で、スペインサッカー連盟のルイス・ルビアレス会長(46)が選手たちを順にハグしながら祝福する中、FWジェニファー・エルモソ選手の唇にキスをした。頭を両手で引き寄せ、逃げられないようにしたことが「性暴力」にあたると世界の批判が殺到している。
「強引なキス」エルモソ選手は「嫌だった」
ことの顛末を整理する。
20日の表彰式での「強引なキス」が国際映像やSNSで拡散すると、ルビアレス会長の行為が「セクシャルハラスメント」にあたると批判が殺到した。
エルモソ選手もインスタグラムに「いやだった」と記した。
しかし、その後、連盟広報がエルモソ選手の名前で出した声明では、 「会長と私は素晴らしい関係で、彼の私たちに対する態度は満点だった。あれは自然な感謝と愛情表現だった」とルビアレス会長を擁護するコメントもした。
21日にルビアレス会長は、「私は完全に間違っていた。それを認めざるを得ない」と述べたが、25日に開かれたスペインサッカー連盟の緊急総会では、自己弁護に終始し、会長職は「辞任しない」と述べた。
そして会長はこうも発言した。「その場の勢いでの自発的なキスだった。双方の、感極まった状況での、お互いに同意してのことだ。同意していたというのがポイントだ。それで軽くチュッとしただけで、こんなことになってしまうのか?」
選手反論「やり取りは、一切なかった」
それに対してエルモソ選手は、態度を一転。インスタグラムにこう記した。「あの残念な出来事に関するルイス・ルビアレス氏の説明は、完全に事実と異なり、彼自身が作り出した他人を懐柔し操ろうとする行為の一部だ」と反論。
「明確にしておきたい。会長が(総会で)述べたようなやりとりは、一切なかった」と強調。「何より、彼からのキスに同意したこともない。前にも書いたように、私にはいやな一件だった」と書いた。
FIFAの規律委員会は26日、ルビアレス会長を90日間、暫定資格停止とする処分を発表した。
スペイン在住23年の友人に聞いた
この報道が世界に広がるなか、スペイン在住23年、現在は都内に住む友人にこの一件をどう思うか聞いてみた。すると、ルビアレス会長がハグで選手と頬を寄せてあっている写真しか観ていなかった彼女は最初、「これはあいさつじゃん!」と返してきたのだが、頭を押さえつけて唇にキスをしたと説明すると「それはアウト」と即答した。
今もスペインに住む長女にも聞いてみたといい「娘はもちろん、国民みんなが怒っている」。「キスした瞬間を見ていた(スペインの)女性たちは、会長とエルモソ選手はカップルなのかと思った」という。
男子代表監督も、イニエスタも糾弾
この事態に、スペインのサッカー界を代表して、男子代表のデ・ラ・フエンテ監督が27日、ルビアレス会長を非難する声明を発表した。
「このような出来事が起きたことを深く後悔する。スペイン女子が成し遂げた偉業、私たちが誇りに思うべきものからスポットライトを奪ったことが残念だ。この出来事が国内外のレベルでスペインサッカーのイメージを曇らせていることに失望を表明する」
2023年6月にJ1神戸を退団した元スペイン代表のスター、MFアンドレス・イニエスタも、27日に公式X(旧:Twitter)を更新。「今週の出来事について、僕はいち人間として、3人の娘の父親として、夫として、そしてプレーヤーとして、フットボール界とスペイン女子代表の周りで起きている出来事に対する悲しみを伝えたい」「ワールドカップ優勝という偉大なマイルストーンに泥を塗った今回の行為は、決して許されるものではない」などと批判した。
スペイン首相も辞任要求発言
スペインのペドロ・サンチェス首相からも同会長の辞任を求める発言が飛び出していて、四面楚歌のルビアレス会長。もはや辞任は避けられないだろう。国際映像で配信された祝福の場で、エルモソ選手の歓喜を一瞬にして台無しにしてしまった「強制キス」はあってはならない行為だった。1次リーグでスペインを4-0で下した日本が優勝していれば、こんな騒ぎにはならなかったのに、と今更ながらに思うのは私だけだろうか。
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