第77回ハンドボール日本選手権は男女共催で2025年12月17日~21日、広島市内の4会場で行われました。女子の決勝に進出したのは、ブルーサクヤ鹿児島とハニービー石川。2025年6月のリーグHプレーオフファイナルと同じ顔合わせとなりました。試合は26-23でブルーサクヤが勝利し、2018年以来7年ぶりとなる日本選手権のタイトルを手にしています。
前半4分:ブルーサクヤ、守備徹底。ピヴォット守る

女子の決勝戦は、立ち上がりからブルーサクヤ鹿児島がペースをつかみます。3枚目DFに入る長身の竹内琉奈が、ハニービー石川のピヴォットへのパスを2本カットしました。キャプテンの笠井千香子は「DFの間を狭くして、相手のシュートのあるなしを見極めながら、パスだと判断したら下がってカットする。竹内が駆け引きしながら、パスカットしてくれました」と言うように、チームでやるべきことを徹底できていました。
前半9分:日本代表・吉留有紀のクロスアタック

IHF世界選手権で活躍したハニービーの吉留有紀が、日本代表で取り組んできた成果を見せた瞬間です。左の2枚目から、ブルーサクヤのセンター北ノ薗遼にクロスアタックを仕掛け、フリースローを取りました。世界選手権ではここで止めきれず、次の展開につながれていましたが、国内レベルなら余裕で止めていました。
日本代表のモーテン・ソウバク監督が求めているのは、アグレッシブかつ先を予測したDF。代表でも左の2枚目を守る吉留が、国内に戻ってもそのDFを表現しようとがんばっていました。いつか世界でも、ヨーロッパのトップクラスのセンターをバチンと止めてくれるでしょう。 (下に記事が続きます)
前半11分:中村歩夢が負傷、ハニービー苦戦

前半11分2-5とリードされたハニービーは、早めのタイムアウトを取りました。長身左腕・中村歩夢が開始早々に負傷し、ベストの布陣で戦えなかったのが苦戦の原因です。11月のチャレンジ・ゲームズでも、河合辰弥ヘッドコーチが「攻守に中村への依存度が高すぎるから」と、中村を休ませる時間帯の布陣を練習していましたが、想定外のアクシデントでした。ライトバックでロングシュートを放ち、守っては長いリーチで右の3枚目を守る。攻守の背骨とも言うべき中村を欠き、ハニービーは苦しくなりました。 (下に記事が続きます)
前半16分:宇治村唯、インに動きポストパス

ブルーサクヤは前半16分、ライトバックの宇治村唯がインに動いて、ピヴォットの笠井千香子とクロスしたあとパスを落とします。笠井が決めて8-5としました。今大会で目立っていたのが、宇治村のクロスプレーです。宇治村と言えば、DFからの速攻とカットインのイメージが強かったのですが、日本選手権では大きくクロスしてからのミドルシュートもしくはポストパスの二択で、相手を翻弄していました。特に準決勝では、香川銀行シラソル香川戦の選手が「最後まで宇治村のクロスに対応できなかった」と言うほどでした。
宇治村は言います。
「ピヴォットの笠井さんと青麗子さんが面を取ってくれるので、DFをピヴォットと一緒に挟めば、あとはパスを落とすか、シュートを打つかは自分の判断。アウト割りのイメージが強いかもしれませんけど、持ち味のフットワークを生かして、クロスで大きく(相手を)越えていくプレーも、自分にできることのひとつです」
エースの金城ありさが韓国に移籍し、得点力不足が懸念されていたブルーサクヤですが、3年目の宇治村ができることを増やし、チームの得点力アップに貢献しています。 (下に記事が続きます)
前半20分:竹内琉奈、川島芽依を同時起用

ケガ人が多いブルーサクヤは、前半20分あたりにバックプレーヤーを竹内琉奈、川島芽依、宇治村の3人にしました。純正のプレーメーカーを置かずに、打ち屋を3枚並べる変則的な布陣です。とはいえ、今大会は竹内、川島ともに好調で、決勝戦では2人とも5得点と機能しました。
特に日本代表の川島は、本職のレフトバック以外でもいい動きをしていました。岸本健太監督は「川島をライトバックで使ってみたら、右利きライトバックの動きもできるんですよね」と、川島の使い勝手のよさを評価しています。この時間帯には右側でピヴォットの笠井にパスを落としたり、中央からカットインしたりと大活躍。センターの北ノ薗が治療していたピンチを、チャンスに変えました。
後半14分:笠井千香子、リバウンド制し加速

ハニービー石川もライトバックの辻野桃加のアウト割りや、センターの小柴夏輝のミドルシュートなどで徐々に点差を詰め、前半は13-11。2点差で折り返します。しかし後半もブルーサクヤが主導権を握り、14分にはキャプテン笠井が右側でリバウンドを拾って、得点に結びつけました。キャプテン同士で、球際に強い2人の競り合いは、大変見応えがありました。
笠井は「準決勝まではリバウンドやルーズボールが相手に行く場面が多かったので、審判の笛が鳴るまで少しでもいい位置を取るようがんばりました。どんな取り方でも1点は1点なんで、一つのボールに対してどれだけ熱くいけるかが、勝敗のカギを握ると思っています」と言っていました。球際を制したブルーサクヤは7連取で、19分には24-15と、この日最大の9点リードとしました。 (下に記事が続きます)
後半18分:GK宝田希緒、MVPの活躍

ハニービーの攻撃を封じたのは、今大会絶好調の守護神・宝田希緒。特にハニービーの打てるセンター・小柴のことを警戒していました。
「小柴は勢いに乗っている選手で、スピードに乗ったプレーをするときもあれば、緩急もあるから、相手の動きに惑わされないよう、タイミングを合わせること意識しました。もちろんデータも分析しますが、DFがどれだけ当たれているかも、重要な判断材料です。今大会は4試合ともDFがハードに当たってくれたので、的を絞りやすかったです」
上背のある青と竹内が3枚目でコンビを組むことで、DFに安定感が増し、守りやすくなったとも、宝田は言っています。宝田がもし準々決勝のHC名古屋戦の終盤に大当たりしなかったら、ブルーサクヤは延長戦に持ち込めずに敗れていました。もちろん優勝もなかったでしょう。大会通しての活躍が認められ、宝田はMVPに選ばれています。2025年6月のプレーオフに続いてのMVP受賞。短期決戦に強い「データの鬼」は、チームを勝たせるGKです。
後半24分:ハニービー小柴夏輝、追い上げ

ハニービーも終盤には吉留をトップに出す5:1DFに切り替え、追い上げを図りました。小柴の連続得点もあり、25分過ぎには4点差まで追い上げます。得点力のある司令塔・小柴は、今大会ではセンターでほぼフル出場しています。準決勝の香川銀行シラソル香川戦でも、河合ヘッドは「何度も替えようと思った」と言いながらも、最後まで我慢強く小柴を引っ張りました。自分で点が取れない時に、プレーが淡白になる課題も徐々に解消されてきました。当たりだしたら止まらない「小柴タイム」は迫力十分。勝負を背負う経験をしながら、センターとして一本立ちしつつあります。 (下に記事が続きます)
地元広島ペア、決勝を担当

女子決勝のレフェリーは、広島の佐々木皇介&馬塲智也ペアでした。これまでも力量がありながら、なかなかファイナルで笛を吹く機会に恵まれなかった2人が、地元広島で初めて決勝戦を担当しました。クレームを上手にいなしつつ、要所を的確に押さえる佐々木。誠実でちょっと落ち込みやすいけど、愛嬌満点の馬塲。安心して試合を任せられる2人でした。
試合ごとに力つけた

最終スコアは26-23。ブルーサクヤ鹿児島が、2018年以来7年ぶりに日本選手権を制しました。岸本健太監督は「色んな局面で選手を使うことで、大会を通じて個人の力、チームの力が上がっている。チャレンジ・ゲームズで出た課題を『次にどうつなげよう』と考えながらやってきたので、そこが今大会で噛み合ったのかな」と話していました。リーグHでは6試合を消化して3勝1分2敗の6位。積極的に若手を登用したチャレンジ・ゲームズの内容はいまひとつながらも、韓国遠征などで課題を修正し、タイトルを手にしました。強い者が勝つのではなく、勝った者が強い。そんな言葉が当てはまるような戦いぶりでした。
決勝戦の翌12月22日、ブルーサクヤ鹿児島の新監督に、大阪体育大学でインカレ12連覇を達成した楠本繁生監督が就任するとの公式発表がありました。「つなぎの監督」を自認していた岸本監督が最高の結果を残し、日本代表監督経験もある名将へとバトンタッチしました。ブルーサクヤは今後さらに強くなっていくと思われます。
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