ハンドボール・リーグH男子のトヨタ自動車東日本レガロッソ宮城は2024-25年のシーズン、9年ぶりとなるプレーオフに出場しました。2025年からのシーズンでは、さらに上を目指せるチームを作るために、阿部直人監督は若返りを図っています。将来のチームの中核となりうる、新人選手7人を紹介します。
阿部直人監督、チーム立て直し

法政二高(神奈川)を長く指導した阿部直人監督が、トヨタ自動車東日本レガロッソ宮城の監督に転身したのは、2022年8月からでした。阿部監督は就任当初から「このメンバーをもう一度プレーオフに連れて行く」と宣言していました。2016年3月、中川善雄監督(当時)が率いるレガロッソは、リーグ加盟4シーズン目で3位になり、初のプレーオフに出場しています。しかしその後は長く低迷していました。
阿部監督は就任早々、選手たちと約束しました。
「DFは法政二高でもやっていたシステム(2枚目が高く出る4:2DF)でやらせてもらう。その代わりOFでは、全員のよさを引き出せるようにするから」
さらにはプレーオフ経験者の山田隼也、川端勝茂(現コーチ)、濵口直大らに「もう一度、社会人でも勝とうぜ」と、熱く呼びかけました。高校や大学で日本一を経験している主力選手のプライドをくすぐり、勝利への執着心を思い出させたのです。(下に記事が続きます)
プレーオフで見えた課題

生まれ変わったレガロッソは、阿部監督就任3年目の2025年6月、9年ぶりのプレーオフに出場しました。しかし1stラウンドでジークスター東京に30-39で敗れ、プレーオフ初勝利はなりませんでした。阿部監督は「プレーオフまでくると、ごまかしは通用しませんね。この舞台に立って痛感しました」と言っていました。
個々のOF能力を最大限に引き出すことで、レガロッソは得点力が上がり、プレーオフにたどり着くことができました。しかし阿部監督のやりたい4:2DFにメンバーを当てはめようとすると、攻防チェンジで「3枚替え」が必要になっていました。得点力のある選手はOFだけ。守れる選手はDFだけと、攻守両方で機能する選手が少なかったのが原因です。
3枚替えはリスク大

展開の速い現代ハンドボールでは、OFとDFでの選手の交代は1枚が限度。2枚替えだと、相手に走られてしまいます。3枚替えは、あまりにもリスクがあります。レガロッソの選手からも「速攻で押したい場面で3枚替えになるから、なかなか勢いに乗れない」といった声が出ていました。レギュラーシーズンは阿部監督のやりくりでなんとかしていたのですが、プレーオフでは弱点を露呈した形になりました。
新人をバランスいい選手に

最初に預かった選手たちを、公約どおりプレーオフに連れて行った阿部監督は、2025年度のシーズンからは本格的に「攻守のバランス」に着手しました。「トータルバランスの取れた若手を育てて、プレーオフでも勝てるチームにする」のが次のミッションです。阿部監督が「会社に無理を言って採用してもらった」と言う7人の新人選手が、世代交代の核になります。新人7人の特徴を紹介していきます。 (下に記事が続きます)
10:吉原悠馬RW

中部大学時代から評判だったフィニッシャーです。左腕から放たれるサイドシュートの精度は、追加登録された2024年度のシーズンから「即戦力」でした。決定力は申し分ありませんが、課題はDF力。阿部監督が言うには、現時点でベンチ入りの判断基準は「吉原のシュート力か、堤のDFか」になっています。OF専門だったベテランの堤が、30代になってから2枚目DFで開眼したように、吉原もDF力がついてくると、出場機会がさらに増えるでしょう。
13:中島遼也CB

2024年の中部大学は、8月の西日本インカレで苦戦し、瀬戸際に立たされていました。この試合で負けたら、秋の全日本インカレに出られなくなるという大一番で、誰よりも声を出していたのが、当時キャプテンの中島でした。その姿を見た阿部監督は「こういう選手が欲しい」と、採用を即決したと言います。「プレーがうまいかどうかを見る前に、獲(と)ると決めました」と、阿部監督は笑っていましたが、レガロッソでも1年目から存在感を示しています。2枚目DFで動ける運動量と勘のよさがあり、OFでも次代のセンターとして出場機会を得ています。
中島自身は「2枚目が守れるセンターという共通点があるので、川端コーチの現役時代のプレーをお手本にしつつ、僕には1対1という武器もあるので、キレ味もアピールしていきたい」と言います。リーダーシップも含めて、川端コーチの後継者として期待されています。
22:佐藤歩LB

チーム待望のロングシューターで、入団早々に大エース・藤川翔大に次ぐ得点源になりました。藤川と佐藤歩が同時に出場する攻撃的布陣は、上位勢に勝つための新たなオプションです。ガンガン点を取る日もあれば、不発の日もあるので、阿部監督は「通用するタイプには滅法強い」とやや辛口です。とはいえ佐藤歩がコンスタントに点が取れるようになれば、優勝に大きく近づきます。彼の成長が、チームの命運を握っていると言えそうです。(下に記事が続きます)
23:村井駿祐CB

国士館大学では控えのセンターでしたが、たまたま試合を見た阿部監督が「こんな選手がいたのか」と驚き、声をかけました。センスがありながら、大学時代にレギュラーをつかめなかったのは、フィジカル不足が原因でした。阿部監督は「最初の2年間で、フィジカルを含めた自己改革をするように」と、村井に厳命しています。即戦力ではありませんが、意識の高い同期に囲まれて、どんな変わり身を見せてくれるか楽しみです。
24:後藤隼LW

今シーズンのチーム改革の目玉です。福岡大学ではチーム事情でレフトバックに入っていましたが、福岡大学の田中守総監督が「後藤はサイドシュートの方が得意なんだ」と言っていたとおり、レガロッソに入ってからは大型ウイングになりました。187㎝で3枚目が守れて、レフトウイングから高確率で決められるので、後藤がいるだけで攻守のバランスが整います。阿部監督は「後藤を日本代表に入れたい」と、そのポテンシャルを高く評価していました。代表に入るには、同タイプの矢野世人(豊田合成ブルーファルコン名古屋)との競争になるかと思われます。
25:細田啓輔PV

チームが長年求めていた純正のピヴォットです。ケガに泣かされてきた楳木武士は引退し、アナリストに転向しました。レギュラーの藤村勇希はバックプレーヤーからの転向で、ピヴォットらしくない動きが特徴です。だからこそ正統派の細田にかかる期待は大きいのです。力強いスクリーンプレーからの片手キャッチで、ライン際のくさびになれる選手。身長が182㎝と、3枚目を守るにはやや上背不足ですが、100kg超級の強靭なフィジカルでカバーしたいところです。(下に記事が続きます)
29:矢作宙RB

日本体育大学では2番手のライトバックでしたが、リーグHでは早い段階から通用しています。持ち味はフットワーク力を生かした、キレキレの1対1。アウト割りができる左利きなので、インに力強く行きたがるベテランの山田と、いい具合に使い分けが可能です。徳田新之介(レッドトルネード佐賀)のように、1対1のキレ味をDFにも転換できれば、守れる左利きになれる可能性を秘めています。
高卒5年目、立花志友が手本

「大卒1年目の選手たちの手本になってほしい」と、阿部監督が指名しているのが、高卒5年目の立花志友です。2024年度のシーズン、阿部監督は「同い年の選手が大学から入ってくるまでに、立花を一本立ちさせたい」と、重点的に立花を鍛えてきました。立花の役目は、ベンチに近い側の2枚目DF。レガロッソ特有の、2枚目が高い位置で仕掛けるDFのキーマンが立花です。時にはセンターラインを越えて、縦横無尽に動き回る立花は、昨季の1年間で「DFで思い切りチャレンジする」コツを会得しました。
2025年度の新しいシーズンになってから、立花はOFでも開花しつつあります。3次速攻まで押す場面では、サイドシュートを決めたり、スイングフェイントで1対1を突破したり、さらにはミドルシュートを打ち込むなど、点を取る引き出しが格段に増えました。「利府高校(宮城)ではバックプレーヤーでしたから」と、立花は照れながらも「オールラウンドに点を取れるようになりたい」と、新たな目標を口にしていました。DFのスペシャリストの立花で、毎試合3点ほど取れれば、チームはかなり助かります。
高い意識で取り組んできた立花の成長ぶりは、目を見張るものがあります。「立花の姿を見ていたら、新人ものんびりしていられないでしょう」と、阿部監督は相乗効果に期待していました。新人たちに立花を加えた8人が、新しいトヨタ自動車東日本レガロッソ宮城の核になります。ファンのみなさん、彼らの成長の過程を温かく見守ってください。


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