2023年のプロ野球ドラフト会議は10月26日に開催されます。今年は大学生投手と高校生スラッガーの当たり年とも言われていますが、社会人野球を取材して10年以上になるコラムニスト・久保弘毅が愛してやまない「こ、これは…!」と思った候補を4人、紹介します。
度会隆輝(ENEOS)圧倒的な陽のオーラ
今年の社会人で1人飛び抜けた存在なのが度会です。2022年の都市対抗で4本のホームランを打ったとか、19歳で橋戸賞(都市対抗野球のMVP)を受賞したとかよりも、圧倒的な「陽のオーラ」こそが彼の魅力だと思います。ENEOSの名将・大久保秀昭監督が「スーパーポジティブ」と称するくらい、常に前向きで積極的。インタビューをしていても、一点の曇りもなく、己の成長を信じている様子が伝わってきます。
これまでそれなりにドラフト候補のインタビューをしてきましたが、度会みたいなタイプは初めて。幼さが見え隠れする「ビッグマウス」とは異なる、「物語の主人公感」がありました。「走攻守すべてにもっとうまくなりたい」。「大谷翔平選手(エンゼルス)みたいに、野球を知らない人でも知っているような存在になりたい」。ちょっと欲張りでしょうといった発言でも、度会の口から出るとスッと腹に落ちてしまいます。
打線に活気がないチームや、観客動員が伸び悩んでいるチームは「1位・度会」で損はないと思います。どの球団に入り、どんな物語をファンとともに作り上げていくのか。今から楽しみです。
髙島泰都(王子)イメージ通りにゲッツー
大卒2年目、高卒3年目のいわゆる「ドラフト解禁年」の投手で、今年の目玉になりそうな人はいません。みんな一長一短です。髙島にしても「準硬式出身(明治大時代は準硬式野球部だった)」の話題先行で、ドラフト候補としては「そこまで球が速くない」との評価がほとんどです。
個人的には、髙島の「イメージする力」を評価してほしいのです。彼はフィールディングが得意で、無死一塁でのバント処理では1-6-3のゲッツーを難なくやってのけます。その時の攻め方がまた心憎いのです。最初はカットボールで、送りバント失敗を誘います。そのあとに高めにストレートを投げて、髙島の正面にゴロが来るように誘導するのです。そのあとの身のこなしも完璧。「イメージ通りのゲッツーでした」と言い切れるだけの根拠があります。
今年の都市対抗で北海道ガスを完封した試合でも、2つの併殺打でピンチを切り抜けました。いずれも強いストレートで内野ゴロを打たせています。王子の湯浅貴博監督は「髙島は不思議な落ち着きがある選手。東京ドームで投げるイメージができていたのかな」とコメントしていました。このイメージする力が髙島の真骨頂。こういう感性のある投手が、プロで伸びると思うのですが。
木倉朋輝(日本生命)絵になるフォロースルー
若返った日生打線の柱。2022年は2番サードで出ていて、少しバットが遠回りしているように見えました。入社1年目で優先起用されている印象でした。2年目の今年は3番になり、構えが大きくなっています。大きく構えながら、内にも外にもスムーズにバットが出ます。体つきもふくめて「強く振れる」感じが出てきました。
対戦相手の捕手に聞くと「日生で一番警戒するのは木倉」と言います。投球の軌道にバットを入れて、長くボールを運べるスイングで、真っすぐにも負けません。大きなフォロースルーも絵になります。真っすぐに差されがちな選手が多い日生打線のなかで「木倉だけは違う」雰囲気があります。ホームランを量産するタイプではないとはいえ、甘く入れば一発もあります。相手バッテリーもいろんな球種を使いながら「特別な攻め方」をしているように見えました。
守っても強肩で、サードからの送球は安定しています。大学時代に名の売れた「強打の三塁手」は、社会人で送球が不安定になり、他のポジションにコンバートされるのが「よくある話」。でも木倉の送球なら心配はないでしょう。右打者でインコースをさばける。サードからの送球にブレがない。この2点だけでも十分売りになります。「他のポジションができるのか?」という不安要素もありますが、社会人では頭ひとつ抜けた存在です。もっと騒がれていいと思うんですよね。
南木寿也(JR北海道硬式野球倶楽部)マッチョな恋女房
ドラフト専門誌「野球太郎」(竹書房)2023ドラフト直前大特集号でも書いたのですが、十分に書ききれなかったのでペンスポでも書かせてください。青山学院大では控えだったのに、卒業後に1年目から侍ジャパン社会人代表に選ばれ、評判になっていました。今年初めて見た時には、軽い衝撃を受けました。いい意味での「お山の大将」らしさがあるのです。
打つ方では3番に座って、1人だけスイングの迫力が違いました。レフトへの豪快な一発もあれば、真っすぐを逆らわずに右方向への長打にできます。しかも欲しいところで効果的な1本を打ってくれます。守っても扇の要らしい落ち着きがあります。お山の大将だけど「俺についてこい」のタイプではなく、投手への思いやりにあふれています。きわどいコースの球をボールと判定されたら、ミットをじっと動かさずに「いい球でしたよ」と、審判にもピッチャーにも思いを伝えます。ピンチの場面でストライクが入れば、ミットで拍手をするようにピッチャーを盛り立てます。またその仕草がかわいいというか、愛情にあふれているのです。
強肩強打系のキャッチャーはえてして細かい配慮に欠けがちなのですが、そういった物足りなさが南木にはありません。むしろ細かいところまで気を配れる、キャッチャーらしい感性の持ち主に見えました。たとえ投手陣にミスがあったとしても、打つ方でも守る方でもカバーしてやれる包容力があります。「マッチョ系なのに恋女房タイプ」のギャップが最大の魅力です。直近の日本選手権北海道予選で「6番指名打者」になっていたのが少々気になりますが。
1人でも多くの選手に吉報を
勝手に好きな選手を挙げただけなので、指名確実なのは度会くらいでしょう。「プロに行くのは当たり前。あとは順位がどうなるか」ぐらいの選手でないと、プロでは活躍できない厳しい現実もあります。その一方で、野村勇(NTT西日本~ソフトバンク)みたいに「こんなに三振する選手を獲ってどうするの?」と思った選手が、プロで上手に使われて、持ち前の体の強さで戦力になることもあります。試合だけしか見ていない素人が予想するよりも、はるかに深いところをプロのスカウトは見ているのでしょう。1人でも多くの選手に吉報が届きますように。
プロ野球ドラフト会議 新人選手の選択会議。1巡目(ドラフト1位)は入札制で、競合した場合はくじ引きに勝ったチームに交渉権が与えられる。2巡目以下は順番に指名していくが、2、4、6巡目は下位チームから指名し、3、5巡目は上位から指名する。今年の場合、2巡目はセ・リーグの6位→パ・リーグの6位→セ・リーグの5位~の順になる。今年は細野晴希(東洋大)、常廣羽也斗(青山学院大)など大学生投手に1位候補が多い。高校生スラッガー・佐々木麟太郎(花巻東高)がプロ志望届を出すかどうかも注目の的。
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