2026年が明けるとすぐ、ハンドボールの男子日本代表(彗星JAPAN)がアジアを舞台に大一番に挑む。2026年1月15日にクウェートで開幕するAHF男子アジア選手権は、第30回IHF男子世界選手権(2027年1月、ドイツ)のアジア予選を兼ねる重要な大会だ。上位4チームが世界選手権の切符を手にする。
今回の日本代表18人(ベンチ入りは16人)の顔ぶれはパリ五輪代表から半数以上が入れ替わり、17人がリーグH所属の国内組となった。パリ五輪で活躍した安平光佑(クウェート・ブルガンSC)、吉田守一(フランス・HBCナント)はメンバー外。一方、安平、吉田と同世代で、海外でプレーする選手でただ一人、RB榎本悠雅(セルビア・Vojvodina / ヴォイヴォディナ)が代表に抜擢された。
欧州に渡り5シーズン目となる25歳の榎本をトニー・ジェローナ監督はオフェンスの起爆剤、次世代の中心選手として期待する。報道陣に練習が公開された2025年12月29日、榎本に話を聞いた。
| ポジション | 背番号 | 氏名 | 所属 |
|---|---|---|---|
| GK | 1 | 中村 匠 | 豊田合成ブルーファルコン名古屋 |
| 12 | 岩下 祐太 | ジークスター東京 | |
| LW | 8 | 石田 知輝 | 公益財団法人日本ハンドボール協会 |
| 9 | 杉岡 尚樹 | トヨタ車体ブレイヴキングス刈谷 | |
| RW | 4 | 櫻井 睦哉 | トヨタ車体ブレイヴキングス刈谷 |
| 51 | 中田 航太 | トヨタ紡織九州レッドトルネードSAGA | |
| BP | 15 | 部井久 アダム勇樹 | ジークスター東京 |
| 20 | 渡部 仁 | トヨタ車体ブレイヴキングス刈谷 | |
| 31 | 吉野 樹 | トヨタ車体ブレイヴキングス刈谷 | |
| 38 | 水町 孝太郎 | 豊田合成ブルーファルコン名古屋 | |
| 39 | 藤坂 尚輝 | 大同特殊鋼 Phenix TOKAI | |
| 43 | 榎本 悠雅 | Vojvodina (セルビア) | |
| 54 | 伊禮 雅太 | ジークスター東京 | |
| 56 | 荒瀬 廉 | 豊田合成ブルーファルコン名古屋 | |
| 58 | 田中 大介 | 豊田合成ブルーファルコン名古屋 | |
| PV | 48 | 山田 信也 | トヨタ車体ブレイヴキングス刈谷 |
| 57 | 中沖 仁希太 | ジークスター東京 | |
| 68 | 市原 宗弥 | 豊田合成ブルーファルコン名古屋 |
北マケドニア戦でブレイク、チーム最多7得点
「正直なところ、いまの代表は自分以外は日本でやっている選手だけなので、代表に来ると1~2日は日本人特有の速さに慣れるのに時間がかかります。速攻の切り替え、セットプレーでも日本は速い展開が多いので、最初は苦労するんですけど、慣れてからは(連携も)合うようになって来ていると思います」
リーグHの選手のなかにポツンと一人、今年7月に加入したセルビアの強豪チーム、Vojvodina/ヴォイヴォディナから代表に合流している榎本は落ち着いた低い声で謙虚に話した。
そんな榎本が直近で輝いた試合がある。2025年10月末からの代表での海外遠征だ。11月4日に北マケドニア・クマノヴォで行われた同国代表との国際親善試合で、榎本は相手ディフェンスの上からミドルシュートを決めまくった。7mスローコンテストを含むチーム最多の7得点で、欧州の強豪国に32-31の逆転勝利。その立役者になった。
欧州の経験、チームに還元

この活躍にジェローナ監督も改めて榎本にほれ込んだ。「ユウガ(榎本)はマケドニアでかなりいいパフォーマンスを発揮した。女子(のIHF世界選手権)を観てもわかるように、ヨーロッパでプレーしている選手は、素晴らしい経験をチームにもたらしてくれている」
その試合の話題を振ると、榎本の声も弾んだ。「あの試合は結構(調子が)よくて、そこで監督からも信頼を得られたかなという実感はあります。けれど、まだまだいけるかなとも思います」(下に記事が続きます)
筑波大3年在学中にハンガリーへ
榎本は今月20日に誕生日を迎えたばかりの25歳。その球歴は孤高でユニークだ。
2018年の三重インターハイで準優勝した茨城・藤代紫水高を卒業後、筑波大へ進学した。同学年でその後パリ五輪代表に選ばれた安平光佑、吉田守一らはユース世界選手権(U19)日本代表でともに戦った仲間で、吉田は筑波大でも同期だった。
筑波大3年に在学中だった2021年8月、ハンガリーリーグ1部のKTE-Piroska Szörp(ケチケメート)から声がかかり、欧州に渡った。
「当時はコロナ禍で大学の講義がオンラインで受講できました。ハンガリーのチームに所属しながら、朝3時とかに起きて、大学の講義を聴いてレポートを書いて、そのまま朝練習して。最初の2年はきつかったですね」と榎本。
ハンガリーでプロ・ハンドボール選手としての生活を送りながら、筑波大を卒業し、現在も続く筑波大から海外クラブ挑戦へのロールモデルのひとりとなった。Budai Farkasok KKUK(ブダ)、MOL Tatabánya KC(タタバーニャ)とハンガリー1部リーグのチームを渡り歩いて4年。2025年7月にセルビアの強豪RK Vojvodinaに移籍した。(下に記事が続きます)
ジェローナ監督「安平、吉田に声はかけたが…」

トニー・ジェローナ監督は、欧州クラブから榎本を呼んだ一方で、パリ五輪代表の安平、吉田をなぜ招集しなかったのかを報道陣に問われてこう話した。
「監督として声はかけましたよ。今回のメンバーに絞り込むまでの大きな30人~35人のリストに安平、吉田を入れたい思いはあった。だから何度も直接話しました。しかし、最終的に日本協会と彼らの間で、彼らの求める待遇、条件などの面で個別にアグリーメント(了承)が得られなかった。結果的に、呼べないということになりました。将来的には来てくれることを期待していますが、今回は安平も吉田も最終的に来ないということが決まったので、ここにいる選手たちと集中して戦いたい」(下に記事が続きます)
「ベストメンバーじゃない」の声かき消す
海外クラブから唯一代表に合流した榎本にも、同世代へのライバル心がのぞく。
「吉田、安平はパリ五輪で活躍したので、彼らがいないというのはあれですけど。周りからは、『ベストメンバーじゃない』という声も聞こえてきますが、今ここにいるベストメンバーでアジアを獲りに行こうとチームで話をしています。トニー(監督)もそれを信じて選手を選んでくれていると思うので」
「自分はRBというポジション柄、点を取ったり、オフェンスで信頼を得て、貢献する立場。そこでしっかり結果をだして、長年勝てていないカタールや、6月の定期戦で負けた韓国にも勝ってしっかり優勝したい。サウジアラビアにもドイツのブンデスリーガでプレーしている選手もいて、気は抜けません」。榎本はインタビューをそう締めた。
ハンドボール男子日本代表に、穏やかな年末年始はない。榎本以外の代表選手はリーグHの各所属チームで広島市での日本選手権を戦い終えたばかりで、12月28日に始まった合宿は2026年1月6日まで続き、年末年始返上で急仕上げに入る。代表は1月6日からサウジアラビアに遠征し、最終調整を経て、クウェート入りする。
榎本 悠雅(えのもと・ゆうが)2000年12月20日、茨城県守谷市生まれ。茨城県立藤代紫水高時代から頭角を現し、U16、U19日本代表選出。筑波大へ進学し、3年在学中の2021年からハンガリー1部のKTE-Piroska Szörp(ケチケメート)へ。その後、Budai Farkasok KKUK(ブダ)、MOL Tatabánya KC(タタバーニャ)と渡り歩いてハンガリーで4年。2025年7月にセルビアの強豪 RK Vojvodina(ヴォイヴォディナ)に移籍した。左腕から繰り出すミドルシュートが持ち味。代表での背番号は43。175センチ、80キロ。
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