2024年から日本ハンドボールリーグ(JHL)がリーグHになりました。注目のチームの横顔と、ここまでの戦いぶりを紹介します。女子のイズミメイプルレッズ広島は、引退者やケガ人などで戦力ダウンが懸念されていましたが、国民スポーツ大会や代表活動で中断する9月末までで4勝1分1敗勝ち点9の5位と、いい位置につけています。
リーグH 男子14チーム、女子11チームが参加して、9月から来年5月までのレギュラーシーズンを戦う。レギュラーシーズンは、男子は2回、女子は3回の総当たり戦。男子上位6チーム、女子上位5チームは、来年6月のプレーオフに出場する。
開幕ケガ2人でも6試合4勝
2年目でDFの要になるはずの篠愛里が、開幕直前にアキレス腱を断裂。右の2枚目DFに入り、絶妙な間合いで勝負するキャプテンの三橋未来が、ケガで出遅れ。リーグ開幕前に守れる2人が抜けて、かなり危うい状況でした。しかし酒巻清治監督は動じません。これまでOF専門だった中村歩夢と高木奈央の左利き2枚を守らせ、さらにはケガから復帰した倉岡愛実をトップに置く5:1DFも準備しました。開幕のHC名古屋戦は、倉岡のトップDFで後半一気に突き放しています。酒巻監督も「今日は豊作だよ」と上機嫌でした。
開幕戦で勢いに乗ったメイプルは、その後も僅差の試合をものにしています。引き分けた北國ハニービー石川戦は、最後にライトウイングのシュートを防いでおけば勝てた試合でしたが、6試合で4勝1分1敗は、ケガ人もいるなかで十分すぎるくらいの成績です。「今年は攻撃回数を増やす」と、酒巻監督がアップテンポな展開を徹底してきたこともあり、30点台を超える殴り合いのような試合でも勝てています。プレーオフ争いのライバルになりそうな香川銀行シラソルKagawaや熊本ビューストピンディーズに、1巡目で勝てたのも大きかったです。ブレイク明けに三橋が復帰し、内定選手が加われば、年明けのリーグ再開からはさらに勢いが増しそうです。 (下に記事が続きます)
酒巻清治監督、個のスキル伸ばす
かつての男子日本代表監督であり、湧永製薬、トヨタ車体を強くした名将が、女子のチームを初めて受け持って2年目。「男子でも女子でも、やることは変わらんぞ」と、順を追ってチームを強化してきました。オーソドックスな6:0DFでチームの規範を作り、セットOFは約束事の少ないフリーOFにこだわり、フィジカルを徹底的に鍛えるのが、酒巻監督のやり方です。トヨタ車体でもメイプルでも、1年目は順位を落としていますが、それも想定内。1年かけて、やりたいハンドボールの土台を作るから、その後の伸び率が違います。
鍛練期にこだわる監督なので、プレシーズンにはわざと制限をつけて戦うこともあります。今年だったら6:0DFであえてマークを受け渡さずに、そのままで守るよう指示していました。「マークの受け渡しをすれば、簡単に守れるのに」と思う場面が出てきても、酒巻監督は涼しい顔。「足でついていける守備範囲を広げるために、この時期は『そのまま』で守らせるんや」とのこと。もちろんシーズンが始まれば、マークの受け渡しでDFを作っていきます。目先の勝ちにこだわらず、個のスキルを伸ばせる、日本でも稀有な監督です。
近藤万春、正統派センターに
驚異的なクイックネスでボールを運んで、トリッキーな技を繰り出す近藤は、ハイライト動画の常連でした。小柄な選手が巧みなボールハンドリングで、奇想天外なゴールを決める姿は、実に日本人好みでした。ハイライトで映えるプレーもありましたが、負けん気の強さゆえに試合終盤になるとボールを持ち過ぎたり、独創的であるがゆえに周りが合わせられなかったり、つい余計なことをしてしまう悪癖がありました。
ところが今季の近藤は違います。手数を控えて、オーソドックスにボールを回しつつも、要所で近藤らしい向こうっ気の強さを見せています。元々は賢い選手です。レフトバックの田渕美沙と並んだ時間帯には、3対3できれいにずらす形を作ります。「膝のケガもあったし、私もプレースタイルを変えていこうかなと思っています。できるだけ長くハンドボールを続けたいので」と、近藤は言います。膝の手術で動きは落ちたとはいえ、そのおかげで正統派のセンターらしいバランスを手に入れました。大前典子コーチは「まだ、いらんことが多い」と手厳しいですが、全部なくなると近藤らしさが消えてしまいます。オーソドックスにボールを配りつつ、たまに見せる「いらんこと」がほどよいアクセントになれば、60分トータルでチームを勝たせる司令塔になれるでしょう。今季は正統派な近藤万春のゲームメークをお楽しみください。
高木奈央、練習から没頭
高木は攻守にバランスの取れた左腕になりつつあるこれまでOF専門だった左利きのロングシューター2人が、今季はDFでも活躍しています。中村歩夢は長いリーチを生かして右の3枚目に、高木奈央はフットワークが求められる右の2枚目に入ります。「攻守にバランスが取れた選手になるためにも、今年はDFも頑張ります」と、高木は意欲的です。酒巻監督は「高木は今、ハンドボールを楽しんでいる」と、練習からハンドボールに没頭している姿を評価していました。
これまで交互に出ていた高木と中村が、OFで同時に出場する場面も増えてきました。センター中村、ライトバック高木、ライトウイング新沼未央と左利きが3枚並ぶ布陣は、今年のメイプルの新たな武器です。9mの外から豪快に打ち込む中村と、DFの枝を見て丁寧に打ち分ける高木。2人の左利きによるロングシュートの競演は、他のチームにはない魅力です。
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