日本ハンドボールリーグ女子は2024年4月27日、29日の試合結果により、プレーオフに出場する上位4チームが決まりました。北國銀行、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング、オムロン、アランマーレで、東京・武蔵野の森総合スポーツプラザで5月24~26日、シーズン最後の戦いに挑みます。各チームの見どころを紹介します。(4月末の順位順)
北國銀行:10連覇めざす
9連覇の偉業を成し遂げた荷川取義浩監督のあとを受けて、元・日本代表主将の東俊介氏が今季から監督になりました。初の監督業で、完成されすぎたチームを任される難しさを味わい、一時はかなりやつれていました。今もまだ采配面は勉強中。「全勝のチームを譲り受けたからには、シーズン無敗でいきたい」との気負いが、選手起用にもやや感じられます。
しかし東監督は、学習能力が非常に高いのが強みです。運動音痴の「でかいだけ」の少年が、努力と工夫を重ねて日本代表になりました。講習会でも最初の頃は「カミカミマン」と言われるくらい、人前でしゃべるのに苦労していたのが、芸人や他競技の人から学び、今では大人も子どもも笑わせるまでになりました。文学的素養もあるなど、他の人にはない豊かな感性もあります。シーズンでの試行錯誤を、きっと大一番で生かしてくれるでしょう。
中心選手:相澤 菜月・中山 佳穂
日本代表の主力2人は、来季以降はドイツでプレーすることを表明しています。北國でプレーする最後の試合で、最高のパフォーマンスを発揮できるか。相澤の恐ろしいくらいに冷静なゲームメーク。中山のありえないくらいしなる左腕から打ち分けられるロングシュート。2人のクロスから、様々な攻撃の選択肢が枝分かれしていきます。コンディションが万全であれば、国内では無敵の2人です。
期待の選手:松倉 みのり
2023年末の日本選手権の決勝では、全員が絶好調だった中、ライトウイング勢だけが不発に終わっています。特にシーズンで好調だったはずの松倉が1/5に終わったのは、大きな誤算でした。大きな舞台で決めてこそ一人前。昨季のプレーオフでも悔しい思いをしているので、今年はファイナルで決める松倉が見たいです。(下に記事が続きます)
ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング:しぶとさで勝負
宋海林(ソン・へリム)ヘッドコーチの就任1年目で、チームカラーが大きく変わりました。大城章監督時代の「波はあるけど、最大値の大きい」チーム作りから、「目立つ選手はいないけど、なぜか負けない」チームにモデルチェンジ。飛田季実子、角南果帆といったカリスマ性のあるベテランが引退したにもかかわらず、レギュラーシーズンは2位につけています。
選手個々のポテンシャルだけでなく、無形の力を重視した選手起用が光ります。レフトウイングなら若い作田神音や笠泉里の方がポテンシャルはあるけど、ベテランの河嶋英里のDFと流れを読む力を評価して、河嶋をメインで起用しています。昨年末の日本選手権では、世界選手権直後の大会だったため、「代表選手抜きで練習してきたことを出す」采配でしたが、プレーオフではきちんと策を練ってくるでしょう。
中心選手:金城 ありさ
昨季までは「金城が途中から出てきて、5点取って勝つ」チーム作りでした。今季は「金城がスタートから出て、10点取って勝つ」チームになっています。現時点でリーグの得点ランキングのトップを、岡田彩愛(香川銀行)と争っています。パリ五輪世界最終予選(4月)のイギリス戦で見せたように、左腕を振り切れる間合いを心得ているから、金城のシュートは9mの外からでも入ります。ステップシュートにロングシュートにカットインと多彩な得点パターンで、ソニーのファーストオプションになります。
期待の選手:大山 真奈
ハンガリーのプロリーグから今季、日本に戻ってきて、この1年は正直言って「らしくない」プレーが続いています。ひと言で言うと「ミスが多い」です。2021年の東京五輪で日本代表だった大山のよさは、「ハンドボールの美しさ」にあります。正確な判断からの飛ばしパス。味方に2対2をさせておいて、少し離れたところから1歩で打ち込むステップシュート。パス&ランで走り込み、リターンパスをもらってライン際で仕留める。ひとつひとつのプレーが理にかなっているのが特徴です。引退を表明しているので、最後のプレーオフでは本来の「美しい大山」が見られるでしょうか。(下に記事が続きます)
オムロン:10年ぶりの女王返り咲きへ
水野裕紀監督はカリスマ・黄慶泳監督(現三重監督)からバトンを受け取って6年になります。伝統のあるチームで苦労を重ね、オムロンを自分の色に塗り替えました。様々なルートから選手を獲得し、選手交代も多めにして、「個で判断できる選手」を育ててきました。監督に言われたことだけやるのではなく、自分で判断して相手の変化に対応できるよう、女子選手のメンタリティを変えた功績は大きいです。
昨年のプレーオフは大チャンスだったのですが、大会直前にピヴォットのグレイ クレア フランシスをヒザの大ケガで欠く不運に見舞われました。今年は大幅に主力が入れ替わりながらも、戦力の目減りを感じさせない戦いぶりを見せています。むしろ谷藤悠ら若手の出番が増えて、チームに活気が出てきました。今年こそは水野監督体制での初優勝を。
中心選手:須田 希世子
3月の三重戦で負けたのは、須田がいなかったのが一番大きかったかと思われます。スタッツでは冴えないし身長も153cmですが、この1年で本当にチームに欠かせない選手になりました。スピードに乗った1対1だけでなく、攻守に球際の部分で必ず須田が絡んできます。センターとしてのゲームメークも水野監督から教わり、「どの攻めが効いているのか」を理解して組み立てられるようになってきました。
期待の選手:グレイ クレア フランシス
2023年3月のプレーオフ直前に、左ヒザの前十字じん帯を断裂。そこから1年足らずでコートに戻ってきました。オムロンが優勝するためには、ピヴォットのクレアを絡めた2対2が欠かせません。ライン際での片手キャッチにフィジカルの強さは国内トップレベル。地肩の強さは7mスローでも生かされます。ライン際で7mスローを獲得して、自分で決める「自給自足」をどれだけできるか。2対2の上手なキャプテン米澤綾美との合わせが、特に楽しみです。(下に記事が続きます)
アランマーレ:2年連続2度目のプレーオフ
福田丈ヘッドコーチは筑波大男子でインカレ日本一になった実績を引っさげて、アランマーレのヘッドコーチに。就任3年目で2度のプレーオフ出場を果たした、若き指揮官です。筑波大出身者らしく「キレイな2対2を好む」一方で、フィジカルの強さだったり、選手をどんどん入れ替えるなど「男子っぽい」やり方をミックスさせて、これまでの日本の女子にはなかったスタイルで結果を残しています。
普段の練習は長くても2時間。短時間集中で、選手には最初のワンプレーから100%の強度を求めてきました。だからアランマーレの選手は出力が高く、交代してすぐに自分の強みをコート上で発揮できます。体作りを担当している横川卓也トレーナー、ヨーロッパのGK育成システムを熟知している菊池啓太GKコーチも含めて、アランマーレの若いコーチングスタッフは日本の女子を変えていく可能性を秘めています。
中心選手:兼子 樹
アランマーレの大黒柱は横嶋彩なのですが、ここではあえてピヴォットの兼子樹を挙げたいと思います。本当にビックリするくらい強くなって、前半開始早々に横嶋との2対2でパスをもらって7mスロー獲得するなど、ライン際で強さを見せつけるシーンが増えました。プレーオフでも最初にガツンとフィジカルの強さを示せたら、昨年のような「よそ行きのハンドボール」にならないでしょう。小柄だけど技のあるピヴォット・高木裕美子との対比も見どころのひとつです。
期待の選手:笠野 未奈&鈴木 梨美
アランマーレの「ちょんまげお兄さん」こと菊池啓太GKコーチとのトレーニングで、日本リーグに入ってから急成長している2人です。笠野は水海道二高時代、宝田希緒(ソニー)の控えでした。鈴木は佼成女子高時代、大沢アビ直美(ソニー)の控えでした。高校時代に控えGKだった2人がプレーオフで活躍したら、夢がありますね。シュートが来るまではダランとしていて、シュートが来そうと察知したらダイナミックに仕掛ける笠野。身のこなしがよく、最後まで駆け引きできる鈴木。2人のGKの活躍なくして、アランマーレのプレーオフ初勝利はありません。
ハンドボール女子・日本リーグプレーオフ 一発勝負のトーナメント形式。いわゆるステップラダー方式で、まずレギュラーシーズン3位と4位が1stステージを戦い、勝ったチームが2ndステージで2位と対戦する。2ndステージに勝ったチームは、ファイナルステージで1位と対戦する。3位、4位からの下剋上を狙うには3連戦を勝ち抜かなければならない。上位チーム同士が対戦する面白さもありつつ、レギュラーシーズンの成績によるアドバンテージも考慮されたシステム。大会公式HP
ペンスポニュースレター(無料)に登録ください
スポーツ特化型メディア“Pen&Sports”[ペンスポ]ではニュースレター(メルマガ)を発行しています。「へぇ」が詰まった独自ニュースとスポーツの風を届けます。下記のフォームにメールアドレスを記入して、ぜひ登録ください。
\ 感想をお寄せください /