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【バレーボール】石川真佑、イタリア2年目「楽しみながら結果にこだわりたい」

2024-25シーズンのホーム開幕戦、ノヴァーラはピネローロを3-0で下した=写真提供:Igor Gorgonzola Novara
2024-25シーズンのホーム開幕戦、ノヴァーラはピネローロを3-0で下した=2024年10月13日、写真提供:Igor Gorgonzola Novara
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イタリア・セリエAへ2023-24シーズン、初挑戦したバレーボール女子日本代表の石川真佑(24)は、2シーズン目となる今季、強豪ノヴァーラでプレーすることを選んだ。長い日本代表活動と1次リーグ敗退に終わったパリ五輪を経てイタリアへ戻ってきた石川は、新天地で何を思い、どう戦うのか。昨季フィレンツェで濃密な178日を通訳として間近に見てきた筆者は、さらなる飛躍を目指す石川を取材するため、北部ピエモンテ州の中都市ノヴァーラを訪ねた。

目次

コミュニケーションは英語にスイッチ

フィレンツェでもチームメイトだったリナと。リナは筆者にもイタリア語で話しかけてくれた=中山写す
フィレンツェでもチームメイトだったリナと。リナは筆者にもイタリア語で話しかけてくれた=中山写す

筆者が石川とフィレンツェで最後に別れてから、6か月以上の時が流れた。その間、イタリアとの決勝に敗れたものの銀メダルを獲得したネーションズリーグ(VNL)や、8強に届かなかったパリ五輪など、世界を相手に持てる力を出し尽くし、悲喜こもごもの経験を積んだ。10月初旬、オンラインで行われたセリエAシーズン開幕前の記者会見で画面越しに見た石川は、伸びた髪を明るく染めてすっかり大人びた女性になった印象で、アスリートとしての強い意志が今まで以上に感じられる。

久しぶりに直接会う石川はどんな反応をするのだろうか?そんな気がかりもすぐに吹き飛ぶことになる。インタビューの予定は試合後だったのにもかかわらず、「お久しぶりです!」と前日の練習見学前にあいさつしに来た石川は、半年前と変わらぬ無邪気な笑顔だった。イタリア流にキュッとハグをして再会を喜んだ。

再会がかなったのはレギュラーシーズン2戦目のホームでの開幕戦前。石川がノヴァーラに到着して1か月半が経っていた。チームにもすっかり馴染み、精神的にもかなり余裕があるように見える。

「イタリア語を話せない選手も多くチームでの会話のほとんどが英語なので、イタリア語よりも今は英語を優先して勉強しています。言葉が分からないことがあっても、昨年の経験から、あ、これはこういうことだな、これからこうなるんだろうな、と分かるので、昨季とは全然違いますね」と石川は言った。

同じくフィレンツェでイタリアリーグデビューしたドイツ代表のリナ(アルスマイヤー)が、イタリア語の説明をロシア人選手に英訳している姿を見て、「差をつけられちゃったな」と少し焦りを感じているのも事実。しかし今は、はやる気持ちを抑え、まずは英語に慣れてコミュニケーションのベース作りをしているところだ。

イタリア語を教えていた筆者としては少し寂しいが、いろんな国籍のチームメイトに話しかける姿は昨季ではほとんど見られなかったこと。昨季できなかったことを今季こそは絶対にやる!そんな決意が感じられた。(下に記事が続きます)

毎日の食事を写真で記録

フィレンツェで苦労した自らが運転する車の駐車の問題も、幸いノヴァーラではほとんどない。昨季は車に挟まれた紙が罰金通知かとおののいたこともあったが、同じことに遭遇してもチームマネジャーに見てもらいすぐに解決した。ノヴァ―ラに来て4人乗りの電気自動車(EV)に変わったため、練習前にアリーナ近くのスタンドで充電しチームマネジャーに鍵を渡しておくと、充電後に移動しておいてもらえる。ビデオミーティングでもグーグル翻訳で補助してくれるなどチームのサポートは手厚く、通訳はいなくても自分でいろいろとできるようになっている。

自炊は頑張ってる?と聞くと、「今のところは」と笑う石川。「今は見た目が良くなるかな、ってワンプレートにしてるんです」とスマホのアルバムを見せてくれた。覗き込むと、真上から撮影した毎日の食卓の写真がずらりと並んでいる。毎日のお弁当を載せるインスタグラマーのアカウントさながらだ。

(左)頂きもののサラダチキンをメインに
(左)頂きもののサラダチキンをメインに
(右)野菜と鮭のキッチンシート蒸し。好物の柿はスーパーで見つけるや否や購入した=写真提供:石川真佑
(右)野菜と鮭のキッチンシート蒸し。好物の柿はスーパーで見つけるや否や購入した=写真提供:石川真佑

ワンプレートにはご飯とおかずが2~3品、それとは別に具だくさんの汁物とフルーツの小鉢が添えてある。栄養管理士さんにも写真を送って栄養バランスを重要視しながら、彩りや盛り付けも楽しんでいるようだ。送ってくれた3枚のうち筆者が一番に選んだ写真は、型抜きされたごはんにふりかけがかかっている。「見た目もこれがいいですよね」と本人もお気に入りのものだった。(下に記事が続きます)

日本人3人で念願のヴェネツィアへ

世界遺産であるフィレンツェにいても、超出不精だった石川。シーズン後半になってからカフェにはよく行くようになったものの、兄、石川祐希の試合を見に2回ミラノに行った以外、全く遠出はしていなかった。フィレンツェのパリージ監督からも事あるごとに「オフの日はバレーのことを忘れろ」「お出かけして楽しみなさい」と言われていたが、この点においても今季の石川は変わった。

1人ぼっちだった昨季と違い、今季は東レでも共にプレーしたセッターの関菜々巳がコネリアーノに、ミラノにはリベロの福留慧美がいるというのも大きな変化だろう。9月第3週末に開催されたクールマイヨールカップの後、この3人でヴェネツィアを訪れた。

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3人で1日ヴェネツィア観光
大人気のジェラート店でパチリ
地元の食事も楽しむ
大運河にかかるリアルト橋を背に
大運河をバックに写る3人=写真提供・いずれも石川真佑

クールマイヨールから3人で直接ヴェネツィアに行ったのかと思いきや、乗り継ぎも大変なのでそれぞれいったん自宅に帰ってから現地へ向かった。アプリでの電車切符購入や乗り継ぎもすっかりマスター。他の2人のオフが1日しかなかったこともあり、一番遠い石川は朝7頃に出発し、帰ってきたのは夜の23時だったと言う。日帰りで移動時間も長かったゆえ、翌日のオフは家で1日ゆっくり過ごしたそうだ。(下に記事が続きます)

速さだけでは自分の良さは出せない

開幕戦アウェイのキエーリ戦でスパイクを打つ石川=写真提供:Igor Gorgonzola Novara
開幕戦アウェイのキエーリ戦でスパイクを打つ石川=写真提供:Igor Gorgonzola Novara

フィレンツェのシーズンで悩んでいる時に「高校やクラブではチームとして負け続けることがなかったから精神的に辛い」とこぼしたことがあった。勝つのが当たり前、リーグ4強のチームに移籍した今季では異なる課題も出てくるだろう。

今季のノヴァーラには190㎝のトロク(ロシア)、ディフェンスも得意なアルスマイヤーなど、石川を入れて5人のアウトサイドヒッターが在籍している。現在は昨季ノヴァーラの得点源であったオポジットのアキモヴァ(ロシア)がリハビリ中で、暫定的にアウトサイドヒッターが3人起用されることもあるとはいえ、スタメン争いが激しいことには変わりない。

石川はかねてから定評のあるディフェンスと、それと同等レベルの攻撃力という自分の特徴をアピールしたい。課題とされているブロックでは低い石川の方に打たれることが多いが、上から叩きつけられた以前よりもタッチが多くなったのは、意識して取り組んでいる成果だろう。しかしなによりも重要なのは、高いレベルで常にプレーし続ける安定性と、ここぞという時に決められる決定力だ。

「日本といえば速さ」というイメージのためか、合流直後はセッターからは速いトスばかりが回ってきていた。しかし石川は「速さだけでは高い相手に対抗できない。背が低いぶんジャンプする時間もなく、自分の良さを出しづらい」と感じ、速さを抑えて高さを出してほしいことをセッターに伝えて修正してもらった。(下に記事が続きます)

イタリアリーグでも「決めきれる力」を

その甲斐もあってか、プレシーズンマッチではMVPも受賞するなど出足は好調だ。レギュラーシーズン初戦はキエーリに惜しくもフルセットで敗れたものの、石川はチーム最多タイの22得点を叩き出した。

筆者が現地で取材観戦した10月13日のピネローロ戦では、石川は60本中29本とほぼ半数のサーブレシーブをしたにもかかわらず、ここでもチーム最多タイの12得点をマーク。とりわけ第2セット終盤の22ー22の場面、この重要な局面で石川に3本連続でトスが上がったシーンは圧巻だった。1本目は相手レシーブに拾われ、そしてブロックに返された後の3本目を、エンドラインぎりぎりに叩きつけた。「良いところでトスをあげてもらえていると実感している。それに応えられる力をつけたい」と語る石川の意地を感じた瞬間だった。

ピネローロ戦では準MVPであるザンザーラ賞を受賞。賞品は発泡ワインだった=写真提供:Lega Volley Femminile
ピネローロ戦では準MVPであるザンザーラ賞を受賞。賞品は発泡ワインだった=写真提供:Lega Volley Femminile
今季は石川の髪を束ねるシュシュにも注目。シーズン前合宿でチームマネジャーから選手に3つずつ贈られたもので、ユニフォームに応じて紺、ピンク、シルバーを使い分ける=中山写す
今季は石川の髪を束ねるシュシュにも注目。シーズン前合宿でチームマネジャーから選手に3つずつ贈られたもので、ユニフォームに応じて紺、ピンク、シルバーを使い分ける=中山写す

昨季からマニキュアとピアスを試合でもするようになった。そして今季はユニフォームに合わせて髪のシュシュの色を変える遊び心を加えた。しかし、しっかりと現実を見据え、目標に向かって冷静に行動する姿は変わらない。

「けが人が復帰して選手全員がそろった時に自分が選ばれるかどうか、という危機感は持っている。でもプレッシャーを意識せず、楽しみながら結果にこだわりたい」と、この1年で周りを気にしすぎなくなったと自負する石川はあくまでマイペースだ。

ノヴァーラで半年ぶりに再会した石川は一回りも二回りも大きく、一段と輝きを増していた。

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