試合に勝っても、悲しみに打ちひしがれて涙した。女子テニス・シングルスで世界ランキング7位のオンス・ジャバー(29) =チュニジア=が2023年11月1日、世界のトップ8が争うツアー最終戦WTAファイナルで初勝利を挙げた直後のインタビューだ。コート上で「ごめんなさい、本来はテニスの話をするべきだけど」と断りを入れて語り出したのは、1万人以上の死者が出ているイスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘のことだった。「子どもたちや赤ちゃんが毎日死んでいくのを見るのはとてもつらい」「私はパレスチナの人々を支援するため、この大会の賞金の一部を寄付することを決めました」。声を上げるアスリートの勇気に会場のファンは立ち上がり、拍手がわいた。
オンス・ジャバーのインタビュー全文
勝ったことはとてもうれしいけれど、正直、最近はあまり幸せではありません。世界の情勢のせいです。(言葉に詰まって)ごめんなさい…。(拍手)子どもたちや赤ちゃんが毎日、死んでいくのを見るのはとてもつらく、心が痛みます。私はパレスチナ支援のため、賞金の一部を寄付することにしました。いま起きていることを思うと、単に今回の勝利を喜べません。ごめんなさい、テニスの話ではなくて。でも連日、映像をみていて、とてももどかしいのです。ごめんなさい、これは政治的なメッセージではなく、ヒューマニティーです。私は、この世界に平和を望んでいるのです。それだけです。
“I am very happy with the win but I haven’t been very happy lately. The situation in the world doesn’t make me happy…So, I feel like… I am sorry. It’s very tough seeing children & babies dying every day. It’s heartbreaking. I have decided to donate part of my prize money to help the Palestinians. I cannot be happy with just this win, with what is happening. I’m sorry guys, it’s supposed to be about tennis, but it’s very frustrating looking at videos every day. I’m sorry – it’s not a political message, it’s just humanity. I want peace in this world and that’s it.”
原文:女子テニス協会(WTA)公式HPより、Pen&Sports抄訳
ジャバー、アフリカ出身女子初の4大大会決勝進出
3歳でテニスを始めたジャバーはチュニジア出身のイスラム教徒。2022年はウィンブルドンで準優勝し、アフリカ出身の女子選手として初めて4大大会の決勝に進出した。女子シングルスで世界ランク2位まで上り詰めたことがあるプレーヤーだ。
2020年全米では大坂も「BLM」
スポーツ界は長らくアスリートが政治的、社会的な発言をしたり、差別などに抗議したりをすることをタブー視する風潮があった。しかし、同じテニスの大坂なおみが、2020年の全米オープンで試合ごとに、過去に警察などの暴力の犠牲となったアフリカ系アメリカ人の名前が印刷された7枚の黒いマスクを着用し、アメリカで始まった差別に反対するBLM(ブラック・ライブズ・マター)運動を支援する意思表示をしたころから、統括競技団体も寛容になり、潮目が変わってきた。
大坂はどちらかと言えば、「サイレントプロテスト」の様相が強かったが、ジャバーは「これは政治的メッセージではありません。人間(ヒューマニティ)の話です」と語った上で、「この世界に平和が欲しい。ただ、それだけ」と声を上げた。スポーツどころではない戦場にも、ジャバーの声は届いたはずだ。
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