パリ五輪出場権を目指すバレーボール男子の日本代表は2023年10月1日、FIVBワールドカップ第2戦をエジプトと行い、フルセットの末に敗れた。前日の初戦・対フィンランドには勝つには勝ったが、フルセットの末の薄氷の勝利だった。日本が当初、もくろんでいた「5試合目まで失セットゼロ」の計画は早くも狂い、8チーム中4位につける。上位2チームに与えられるパリ五輪出場権には黄信号がともる状況だ。テレビにかじりついて試合を観戦したPen&Sports [ペンスポ]編集長の原田亜紀夫が、苦戦したここ2試合を振り返り、残る5試合の戦い方を考えた。
2023年10月3日試合開始前時点Pool B 順位表(開催国日本)
順位 | チーム | 勝ち | 負け | 勝ち点 | セット率 | ポイント率 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | アメリカ | 2 | 0 | 6 | MAX | 1.442 |
2 | スロベニア | 2 | 0 | 6 | MAX | 1.170 |
3 | セルビア | 1 | 1 | 3 | 1.333 | 1.019 |
4 | 日本 | 1 | 1 | 3 | 1.000 | 1.178 |
5 | トルコ | 1 | 1 | 3 | 0.750 | 1.042 |
6 | エジプト | 1 | 1 | 2 | 0.600 | 0.782 |
7 | フィンランド | 0 | 2 | 1 | 0.333 | 0.788 |
8 | チュニジア | 0 | 2 | 0 | 0.000 | 0.780 |
※勝ち点は
- 3-0、3-1の勝利なら3ポイント
- 3-2の勝利なら2ポイント
- 2-3の負けなら1ポイント
順位は①勝敗②勝ち点③セット率④ポイント率の順で決まる。
「5試合まで失セットゼロ」初戦でとん挫
フィンランドに辛勝したあと、ブラン監督は「5試合までは失セットゼロの計画だった。計画は変わってしまった」と明かしたことを報道で知った。この試合では石川の調子が攻守にわたって芳しくなかった。特に最終セット。リードしてからの6連続失点は石川がサーブで狙われて連続で崩されて逆転されたものだった。その場面は、その日全くコートに立っていなかった大塚をいきなり投入。大塚がなんとかサーブレシーブをさばいてブロックアウトで得点もし、ギリギリのところで勝ち切った。
2セットまでは余裕で連取した。そして、第3セットではミドルブロッカーの髙橋健太郎を小野寺太志にかえて投入。西田有志に代えて宮浦健人を入れるなど、多くの選手交代を行った。リリーフサーバーとして期待の若手アウトサイドヒッター、甲斐優斗も起用した。9日間で7試合というタフなスケジュールをこなすために多くの選手を使いたかった意図がブラン監督にはあったのだろう。しかし、それが影響して後手に回った。フィンランドもエジプトも3セット目から選手を替えて対抗してきた。日本はさらにそれに対して修正しなければならなかった。
エジプト戦、読まれた関田誠大のトス
フィンランド戦後半もそうだったが、エジプト戦ではセッターの関田誠大のトスが低くなり、相手に読まれてきたため、山本龍が入って流れを変えた。しかしエジプト戦最終セットで2枚替えをしたために、また関田を戻すと被ブロックを連発し、そこからまた山本に替えたが、いったん傾いた流れは変わらず。そのまま痛恨の敗戦を喫した。ネーションズリーグでの46年ぶりメダル獲得は関田の功績が大きかったのは間違いないが、強豪として名乗りを上げたことで追う立場から追われる立場に。かなり研究されている印象を受けた。
ミドルの使い方や勝負どころでも石川に託すトス回しが分析され、対応された。また石川が万全のコンディションでなかったため、いつもだったら決めきれるはずの2段トスなどが被ブロックやミスとなったのも痛かった。
急造セカンドセッターの起用、ためらい
東京五輪でセカンドセッターだった藤井直伸が胃がんにより早逝したため、セカンドセッターを固定することは急務であった。しかし、チーム事情などが重なり、アジア選手権直前でB代表に登録されていた山本龍が突然招集され、最後まで固定されることはなかった。アタッカーと合わせる時間も少なければ、基本的に控え組とのコンビ合わせが多かったであろう山本龍をメーンで使うことにためらいがあったのは確かだろう。山本龍は関田ほどのスピードはなくやや浮かせるトスで、ディグも関田ほどは上がらない。それでも、エジプト戦での山本龍は全力を尽くし、流れを変えたのは収穫といえよう。
最終セットで2枚替え
2枚替えというのはセッターが前衛のときの高さ不足をセッターとオポジット両方を替えて補う常套手段ではある。ただ、2枚替えによってそれまでの流れが変わってしまうことも多々あり、そこはその時々で十分に状況を判断しなければならない。結果論になってしまうが、最終セットでの2枚替えは正解だったのかは疑問だ。当たっていた西田有志も下げることになってしまうからだ。
あてにならない世界ランキング
世界ランキングというのはことに男子の場合はあまり当てにならない。というのも、強豪がひしめくヨーロッパの中堅国は、まず世界大会に出場できずにランキングポイントを稼ぐ機会がないからだ。フィンランドは世界ランキング28位。フィリップ・ブラン監督も指摘していたが、五輪にほぼノーチャンスの国はプレッシャーがなく攻めてくる、と。対する日本はホーム開催もあり勝って当然と受け身になってしまった。
エジプトは世界ランキング19位だがアフリカ王者であり、日本は過去アフリカ勢に白星を献上したこともあるので、これも侮れない相手ではあった。しかし現在の日本の力からすれば、勝って当然の相手だった。
石川祐希、腰に不安抱えたまま
大会前の報道で、チームの核である石川祐希主将が9月に行われたアジア選手権直前、腰をいためていたことを報道で知った。アジア選手権の予選ラウンドでは控え選手が出場した場面もあったが、準決勝、決勝では石川がフル出場。超アウェイのイランで2大会ぶりに優勝を果たした。
だが、その後は全体練習からは遠ざかり、今大会直前の東京・ナショナルトレーニングセンター(NTC)合宿からの合流となった。エジプト戦後のブラン監督は「石川のコンディションについては、あまりよくはない。ただ彼は試合に出て調子を上げていく選手で、今後も出場して上げていけると思う」と報道で述べている。石川自身も「負けてしまったが自分個人のプレーは昨日(フィンランド戦)より今日の方がよかった」とコメントしている。ただ「非常に厳しい状況になったのは確かで、これが今の僕たちの実力。もちろんまだ可能性は普通に残っているので、勝ち続けるしかない」と前を向いた。
石川温存の手もあったか
2022年夏、スロベニアで開催された世界選手権の前にも石川は足を故障し、万全なコンディションではなかった。もちろん故障の箇所も違えば程度も異なるであろうから、同じように比べることはできないが、世界選手権では予選ラウンドのカタール戦、ブラジル戦、キューバ戦で最初の2試合は石川はスタメンから外れ、大塚達宣が入っていた。
カタール戦は堅実に戦ってストレートで勝利。日本が20点を超えたところで、大塚や髙橋藍と石川が交代してコートに立ち、試合勘を少しずつ取り戻した。ブラジル戦も大塚でスタートし、途中から石川が入った。
キューバ戦は石川でスタート、大塚が途中で交代して入った。この大会は当初、ロシアが開催国だったため急きょ別の開催地を探すこととなり、試合数が減って2次ラウンドが総当たり戦ではなくいきなりトーナメントになるなどいろいろ変則的ではあった。このため1試合1試合の間に数日のオフ日があり、それも今大会とは違うところ。しかしコンディションが万全でない石川を温存して少しずつコートに出し、決勝トーナメントでは東京五輪覇者のフランスとフルセットの互角の勝負に持ち込むことができた。石川もフルで出場した。今大会も同じようにできたのではなかったか。
終盤3連戦に照準、先を見すぎていたか
日本男子は、ネーションズリーグ(2023年6-7月)が始まる前からこのOQT(五輪予選)の最後の3連戦がカギになるとして、3連戦をベストメンバーで戦えるようにとスタメンを固定して戦ってきたという。選手たちもそうだが、ブラン監督も少し先を見すぎたのではないか。
女子が先行してOQTを戦い、5試合連続無失セットだったことも影響したのかもしれない。文化的、また宗教的なことから女子競技に力を入れている国は男子よりも少ない。このためランク上位国と下位国では実力の隔たりが大きいのが女子バレーの特徴である。それでも女子代表の眞鍋政義監督にとっても「5試合連続無失セットは全くの予想外」とのことだった。男子でそれを計画したのは、結果的には無理があった。
14人中ミドルブロッカー3人のみ
14名の選出にミドルブロッカーが3人しかいないのも発表時から「大丈夫かな」と不安に思った人も多いのではないだろうか。五輪本戦は12名のみの登録なので3名であることは普通にあるが、14名でミドルブロッカー3名、アウトサイドヒッターが5名。ミドルブロッカーである髙橋健太郎はポテンシャルは非常に高い選手だが、慢性的なヘルニアに苦しんでおり、また他にも懸念材料を抱え、満身創痍の状態でもある。
劣勢の場面で経験少ないリリーフサーバー
リリーフサーバーとして起用されている甲斐優斗も身長2メートルを超えるアウトサイドヒッターで打点も高くサーブもいいため、経験を積ませたいという意図はよく理解できる。しかし劣勢の場面でも必ず起用しなければならないというものではないだろう。事実2日ともミスで相手に得点を献上したのは残念だった。
「歴代最強」に違和感
9月時点での日本の世界ランクは5位で、同じグループ内で格上はアメリカのみ。
パリ五輪出場枠は開催国フランスを含む12カ国。現在開催中の五輪予選は世界ランク上位24チームが8チームずつ3組に分かれて、日本など3カ国で開催され、各組上位2チームの計6チームが出場権を得る。
残る5枠は、2024年のネーションズリーグ1次リーグ終了時の世界ランクで、出場決定済みの7カ国を除く上位5カ国に付与される。出場権が優先されるのは、今回の五輪予選で出場枠を一つも獲得できなかった大陸の最上位国・地域。残り枠は、出場権を得ていない世界ランキング上位の国・地域に与えられる。
日本男子は強くなった。それは確かだ。強くなるとともに人気も上昇し、フィリピンやタイなど東南アジアを中心に海外にもファンが大勢存在する。
この大会は男子バレーが久しぶりに地上波で中継されるとあって、フジテレビも日本バレーボール協会も熱心に盛り上げた。ただ連呼される「歴代最強」というフレーズには少し違和感を感じる。男子バレーはミュンヘン五輪で金メダルをとっている。現代のバレーとは技術的に全く違う、真剣にやっていた国の数が違う、などと言われるが、それでも男子球技で金をとった種目は、野球が正式競技として認められて金をとるまで、男子バレーのみだったことは揺るぎない事実だ。
そして前代表監督の中垣内祐一が絶対エースだったバルセロナ五輪では、6位に入賞している。5位から8位が自動的にすべて5位になった時代ではなく、順位決定戦を勝ち抜いての入賞だ。一方、現体制の龍神NIPPONはネーションズリーグで3位の快進撃はあったものの、五輪ではまだ何もなしえていない。「歴代最強」は今大会で出場権をとり、パリ五輪で証明するべきことなのだ。
かっこよくなくても、泥臭く
パリ五輪への道はかなり厳しくなったとはいえ、今大会での切符獲得の可能性が消えたわけではない。また万一逃したとしても、来年の世界ランキングで拾われる可能性もある。「ココで、決める」という気負いを捨てて、まずは目の前の1戦、1球を全力で取りに行ってほしい。その力は十分にあるし、基本に立ち返ってほしい。リバウンドやスパイクレシーブからつなぎの良さで粘り勝ちするのが、日本男子の持ち味のはずだ。
かっこよく勝とうとしなくていい。泥臭く、粘り強く白星をつかんでほしい。
次戦はチュニジア戦。今夜10月3日19時25分、東京・代々木第一体育館で行われる。
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