サッカーの元日本代表でJ1セレッソ大阪などでプレーし2025年に現役引退を表明したばかりの柿谷曜一朗(35歳)が、現役復帰することを電撃発表した。しかも、サッカーではなくテックボール(TEQBALL)という聞き慣れない競技だ。なぜ柿谷はこの競技に真剣に取り組むことを決めたのだろうか。テックボールはどんなスポーツで、サッカー選手にとってどんな位置づけになるのかについても考えてみたい。
突然の発表
柿谷は2025年4月1日に公式インスタグラムでコメント。「この度、魅力あるオファーを頂き現役復帰することに決めました。引退から約3ヶ月、たくさんのお仕事をさせて頂きましたが、やはりプレイヤーとしての魅力に取り憑かれたままだった自分に嘘はつけないようです。今後とも応援よろしくお願いします」
柿谷のコメントから間髪入れずに日本テックボール協会は4月2日、柿谷がプレイングアンバサダーオブテックボール(PAT)に就任することを発表した。今後、日本でテックボールの普及と競技の発展に貢献することになる。
テックボール(TEQBALL)とは?
テックボールは、サッカーと卓球の要素を持つ新しいスポーツだ。2014年にハンガリーで考案された。近い競技としてはフットテニスやフットバレー、セパタクローなどがある。ラケットのかわりにサッカーのスキルを使って、卓球台の表面が湾曲したような特殊なテーブルを用いて対戦する。当初、卓球台でプレーした際にボールがうまく選手にバウンドしない傾向があったため、専用のテックテーブルを開発した。ボールはサッカーの5号球だが、空気圧は低めに設定されている。2017年から毎年、世界大会が開催されている。
求められるのは高い技術
今回、現役復帰がかなった背景には、柿谷が現役プレーヤーへの魅力を感じた以外にも、複数の理由が考えられる。
テックボールは、その名前が示唆するように非常に高いテクニックのレベルが求められる。基本的なプレーは、空中でのジャグリング(リフティング)だが、これは柿谷が非常に得意とするものだ。サッカー選手時代は、テクニシャンとしてならしていた。柿谷は「サッカーに必要な技術向上の要素がたくさん詰まっている」と述べるが、それは逆もしかり。3次元で「止める・蹴る」というサッカーの高い技術がテックボールでも活かされるのだ。
柿谷は、ジャグリングにおいて、常人には真似できない離れ業をいくつも会得している。脚をクロスさせたトラップからのキックは、まだ序の口。向かってきたボールをつま先で自分の頭越しに浮かせて背後でヒールキックで返したりもする。魔法のようなテクニックが今後の試合で存分に発揮されることだろう。(下に記事が続きます)
ロナウジーニョもアンバサダー
元ブラジル代表ロナウジーニョもテックボールのアンバサダーを務めるが、やはり優れたテクニックという点で柿谷と共通している。両者は、ポジションやプレーの特徴、カリスマ性など、類似点が多い。テックボール側も、相当スカウティングを行い研究してアンバサダーの人選を行い契約していることがうかがえる。
他の競技を見回すと、フットサルはサッカーよりフィジカルの強さは必要ない分、テクニックが求められるため、テックボールの選手としては有望だろう。
また、サッカーボールを使った芸を見せるフリースタイルフットボールのパフォーマーは、テックボールのセンスが高い可能性があるだろう。空中でボールを止める・蹴るという能力がオットセイ並みに高いため、ラリー力やボールの受け(トラップ)のうまさは相当あるだろう。一方で、1人でパフォーマンスを披露することが専門のため、相手との駆け引きや勝負強さは未知数だ。
柿谷やロナウジーニョは、四六時中、相手と駆け引きをして、相手の逆をつくプレーをしてきたため、攻めの一手で相手の嫌がるところに打ったり、勝負どころで粘り強さを発揮するだろう。
元サッカー選手ということで圧倒的な知名度もあり、やはりサッカー選手のテクニシャンをリクルーティングするのは理にかなっているといえるだろう。
サッカー選手のセカンドキャリア
サッカー選手でも、ジャグリングは得意・不得意がある。選手に求められる能力は他にもたくさんあり、ジャグリングはその一部に過ぎないからだ。だが、ジャグリングに高い技術が求められるのは注目に値する。
例えば、サッカーに求められる筋力や走力は年齢とともに衰える。また、練習を2、3日休んだだけでも体力はなまり始める。
一方で、技術は体力と比べると衰えが緩やかだ。サッカー選手として体力に限界を感じたときに、セカンドキャリアとしてテックボールはいい選択肢になるだろう。
テックボールは世界中で競技として急速に成長しており、テニスのように将来的に高額の賞金が用意され、プロ選手が増えてくる可能性もある。
フットテニスとは?
サッカーとテニスを組み合わせたスポーツ。テニスコートかそれを模したコートでプレー。ラケットのかわりにサッカーのスキルを使って大きめのボールで対戦する。1922年にチェコスロバキアのスラヴィア・プラハの選手が行ったものが原型だとされる。1940年にルールが明文化され大会が開催。
フットバレーとは?
1965年にブラジルで生まれた。競技の進行はビーチバレーボールを基本とし、ボールへのタッチがサッカーに置き換えられている。したがって手や腕は使うことができない。
セパタクローとは?
東南アジア発祥で9世紀頃から継承されてきた伝統的な球技を近代スポーツにしたもの。アジア競技大会の正式種目。フットバレーに似ている。(下に記事が続きます)
ボールがあると楽しい、一人一人が主人公
柿谷曜一朗のコメント 今まで、様々な子どもとのサッカーイベントに参加してきた中で、パスが好きな子ども、キックが好きな子ども、シュートが好きな子どもといろんな種類の子どもを見てきました。その中で多く感じたのは、『子どもが自分にボールがある時に楽しいと感じている』ことです。しかし、サッカースクールやイベントでは試合形式が多く、限りある時間の中で、実力がある子ども達が長い時間ボールを触ってしまい、ボールを触る時間が短くおもしろくないと感じている子どもがたくさんいます。
テックボールでは常に『一人一人が主人公になれる』ので、サッカーが上達する事はもちろん、楽しいと感じられるスポーツだと思います。テックボールは、サッカーに必要な技術向上の要素がたくさん詰まっていることに加えて、プレーを楽しんでもらえると思います。僕が本来1番大事にしている『サッカーを楽しむ』ということに加え、子ども達にサッカーだけでなく『身体を動かすことの楽しさ』も伝えることができると思います。この度、僕自身も実際にテックボール選手としてプレーしながら活動できるプレイングアンバサダーに就任させていただき、大変光栄に思います。

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