雨で水たまりができたトラックを右手でたたいて、丸刈り頭を抱えて悔しがった。2024年6月30日、新潟・デンカビッグスワンスタジアムで開かれた陸上・日本選手権最終日。男子800m決勝を1分46秒56で圧勝したのは決勝進出者のなかでただ一人、鉢巻きを巻いた滋賀学園高3年の17歳、落合晃(おちあい・こう)だった。2位の日本記録保持者、川元奨(スズキ)らに1秒以上の大差をつけた圧勝にも、悔しさがあふれたのは、日本一より、もっと大きな目標があったからだ。
「今年はパリオリンピックを目標にしていて、参加標準タイム(1分44秒70)をこの決勝で狙うと決めていた。その点では悔しさがあります」とレース後のインタビューで落合は声を絞り出した。
限界を設けない17歳の強味
800mはトラック競技のなかで日本と世界との差が最も顕著な種目の一つ。欧州では花形種目で来月のパリ五輪でもトラック競技最終日の8月10日に決勝がある。落合はそんな「世界との差」に頓着なく、「パリオリンピックを目標にしていて」と堂々と話すあたりが新鮮だ。若くて経験が浅いことは否めないが、一方、怖いもの知らずで自分に限界を設けないところが17歳の強み。その思い切りの良さが存分に発揮されたレースだった。
落合はスタートから積極的に飛びだし、400mの通過は筆者の手元の計時で52秒フラット。「(記録を狙おうと)自分で(ハイペースで突っ込んで)行くって決めて、勝ち切れたのは自信になったし、うれしい気持ちです。今後は日本だけでなく世界でも戦っていける選手になれるように頑張っていきたいです」。駆け引きやペース配分がものをいう800mで、逃げて勝つのはよほどの力の差がないと難しい。落合が1分45秒75の日本記録を更新するのはおそらく時間の問題だろう。
惜しまれる雨、展開
落合は前日の予選で余力をもちながら日本歴代3位、20歳以下の日本記録となる1分45秒82をマークしていた。パリ五輪参加標準記録まで1秒12に迫る好記録で期待を抱かせた。
この日の決勝がもしも雨でなく、体が冷えていなかったら。もしも、展開が落合の1人旅ではなく、シニアのトップ選手たちが競りかけるような展開で落合が2段スパートしていたら…。惜しまれる部分はあるが、レースを観る限り、本気でパリ五輪の標準記録を狙っていたのは決勝進出者のなかで落合だけだったのは明らかだ。(下に記事が続きます)
男女800mで高校生優勝は史上初
高校生が日本選手権男子800mを制したのは2019年のクレイアーロン竜波(神奈川・相洋高)以来5年ぶり。これに先立ち行なわれた女子800m決勝も16歳の久保凛(東大阪大敬愛高2年)が12分3秒14で初優勝した。久保はサッカー日本代表MF久保建英(23)=レアル・ソシエダ=のいとことして知られる。男女の800mで高校生がそろって優勝するのは史上初めての快挙だった。
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