広島で開催された女子ハンドボールのパリ五輪アジア予選。日本代表(おりひめジャパン)と韓国はともに3戦全勝で、最終日の直接対決を迎えました。総得失点差で上回る日本は、引き分けでもパリ五輪行きの切符が手に入る状況で、宿敵・韓国と息詰まる熱戦を繰り広げました。 ハンドボールライター・久保弘毅がレポートします。
8月23日15:00、入場。GK3人体制で勝負
前日の中国戦からライトウイングの尾﨑佳奈を外して、GKの馬場敦子を戻しました。亀谷さくら、馬場、犀藤菜穂のGK3人体制は、これまでになかった布陣。2枚目を守れる吉留有紀、笠井千香子、初見実椰子の3人を揃え、かなり守りを重視したメンバー構成になりました。
試合開始:5-0、最高の立ち上がり
吉留の速攻から日本は波に乗り、開始5分で5-0とリードを奪います。GK亀谷が好セーブを見せ、ピヴォットのスタメンに抜擢された笠井が速攻に走るなど、昨日の中国戦でも好調だった2人がチームに勢いをもたらしてくれました。韓国は前半5分で早くもタイムアウトを取りました。日本を率いる楠本繁生監督は「立ち上がりに5点をリードしたけど、ゲームの流れから言って、このまま韓国を突き放すのは難しい。目の前のプレーを一つひとつやっていこう」と、選手に声をかけたそうです。
前半5分:韓国タイムアウト。日本、3枚目DFに甘さ
タイムアウト明けで韓国は、ピヴォットのギム・ボウンにパスを落としてきました。3枚目を守る永田美香、佐々木春乃がいる真ん中での2対2。今大会の日本は3枚目のDFの連携がやや甘く、この日もやられたくないところでやられました。佐々木は「わかってはいるけど、韓国はバックプレーヤーが強力だから、前に詰めると、ピヴォットに裏を取られてしまう」と言っていました。(下に記事が続きます)
前半11分:ピヴォット笠井、「離れ際」の美しさ
前半11分になろうかというところで、ピヴォットの笠井がライン際でシュートを決めて7-4としました。この時の笠井の動きが見事でした。相手DFを押し込んだあとにサッと離れて、完全にノーマークになりました。これぞ「離れ際」の極意!笠井の動きを見逃さず、パスを落としたセンターの相澤菜月もさすがでした。
前半15分:日本、9-6で早めのタイムアウト
前半15分9-6とリードしている場面で、日本は1回目のタイムアウトを取りました。まだリードしていましたが、韓国の変化を察知した楠本監督は早めに手を打ってきました。韓国は大型ピヴォットのカン・ミュンヘが出てきて、日本のDFの裏でボールをもらいました。幸いGK亀谷がセーブしたので失点にはなりませんでしたが、危ない場面でした。傷口が広がる前に、早めに手を打った感じです。
前半30分終了。15-14と日本1点リード
韓国はセカンドメンバーを使いながら、徐々に点差を詰めてきました。前半終わって15-14と、日本が1点リードで折り返します。日本は昨日に続いてGK亀谷、ピヴォットの笠井が絶好調です。ただしこの勢いが60分続くとは思えません。後半へ向けて課題を修正するとともに、次の手を用意しておきたいところです。 (下に記事が続きます)
後半4分:韓国、16-16の同点に追いつく
後半4分、韓国はピヴォットのギム・ボウンの2次速攻で16-16の同点に追いつきました。日本はそこそこ守れているし、戻りも頑張っていますが、セットOFでの攻め手を欠く印象がありました。昨日まで好調だった岡田彩愛、石川空といった若い力が不発気味で、主力が出ずっぱりになりました。相澤菜月の単発のシュートで食いつなぐ時間帯が続きます。17分には19-21と2点ビハインドとなり、楠本監督はタイムアウトを取りました。
後半20分、7人攻撃から21-21に
攻撃が行き詰まっていた日本は、タイムアウト明けから7人攻撃を仕掛けます。GKをベンチに下げて、180㎝の長身の永田と機動力に長けた笠井の2人をライン際に置きました。20分には左利きの中山佳穂が回り込みながら、ピヴォットの永田にパス。「この攻め方なら中山からパスが落ちてくるのはわかっていたから、必死でした」と話す永田が、ライン際で7mスローを獲得しました。相澤が7mスローを決めて21-21。日本が同点に追いつきました。これまでだったらズルズルと離されそうな展開で、もう一度同点に持ち込んだあたりに、日本の成長を感じました。
一進一退、リュウ・ウニを守る
その後は一進一退の攻防が続きます。日本はなかなか点数が伸ばせないなかでも、しぶとく守ります。世界的な左腕リュウ・ウニのシュートをDFの枝でブロックします。GK亀谷もDFの枝(腕でシュートコースを限定すること)を利用しながら好セーブ。ケガ明けで、あまり状態のよくないリュウ・ウニを、チーム全体で守れていました。
後半27分、相澤が23点目。際立った「個の強さ」
攻撃では苦しみながらも、7人攻撃からセンターの相澤がカットイン。後半27分、7mスローを獲得して、自分で決めて帰ってきます。苦しい場面でも、個の力で勝負できるのが相澤の強み。味方の得点を伸ばしつつ、最後になれば勝負の責任を背負い、先頭に立ってゴールを狙います。1試合10点取れる得点力を最後のオプションで隠し持つあたりは、究極のセンタープレーヤー像そのもの。世界でも通用する「個の強さ」の持ち主です。(下に記事が続きます)
後半29分:大砲リュウ・ウニ、25点目。日本、万事休す
後半28分。23-24で、韓国が最後のタイムアウトを取ると、直後のプレーでリュウ・ウニが流しにロングシュートを決めて、23-25としました。この1点が日本の「息の根を止める」1点になりました。昨年12月のアジア選手権では、日本戦で1試合19得点をあげた世界的左腕も、この日はやや苦しんでいました。それでも最後の最後に決めてくるあたりはさすがです。日本は佐々木の得点で1点を返しましたが、残り時間を韓国が使い切り、24-25でゲームセット。韓国が勝って、パリ五輪の出場権を手にしました。
17:30、試合後の会見「相手を超えないと」楠本監督
試合後の会見で楠本監督は「ゆっくりと時間をかけて整理しながら、今日の試合を考えていきたい」と話していました。亀谷の大当たりもあり、GKの阻止率は韓国を上回っていました。後半の点が取れない時間帯では7人攻撃と相澤の個人技で割り切り、「勝つ」というよりも「負けない」戦いを選んだようにも見えました。でも、あと1点が届きませんでした。楠本監督は「韓国に近づいているのは間違いないけど、相手を越えないと、勝ちは巡ってこない」とも言っていました。
歴代最強の組織力で臨んだおりひめジャパン。今回は「1点の重み」に泣きましたが、いつまでも下を向いてはいられません。このあともアジア大会、世界選手権、さらには来年の世界最終予選があります。パリ五輪への可能性が消えてしまった訳ではありません。足りなかった「何か」を見つけて、次こそは勝ち切れるように。おりひめたちのこれからに期待しましょう。
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