ハンドボールのリーグHに所属するアースフレンズBM東京・神奈川の平均年齢は、2026年10月10日時点で23.37歳。男子15チームで一番若い。メンバーの半分以上が大学1、2年生という思い切った布陣で、2026-27シーズンを戦う。これまでのリーグHにはなかった大胆な取り組みは、日本のハンドボール界を変えるかもしれない。
独自のトライアウトで大学1、2年獲得

リーグHは2026-27シーズンの改革のひとつに、特別指定選手制度(Wエントリー)を打ち出している。将来有望な大学2、3年生男女16名を、大学とリーグHの両方で登録可能にした。男子なら日本代表候補のハリス希生が、中部大学と豊田合成ブルーファルコン名古屋の両方に登録、いずれの公式戦にも出場できる。女子なら2026年9月のアジア競技大会に出場した中尾藍が、大阪体育大学とブルーサクヤ鹿児島の両方で登録されている。能力の高い大学生に、早い段階から高いレベルを経験させる仕組みがスタートした。
アースフレンズBM東京・神奈川の取り組みは、このWエントリーとは少し意味合いが異なる。2026-27シーズンのアースフレンズは、登録メンバー20人中12人が大学生で、そのほとんどが独自のトライアウトで獲得している。大学でまだ主力になっていない1、2年生に、出場機会を提供するのが狙いだという。今季からフロントスタッフ兼任になった38歳の笠原謙哉、キャプテンの三輪颯馬、昨季30歳にして「打てる司令塔」に成長した神谷弘平らのコアメンバーが、大学生の成長を手助けしながらプレーしている。
18歳以降が日本の課題

アイスランドなど海外でプレーしたのち、2025-26シーズン途中にアースフレンズに加入した笠原は、以前から「日本の若い年代を刺激したい」と言っていた。
ハンドボールに限らず、日本のどの競技でも課題に挙げられるのが、18~20歳の選手の成長である。18歳(高校3年生)までは世界と互角に戦えるのに、それ以降で大きく差をつけられてしまう。技術を先取りしすぎる育成システムにも問題はあるが、一番差がつくのは18~20歳の選手の試合経験。ヨーロッパの選手は18歳よりも前からプロデビューし、トップレベルでの経験を積んでいる。一方で日本の18歳の多くは、大学で控えになって、実戦の場が少なくなる。
もちろん大学にもいい指導者はいるし、リーグHを経験した監督も増えてきた。男女2チームを掛け持ちで、休む間もなく働く監督の存在も重々承知している。ただ強豪校ほど部員が多くなるので、下級生が埋もれてしまう。本来ならば高いレベルで揉まれて、ハンドボール観をアップデートしたいタイミングで、実戦から遠ざかってしまう。上級生で運よくレギュラーになれても、試合勘は鈍っている。大学のハンドボール観に染まる頃には、海外の選手はトップレベルのハンドボール観を身につけている。その差は大きい。
ダン・ムーホルム・ユルゲンセンHCの情熱

そういった課題を解決したい笠原の考えが、今季のチーム編成に反映されている。デンマークから招いたダン・ムーホルム・ユルゲンセンヘッドコーチ(以下、ダンHC)は、世界的な知名度はあまり高くないが、育成型のいい指導者だ。チームの方針を理解したうえで、若くて実験的なチームのヘッドコーチを快く引き受けている。選手だけでなくファンやスタッフにも気さくに接するダンHCは、22-40と大差で負けたホーム開幕戦(2026年10月17日、ブレイヴキングス刈谷戦)の後、観客に呼びかけていた。
「我々の取り組みは、日本のハンドボールの未来に重要だと思っています。若い選手がトップチームにデビューして、どんどん世界に出ていくのが、我々の方針です。みんなが見ているこのハンドボールは、日本のハンドボールの未来を見ている。そう思ってくれたらうれしいです」
ただのリップサービスではないことは、試合を見ていればわかる。大差をつけられた後半途中、ダンHCは激しく手を叩いて「ファイトしろ! DFするんだ!」と声をかけていた。最後まで戦う姿勢を見せてくれる指揮官がいれば、試合運びが雑にならない。ダブルスコアになっても、アースフレンズの選手たちは最後まで7人攻撃(GKをベンチに下げて、コートプレーヤー7人で数的優位を作る戦術)で丁寧に攻め、最後まで体を張って守った。こういう試合を積み重ねていければ、必ず成長していける。
主将・三輪颯馬「積み上げる」

今季もキャプテンを務める三輪颯馬は「1年で選手も監督も丸ごと変わるから、難しさはあります」と言いつつも、積み上げていくことの重要性を感じている。
「力の差はあるのはわかっています。そのなかでも自分たちの目標にフォーカスしながらやっています。7人攻撃でしっかり攻め続けることと、DFでしっかりファイトすること。そのなかで、若い選手にも随所にいいプレーが見られました。まだまだ発展途上なので、積み上げて、積み上げて、チームの文化を作っていきたい。ただハンドボールがうまいだけでなく、ハンドボールに対して強い思いを持った選手が増えてくるといいですね」
小さな体でリーグHを生き抜いてきた三輪の存在は、若い選手にとって最高の教材になる。
神谷弘平、若手アシスト

司令塔の神谷弘平は開幕戦(2026年10月12日、トヨタ自動車東日本レガロッソ宮城戦)のシュート確率が悪くて悩んでいたら、ダンHCに励まされた。
「『よくなるのには5、6カ月はかかるから最初は仕方ないよ』と、ダンは言っていました。僕が年上なので、点差が離れるにつれて『どうにかしないと』と思ってしまうところを、ダンは『あまりプレッシャーを感じなくていい』とも言ってくれました」
メンバー全員が揃ったのは2026年の8月に入ってから。新しいメンバーが多く、戦術理解にも差がある。だからベテランの神谷が一人で責任を背負うのではなく「全員がどう向き合っていくかが大事だ」とも、ダンHCは話していた。神谷も期待にこたえ、2戦目では無茶打ちを減らして、周りを生かしている。
「今年はゲームコントロールを任されているので、若い選手がやりやすいようにやってあげたい」
ただ試合に出るだけでは若手もうまくなれない。ハンドボールをわかっている選手とプレーすることで、考え方を学べる。下積みを経て確かなハンドボール観を確立した神谷のことを、ダンHCは「弘平はとても重要なプレーヤーだ」と評価していた。
笠原謙哉「もっと伸びる」

「大学でも試合に出ていない選手が、リーグHの試合に出るなんて」といった声も聞こえてくるが、笠原はまったく意に介さない。
「(中央大学1年生の)畑中大翔が、リーグHデビュー戦でいいプレーを見せてくれました。彼に聞いたら、公式戦に出るのは高校3年の国民スポーツ大会以来だそうです。あれだけの才能ですよ。経験を積ませないのはもったいない。18歳から20歳を強化したら、日本は絶対に強くなります」
トライアウトでは人間性も見ていると、笠原は言う。
「トライアウトでは50人くらいのなかから、ポジティブな選手を残しています。人数合わせで大学生を入れているわけではないですよ。チームとしても方針があって、信念があって、若い選手を残しています」
11月のインカレが終わったら、さらに大学生が入ってくるという。笠原は競争を待ち望んでいる。
「ダンは『年齢は関係ない。争ってくれ』と言っています。今試合に出ている選手も、ここに残りたいと思うはずだし、これからは競争です。チームはもっと伸びていきますよ」
日本のハンドボールの未来を変える

壮大な実験が始まった。今までなら大学でメンバー外だった下級生が、アースフレンズで実戦経験を積んだら、どのように育つか。従来の序列を打ち破るような急成長を見せるかもしれない。日本の育成方針が根本から変わるきっかけになるかもしれない。ダンHCは言う。
「セットOFは時間をかけてボールを回し続ける。DFはハードにファイトする。これを60分間続けることで、毎試合少しずつでも成長していく。若いタレント、若いチームがよくなっていく姿を見せられると思うので、またホームゲームに来てほしい」
ノリと勢いで勝った負けたを繰り返すのではなく、世界基準のプレーを毎試合全力で追い求めていく。その先には、勝利を超える大きな収穫がある。

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