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【編集長コラム】五輪6度目、初のパスなし。もどかしさと希望と

原田亜紀夫・Pen&Sports編集長
パリ五輪取材の拠点になっているパリ近郊ボワ・コロンブ駅前のカフェで=2024年8月1日、原田写す、以下すべて)
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ペンで、心を動かす。ペンスポ編集長の原田亜紀夫です。いつもご愛読ありがとうございます。パリ五輪開会式があった2024年7月26日にパリに到着して1週間が経ちました。8月11日の閉会式まで続くパリ五輪取材はあと数日で折り返し。7月31日時点で金8、銀3、銅4の15個のメダルを獲得した日本選手の活躍に連日、心を揺さぶられています。

一方で個人的にはあるジレンマを抱えながら、パリでの日々を過ごしています。すぐそばで同時進行で行われている世界最高峰の競技に、思うように「アクセス」できない焦り、もどかしさがあるのです。

目次

アクセスできないもどかしさ

Pen&Sports [ペンスポ] を創刊して1年。私自身、五輪の現場は今回で6度目になります。パリに乗り込んだだけでも、創刊1年のメディアとしては順調なスタートと自負しています。

ただ、これまでの五輪取材と決定的に違うのが「パス」を持っていない点です。

新聞社のスポーツ記者時代はいわゆるプレスパス(Eパス)の恩恵に授かりました。これがあると、すべての競技会場に自由に出入りして観戦・取材でき、試合後はミックスゾーンと呼ばれる取材エリアで選手たちの興奮さめやらぬ第一声を聞き、記者会見では質問することができます。競技会場間の移動は会社が用意してくれた車を使用し、1日に3〜4会場をはしごします。これまでの五輪では、そうして記事を書きまくることができました。

さらにプレスパスがあれば、世界各国から報道関係者が集うMPC(メーンプレスセンター)に入館できます。そこではホスト放送局のOBS(オリンピック・ブロードキャスティング・サービス)が配信する全競技の中継映像をライブで観ることができるほか、INFOという端末では全選手の詳細なプロフィールや、Flash Quotesとよばれる試合前後のコメント・発言などが簡単に入手できます。

リオデジャネイロ五輪の開会式前のマラカナンスタジアムで。筆者の首にはプレスパス(Eパス)=2016年

プレスパスを所持するジャーナリストには、連日、IOC(国際オリンピック委員会)も記者会見を開催します。余談ですが、お腹がすけば、メーンプレスセンター(MPC)には記者専用のレストランがあるほか、控え室には会社が用意してくれたカップめんやパックご飯が山のようにあり、何不自由なく取材と記事執筆に没頭できました。

しかし、今回、そんなプレスパスはありません。

五輪取材はスポーツジャーナリストにとってあこがれの舞台です。各国ごとにプレスパスの発行枠も決まっています。日本ではマスコミの選ばれし記者のみがパスを入手できる傾向にあり、そのため、メディア間の競争もかなり激しいのです。

例えば、広島に本社を置く中国新聞社でさえもパリ五輪ではプレスパスの割り当ては1枚だけで、ましてや新興のネットメディアや専門誌のフリーランス・ライターで、プレスパスを入手できる人材は極めて限られています。(下に記事が続きます)

頼りはフランスの地上波

パリに来たのはいいものの、すべての競技のチケットを買い、取材するというのも現実的ではなく、これまでと違い「書ける現場」が絞られます。だから、もどかしく、焦るのです。

しかも、当地では日本の地上波(NHK、民放)やTVerが視聴できません。Yahoo!ニュースも制限がかかり、欧州全域で読めません。SNSのほかに、五輪情報を入手する頼りはフランスTVの地上波ですが、中継されるのはフランス選手が活躍する競技がほとんど。フランスで人気の柔道はほぼ決勝まで生中継がありますが、生で観たかったバレーボール男子の日本ーアルゼンチン戦も、ハンドボール男子の日本ースペイン戦も中継はもちろんありませんでした。

カフェのムッシュー「次の競技は?」

パリ近郊ボワ=コロンブ駅前のカフェ”Au Départ”

ないものねだりをしてもしょうがない。気持ちを切り替えて、とにかくパリの風を感じ、街を歩き、市民を観察してみることにしました。そしてチケットで観戦できる会場では、できる限り、選手の家族などを探して話を聞くことにしました。すると、少しずつ視界が晴れてくる感覚になるのが不思議です。

来仏以来、通い続けているパリ近郊ボワ=コロンブ駅前のカフェ。スポーツ好きのマスターが朝から晩まで店内で五輪中継を流して、客と一喜一憂しながら地元開催の五輪を楽しんでいます。すると昨日、エスプレッソ一杯で粘って五輪中継を観ていた私に「日本の男子バスケットボールは素晴らしかった。あのファウルがなければフランスが負けていたよ」「柔道の阿部一二三もよくやったな」と話しかけてきました。そして、テレビのリモコンを私に差し出して、次は何の競技が観たいんだ?とチャンネル選択権を与えてくれたのです。ここ1週間ですっかりこのカフェが私のMPC(メーンプレスセンター)になりました。

7月31日のホッケー会場では、女子日本代表のDF狐塚美樹選手の父、秀幸さんと会いました。

日本―ベルギー戦を観戦したホッケー女子日本代表の狐塚美樹選手の父、秀幸さん=2024年7月31日、パリ郊外イブ・デュ・マノワール競技場で

ここまでさくらジャパンは3連敗で苦しい状況が続きますが、娘の背番号13のTシャツを着た秀幸さんは「私たち家族にとって、無観客だった東京五輪とは全く違うパリ五輪です。やっぱり生で見られるのはいいですね。美樹は4きょうだいの長女なのですが、8月1日のフランス戦にはきょうだいの家族も含めて家族全員駆けつけて応援します」と話していました。

パリ五輪取材の後半戦。「パスがない」からこそ見えるもの、会える人に感謝しながら取材を続けていこうと思います。

Pen&Sports 編集長
原田 亜紀夫

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