ハンドボール・リーグH女子のHC名古屋は、藤本純季コーチ(元ブレイヴキングス刈谷)が就任してから半年が経ちました。2025年6月のプレーオフで現役を引退し、7月からチームを見ていましたが、契約の細部の詰めなどがあり、正式発表がないままリーグ戦が始まりました。半年間の歩みを書いていきます。
新井翔太ヘッドコーチから託されたバトン

HC名古屋を9年間率いて、プレーオフ出場まであと一歩に迫るところまで強くした新井翔太ヘッドコーチが、2025年5月を最後に退任しました。新井氏は6月からは東京・味の素ナショナルトレーニングセンターに常駐して、若い年代を中心に女子日本代表の指導に当たっています。8月の代表合宿や12月の世界選手権では、モーテン・ソウバク監督のもとフル代表のコーチ兼通訳に名を連ねています。
新井ヘッドの後任には、昨季までブレイヴキングス刈谷でプレーしていた藤本純季が、新たにコーチに就任。2025年7月から練習で指導していました。7月19~21日の三重バイオレットアイリス、飛騨高山ブラックブルズ岐阜との東海クラブダービーではベンチ外からインカムで指示を送っていましたが、その後はベンチに入って指揮を執っています。肩書は「コーチ」ですが、実質はチームの指揮官で、新井ヘッドの後釜としてHC名古屋を率いることになりました。(下に記事が続きます)
現役引退を決意して、コーチ就任

藤本コーチが言うには「来シーズンも現役でやる予定でしたが、HC名古屋からトヨタ車体(ブレイヴキングス刈谷)に話があって、次期監督候補の一人で僕の名前が挙がりました。悩んだけれども『滅多にない機会だし、いい経験になるだろうから』と思って決断しました。ラース(ウェルダーヘッドコーチ)からは『来シーズンも戦力として考えていたからチームとしては痛いが、お前の決断だから尊重する』と言って、送り出してもらいました」とのことでした。(下に記事が続きます)
ハンドボールIQの優れた選手だった

藤本コーチの現役時代を振り返ると、2024年12月の日本選手権準決勝(ジークスター東京戦)では、本職ではないピヴォットでスペースを動き回り、5:1DFのトップDFでも活躍しました。日本選手権決勝や2025年6月のプレーオフ決勝では、豊田合成ブルーファルコン名古屋のアグレッシブなDFに対し、レフトウイングから相手の裏を切って戻る動きで貢献していました。藤本コーチは「ラースからしたら、求めていることをやってくれるから、使い勝手がよかったんでしょう」と話していました。確かなハンドボール観があったから、藤本「選手」は36歳まで現役を続けられたのです。(下に記事が続きます)
新指揮官から見たHC名古屋

藤本コーチ体制で初の対外試合となった2025年7月の東海クラブダービーは1勝1敗。初戦で三重バイオレットアイリスには23-26敗れたものの、飛騨高山ブラックブルズ岐阜戦では24-23で接戦をものにしました。「7月から見てきて、時間がないなかでも試合になってよかった」と、藤本コーチは胸をなでおろしつつ、HC名古屋の印象を語りました。
「元々DFがいいチーム。みんな足が動くし、DFにやる気がある子が多いので、チームにはまるDFシステムを、僕が早く見つけてあげられたら。みんなまじめで、言ったことを一生懸命やろうとしてくれるから、できることの精度が上がれば楽しみですね。そんなにサイズがないので、アグレッシブに仕掛けるDFをしたいな。5:1DFができる戦力はあるし、6:0DFで2枚目に大きい選手を入れてもいいかな。まだ練習ではOFしか触ってなくて、今回は『DFは任せる』と言っていました。三重戦の立ち上がりは、僕の指示したラインコントロールがうまくいかなくて失点しましたが、いつもの感じに戻したら、DFは安定しました」(下に記事が続きます)
樋口怜於奈の2対2が増えた

藤本コーチ体制になって初の対外試合では、OF面に大きな変化が見られました。新井ヘッド時代のHC名古屋は純正のプレーメーカーを置かずに、エースの井桁晴香、センターの関洋香(ハニービー石川に移籍)の1対1でパラレル(並行)にずらして、ライトバックの樋口怜於奈、ライトウイングの夏堀郁音で仕留める形が基本でした。1対1は強烈ですが、あまりピヴォットを絡めないため、対戦相手からは「シンプルに守ればいい」とも言われていました。
藤本コーチが就任してからは、センターの樋口とピヴォットの佐藤那有の2対2が多くなり、組み立てが大きく変わりました。特に樋口は、フィニッシャーになろうとし過ぎていた昨季とは大違いで、ピヴォットを睨みながらの組み立てで、OFを上手にコントロールしていました。またDFでも1枚目に樋口を入れることで、速攻での展開力が増しています。
チーム待望の「正統派の司令塔」に育ちつつある樋口は、藤本コーチのハンドボール観を吸収しようと意欲的でした。
「去年とは違ったことができるんじゃないかな。藤本さんのハンドボールはシンプルなので、自分のいい部分が出しやすくなるというか、楽しくやれています」
藤本コーチ、1対1の強さ評価

樋口の2対2が新しいシーズンの目玉になるかと思いきや、藤本コーチは樋口の1対1を褒めていました。
「初日の三重戦の立ち上がりで、樋口が真ん中の1対1を抜いたシーンがありましたよね。バックステップでいい位置に動いて、パスをもらう前に相手をかわしました。ああいうプレーを増やしたいんですよ。名古屋のOFは、全体的に間合いが近い印象があります。ボールが欲しいから、もらう前にサイドステップで相手に近づいてしまう。連続攻撃ならある程度間合いが近くてもいいけど、一発目の攻撃はもっとバックステップして強く走り込んでほしい。最初のアタックが弱いから、セットOFで崩しきれていないように感じます」(下に記事が続きます)
1対1と2対2を使い分ける

目指すところは、トヨタ車体(ブレイヴキングス刈谷)伝統のフリーOFになるのでしょう。
「決まり事ではなく、個々人が1対1、2対2を的確に使い分け、判断できるように。もらう前の動きや位置取りなども含めて、これは時間がかかると思います。自分が行くべきか、隣に行かせるのか。右に行くのか、左に行くのか。打つのか、打たないのか。今、目の前に起きていることなんで、こっちが『右に行け。左に行け』と言っても、目の前の状況はどんどん変化していきます。そこを判断できるよう、試合までに準備をするのが、こっち(指導者側)の仕事ですね」
判断のイメージすり合わせる

判断という点では、2戦目のブルズ戦で興味深いシーンがありました。右膝のケガから約1年ぶりに復帰した屋田菜美が、3次速攻まで押した末に、左側でカットインを決めました。コート上のバランスは、右側が広かったようにも見えました。藤本コーチの見解はこうでした。
「僕はずっと『(速攻を)止めろ。止めろ』と言っていたんですけどね。あの場面は屋田の気迫を感じました。でも今日でみんなもわかったと思います。速攻で急がなくても、しっかりと展開すれば、フィニッシュまで持っていける。何本かパスミスはありましたけど、昨日(三重戦)よりはミスが減ったかな。速攻でみんな攻め急ぐから、バラバラになる。みんなでやれば、きれいにプラス1(1人余った状態)ができるんです」
正解をひとつに決めつけずに「こういう正解もある」というアプローチで、藤本コーチは選手の判断力を伸ばそうとしていました。
屋田にも、同じ場面について聞いてみました。
「左側の3対3で押した場面は、アウトが広かったからアウトに行きたかったけど、バックステップが不十分だったので、行った瞬間にインに切り返しました。ちゃんとアウトに行けるよう、もっと練習しておきます。藤本さんからはバックステップすること、間を攻めることを徹底するよう、いつも言われています」
現時点では藤本コーチと屋田のイメージは多少のズレはありながら、やりたいことは共有できているようです。点が入ったから「結果オーライ」で流さずに、より再現性の高い得点にするために、時間をかけて判断力を高めて、イメージを一致させたいところです。(下に記事が続きます)
選手間の会話が増えた

また屋田は、選手間でOFのイメージを共有できるようになってきたとも言います。
「監督がベンチにいないとアワアワしがちですけど、タイムアウトでは『もっとこうしたい』とか『ここが空いてるから、もっと(パスを)落とせるよ』とか『このプレーが合わない』とか、選手同士で会話できていました。藤本さんに『やっている人で話し合え』と言ってもらっている分、自由度が高いというか、お互いに言い合えています」
そういった意識が、ピヴォットを使った2対2にも反映されているようで、屋田は「(ピヴォットの佐藤)那有は動きが見やすくて、いてほしい場所にいてくれるから、私たちがうまくパスを出せたら、もっとバランスよく得点が取れるかな」と話していました。佐藤以外にも、ピヴォットに入った吉村香音、長瀨亜矢子にパスを落とすシーンが見られるなど、HC名古屋の攻撃は変わりつつあります。
前向きな言葉で可能性引き出す

藤本コーチは、選手のことを決して悪く言いません。常にポジティブな表現を心がけているように感じました。
「佐藤、吉村、長瀨の3人はピヴォットらしい感性を持っています。あとはスクリーンを張れる体の強さが必要だから、鍛えていきますよ。左腕の塚邊美夏は大学生で言ったら4年生ですよね。もっと試合で使ってあげないと。あのクロスを試合でなんとか使いたい。東海クラブダービーではいろんな選手を出したかったけど、2戦目のブルズ戦は『後半の勝負どころで、夏堀が責任を持つだろう』と思ったから、あえて替えませんでした。夏堀のパスカットで3点差にしたあと競ってしまいましたけど、ああいう試合にしないことが、勝つために大事。試合に出ている選手は、ベンチに下がるまでは自分のポジションに責任を持たないと」
個々の力と判断を鍛えて、目指すはチーム史上初のプレーオフ進出。正GKの榊真菜は「藤本さんが、選手の新たな可能性を引き出してくれそうで、これからがとても楽しみです」と、新しいシーズンへの期待を口にしていました。 ([下]へ続く)
藤本 純季(ふじもと・じゅんき)1989年3月23日生まれ、熊本県出身。都呂々中学~熊本市立千原台高校~早稲田大学~トヨタ車体(ブレイヴキングス刈谷)。現役時代のポジションはレフトウイング。柔らかく腕がしなるシュートフォームとハンドボールIQの高さで活躍し、2015年度から3年連続で日本リーグ(現リーグH)のベスト7に選ばれた。2017年度は0.733でシュート率賞を受賞。30代でバックアップに回ったが、時にはピヴォットやトップDFでプレーするなど、役割に応じて渋い働きを見せていた。ポコチャのライブ配信でも人気者で、オリジナルソングを2曲リリースしている。2025年6月のプレーオフを最後に現役引退。2025年7月からHC名古屋でコーチを務める。
ペンスポニュースレター(無料)に登録ください
スポーツ特化型メディア“Pen&Sports”[ペンスポ]ではニュースレター(メルマガ)を発行しています。「へぇ」が詰まった独自ニュースとスポーツの風を届けます。下記のフォームにメールアドレスを記入して、ぜひ登録ください。





![Pen&Sports[ペンスポ]スポーツ特化型メディア](https://sports.pen-and.co.jp/wp-content/uploads/2026/01/スポーツを深くしる手書き_白字.png)








\ 感想をお寄せください /