【プロ野球】ソフトバンクがリーグ優勝。就任1年目・小久保監督の「一瞬に生きる」処世術

プロ野球のパ・リーグは2024年9月23日、福岡ソフトバンク・ホークスが4年ぶり20度目の優勝を決めました。私と同世代、現役選手時代にこだわって取材してきた就任1年目の小久保裕紀監督（53）が胴上げされ、グッとくるものがありました。

ソフトバンクは開幕6試合目の4月4日に首位に立って以来、トップを譲らず独走。昨シーズン、パ・リーグを制したオリックスに26.5ゲーム差をつけての優勝ですから、今季のソフトバンクの強さがいかに図抜けているかがわかります。ソフトバンクは日本シリーズ進出を懸け、10月16日からのクライマックスシリーズ（CS）ファイナルステージに臨みます。

現役時代から「外向き」だった小久保監督

ソフトバンク・ホークスは私が新聞記者時代の2009年シーズン、番記者を務めた担当球団でした。王貞治氏からバトンを渡された秋山幸二監督就任1年目だった15年前。小久保裕紀監督は当時、37歳で主将でした。

主将がユニフォームにキャプテンエンブレムの「C」マークを付けるようになった走りの時期。現役時代、5度のリーグ優勝を経験している小久保さんは、選手と監督の両方でリーグ優勝を達成したことになります。

思い返せば、小久保さんは現役時代から、番記者への取材対応が他の選手と少し違っていました。私自身の多少のやっかみもありますが、ホークスの大半の選手は自分の活躍が1面などで大きく取り上げられるのを意識してか、地元の西日本新聞（当時は西スポも存在した）や九州独自で1面を作っていたスポーツ紙の取材を優先する「内向き」な傾向がありました。

プロ野球球団を持つ読売新聞や中日新聞を除いて、特定の球団に肩入れすることがない、活躍しても大きな記事になりにくい、朝日、毎日、日経、産経などの一般全国紙の取材対応は「二の次」の選手が多い中、小久保さんは違いました。

＼優勝監督インタビュー／
小久保監督の今の気持ち、喜びの声をお聞きください✨#sbhawks #VIVA優勝 #みんなでVIVA pic.twitter.com/JQgSZasGSx

— 福岡ソフトバンクホークス（公式） (@HAWKS_official) September 23, 2024

アマ球界上がり。五輪にも出場

小久保さんにはリベラルな一般全国紙に取り上げられてこそ本望という意識があったように思います。「中央志向」「グローバル志向」がもともと強い、当時としては稀有な選手でした。事実、私が朝日新聞に書いた戦評記事もよく読んでいました。

• 筆者が朝日新聞に書いた2009年9月4日の小久保サヨナラ打の記事

シーズン中も常に複数の本を持ち歩き、読書を欠かさない勉強家。プロ入りする前の青山学院大時代は大学生で唯一日本代表入りし、1992年バルセロナ五輪で銅メダルを獲得したアマチュア球界のスター選手でした。そんな異色のバックグラウンドも「内向き」の選手とは一線を画す、小久保さんの魅力でした。

2009年シーズン中は毎週1時間、小久保さんは朝日新聞の私のために独占インタビューの時間を割いてくれました。全国紙、一般紙への対応としては異例でした。私はそれをもとに「主将力」というコラムを毎週、九州エリアの紙面で連載。彼の言葉を通して、その時のチーム状況や課題を知ることができ、私自身かなり助けられたのを覚えています。(下に記事が続きます)

カラオケで失態

そんな小久保さんと宮崎キャンプ中に食事したあと、カラオケがある店に行ったことがあります。私は福岡から広島へ異動することが決まり、「主将力」のコラムを引き継ぐ後輩を紹介する目的でした。

「じゃあ、まずは若い衆から」ということで、後輩がトップバッターで歌うことになったのですが、その後輩が緊張のあまり、モジモジしてなかなか曲を入れません。20分ほどたってしびれを切らした小久保さんは「じゃあ俺が先に」。サザンオールスターズの「白い恋人たち」を熱唱したあと「ごめん、おれ帰るわ」とすぐに店を出た小久保さん。その後輩は小久保さんにアピールの機会を失い、「主将力」のコラムも私の異動とともに休載になってしまいました。

小久保さんの座右の銘は「一瞬に生きる」。2013年にはそのタイトルで自叙伝も出版しています。決断は早く、温かい人柄ですが、温情を引きずらないドライな一面は監督向きだと感じます。

小久保監督が胴上げされる姿を見て、キャンプ中に貴重な時間を割いてくれたにも関わらず、後輩をうまく紹介しきれなかった15年前の苦い思い出が、よみがえりました。