第48回日本ハンドボールリーグプレーオフ・女子ファイナルは2024年5月26日、東京の武蔵野の森総合スポーツプラザで開かれ、10連覇を目指すシーズン1位の北國銀行が、10年ぶりの女王返り咲きを狙う同3位のオムロンと対戦しました。オムロンは様々な戦術を試みましたが、北國銀行の相澤菜月、中山佳穂らが対応力で上回り、北國銀行は28-18で勝利し、日本リーグ10連覇を達成。MVPには8得点の中山が選ばれました。試合を時系列で振り返ります。
前半6分:オムロンが3-1リード
立ち上がりはオムロンがいい形で得点を重ねました。前半4分にはライトバックの鄭智仁(ジョン・ジイン)がフリースローから、得意の流しの上(左利きの鄭から見てゴール左上)に決めると、6分にはレフトバックの新人・谷藤悠がステップシュートを決めました。3-1とオムロンがリードを奪います。前日(5月25日)のセカンドステージでは、立ち上がりに8点ビハインドになったオムロンが、決勝は上々の滑り出しです。
前半11分:北國が逆転、前田が復調を示す
北國銀行はセンター相澤菜月、ライトバック中山佳穂の二枚看板の得点でリズムを取り戻し、3連取で11分、4-3と逆転します。13分にはレフトバックの前田みのりのカットインが決まって6-4。ヒザのケガから復帰した前田が、シーズン終盤にようやく本来のキレを取り戻しました。前田が復調したことで、シーズン通して北國の泣き所だったレフトバックが、ようやく埋まりました。(下に記事が続きます)
仕掛けるオムロン、対応力の北國
戦術の変化で勝負するオムロンは、前半途中に6:0DFから福井亜由美をトップに出す5:1DFに変更。セカンドステージのソニー戦で大逆転の呼び水になった5:1DFで仕掛けます。しかしオムロンがDFシステムを変えた直後に、北國は前田のカットインで8-5とします。相手の変化に即対応できるあたりは、さすが女王・北國でした。
GK馬場、フィールドシュート阻止率.545
GKを含めたDFでも、北國は徐々に対応していきます。オムロンの鄭智仁がインに行って流しの上に打ったシュートを、北國のGK馬場敦子がセーブ。小柄な馬場を崩すなら、ハイコーナー(ゴールの両上隅)を狙うのがセオリーですが、馬場もハイコーナーに手が届いていました。この日の馬場はフィールドシュート阻止率.545と大当たり。2023年秋のアジア大会決勝でも示したように、韓国人シューターとの相性がいいようです。
前半26分:ピンチに辻野が活躍
前半26分、北國のキャプテンで攻守の要・永田美香が2度目の退場になりました。退場が3回目で失格になると、この試合に出られなくなります。北國にとってはピンチでしたが、東俊介監督を含めた北國ベンチは慌てませんでした。佐原奈生子と最年長の深田彩加のコンビで、3枚目のDFを落ち着かせます。またOFでは途中からレフトバックに入った辻野桃佳がカットインからのループシュートを決めました。代わりに出てくる選手が活躍し、チームを盛り上げるあたりは、年間通しての底上げができていたからでしょう。(下に記事が続きます)
前半29分:オムロン2連取、10-13に
オムロンも前半残り1分から2連取しました。尾﨑佳奈のサイドシュートに、前半終了ギリギリに決まった孫敏敬(ソン・ミンキョン)のカットインと、強みを出しての連続得点でした。前半終わって13-10で、北國銀行が3点リード。北國優位は揺るぎませんが、オムロンも望みをつなぎます。
後半8分:オムロン、ダブルマンツーマンDF
後半8分18-13と北國のリードが5点差に広がったところで、オムロンの水野裕紀監督がタイムアウトを取りました。「これ以上離されると厳しくなるから」と、新たなDFの札を切りました。フットワーク力のある須田希世子と植松花乃を前に出し、相手のキーになる相澤と中山につけました。最近あまり見かけなくなったダブルマンツーマンDFで、オムロンは一発逆転を狙います。変則的なDFで流れをつかんだオムロンは、グレイクレアフランシスのポストシュート、さらにはライトウイング尾﨑のループシュートで、再び3点差まで追い上げました。(下に記事が続きます)
後半17分:相手を上回る、相澤の対応力
しかし北國は、相手の奇襲にも動じません。17分には相澤がマンツーマンDFを振り切り、広くなったライン際のスペースに走り込みます。パスをもらってシュートに持ち込みました。相手のDFを的確に攻略するビッグプレー。オムロンの水野監督も「長く続けられるDFシステムではないと思ってはいたけど、予想以上に早く攻略されました。さすがの判断力、対応力ですね」と、相澤のプレーに脱帽でした。
後半29分:キャプテン永田が有終シュート
徐々に点差を広げた北國は、29分にキャプテンの永田がポストシュートを決めました。「そろそろ点を取らないと、みんなに怒られそうだったから」と言いながら、深田からのポストパスを得点に結びつけました。深田と永田のホットライン。今季限りで引退する2人で最後を締めくくった北國銀行が、28-18でオムロンを下し、10連覇の偉業を達成しました。
1年目の東監督、長足の進歩
就任1年目の北國銀行・東監督は「監督が頼りないから、選手が頑張ってくれた。特にキャプテンの永田と副キャプテンの松本ひかるには、迷惑をかけっぱなしでした」と、終始控えめのコメントでした。とはいえ、ファイナルでの東監督の采配は、レギュラーシーズン以上に冴えていました。今季限りで引退する山口絵梨香をあえてライトウイングの先発で起用したり、尾辻素乃子、辻野桃佳を流れのなかでうまく起用したり、選手のローテーションに柔軟性がありました。(下に記事が続きます)
ドイツ移籍の中山「前向きが強み」
8得点でMVPに選ばれた中山佳穂は「1人ひとりが前向きに課題に取り組めるのが、北國銀行の強み」と言います。来季からは中山と相澤の2人が、ドイツに移籍します。ピヴォットの永田キャプテンも引退します。日本の司令塔と左腕エースにライン際の要がいなくなりますが、新たな戦力の成長も感じられました。新監督のもとで連覇をつないだこの1年は、チームにとって大きな財産になるはずです。
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