日本ハンドボール協会は2024年10月16日、女子日本代表選考合宿(10月21~24日)の参加メンバーとスタッフを発表しました。2024年4月のパリ五輪世界最終予選のあと、初めての代表合宿です。今回は田中俊行ハイパフォーマンスアシスタントディレクターが暫定の監督で、女子日本代表を率います。このメンバーに相澤菜月(チューリンガーHC/ドイツ)ら海外組や、11月にインカレを控えている石川空(大阪体育大学)ら大学生を合わせて、12月にインド・ニューデリーで開かれるアジア選手権の代表メンバーが決まると思われます。まずは2025年の世界選手権の切符が得られる5位以内に入ること。できれば1位通過を期待しています。
後任決まらず田中俊行氏が暫定指揮
パリ五輪世界最終予選で敗れ、楠本繁生監督体制の女子日本代表は一区切り。後任候補との契約交渉に時間がかかっているようで、今回は田中俊行ハイパフォーマンスアシスタントディレクターが暫定で指揮を執ります。
3年前の2021年9月のアジア選手権も、古橋幹夫監督の暫定政権で決勝まで進み、世界選手権の切符を獲得しています。この時は2021年8月まで東京五輪があり、ウルリック・キルケリー監督退任直後の大会でした。大幅にメンバーが代わったなか、古橋監督が「火中の栗」を拾ってくれたおかげで、2021年11月の世界選手権から楠本監督体制でいいスタートを切れました。
3年前は仕方ない部分もありましたが、今回の暫定政権に関しては疑問符がつきます。田中俊行監督が急場をしのいでくれるのはありがたいですし、田中監督の人柄、ハンドボール観などは全面的に信頼できます。とはいえ、次期代表監督を早く決めて、ハンドボール観を共有しておきたいタイミングで、代表監督が「空席」のまま国際大会に挑むのは非常にもったいない。代表の強化が立ち遅れた感は否めません。
10月21日から東京の味の素ナショナルセンターで行われる代表選考合宿に参加する23名の選手を紹介していきます。(下に記事が続きます)
GK(ゴールキーパー)は5人
馬場 敦子(北國ハニービー石川)
アジアを戦う上では絶対に外せない選手です。2023年9月のアジア競技大会で、決勝の韓国戦に10点差をつけて勝てたのは、GK馬場の好守連発があったからです。俊敏なセーブからの素早いパス出しで味方を走らせ、イージーな得点を増やせるのも、馬場の強み。所属でも代表でも、若返ったチームを支える役割になりました。
下屋 奏香(熊本ビューストピンディーズ)
地味に優秀なGK。所属では昨季から正GKになり、しっかりと結果を残しています。特筆すべき技はないのですが、試合の節目ではなぜか大活躍。安定して試合を作れて、なおかつ勝負どころでは大当たりも見せる、究極の「勝てるGK」です。
前田 優(熊本ビューストピンディーズ)
2年目の今季から出番をもらって、伸び盛りのGK。大阪体育大学では正GKと呼べる位置づけではありませんでしたが、熊本に来て力をつけています。10月6日のリーグH中断までで阻止率.400は、馬場を抑えて堂々の1位。これからが楽しみです。
榊 真菜(HC名古屋)
3年目の今季からHC名古屋の正GKになりました。身長がある割には下のボールへの反応が鋭く、スライディングも上手です。開幕当初はややバタバタしていましたが、北國戦に勝つなど修羅場をくぐるうちに安定感が出てきました。国際レベルの上へのシュートに慣れれば、GKとしてもう一段レベルアップできるでしょう。
笠野 未奈(プレステージ・インターナショナル アランマーレ富山)
個人的に「4年後の大本命」だと思っています。亀谷さくら(ブドゥチノスト/モンテネグロ)が10年近く守ってきた日本のゴールを次に任せられるのは、国内では笠野しかいません。ヨーロッパ勢のシューターに対抗できる長い手足に、ダイナミックなキーピング。所属では菊池啓太GKコーチに鍛えられ、国際仕様の捕り方、考え方を身につけています。 (下に記事が続きます)
LW(レフトウイング)はテクニシャン3人
吉留 有紀(北國ハニービー石川)
貴重なパリ五輪予選メンバーからの生き残り。左の2枚目DFに入って、絶妙な間合いでボールを奪い、速攻に持ち込みます。ガツガツ当たるのではなく、間合いと駆け引きで勝負するタイプなので、「対アジア」で強みを発揮します。シュート力もついてきて、今季は7mスローも任されるようになりました。
米澤 綾美(熊本ビューストピンディーズ)
大阪の宣真高校時代の恩師で、元日本代表の大エースだった藤井紫緒(元オムロンほか)に憧れている米澤。熊本では今季から、藤井がつけていた背番号7をもらってウキウキでした。「あとは代表で10番(藤井が代表でつけていた番号)をもらったら、コンプリートですね」と声をかけたら、「さすがにそこまでは…」と尻込みしていましたが、ついに10番をつけるチャンスが巡ってきました。ウイングとバックプレーヤーを掛け持ちし、ポストパスも上手なつなぎ役です。
笠泉 里(ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング ブルーサクヤ鹿児島)
守れる大型ウイング。2枚目で動ける機動力もありつつ、3枚目でも使えるサイズがあります。代表に呼ばれたり呼ばれなかったりの時期が続きましたが、強みのDF力をアピールして、代表に定着したいところです。
LB(レフトバック)は守れる大型3人
大松澤 彩夏(プレステージ・インターナショナル アランマーレ富山)
守備型のレフトバックで、3枚目DFでサイズを生かします。今回は180㎝の佐原奈生子(北國ハニービー石川)がいないので、DFのスケール感を落とさないためにも、175㎝の大松澤が真ん中で頑張ってほしいところ。ロングシュートも悪くないので、攻守にひと皮むけるチャンスです。
山口 眞季(三重バイオレットアイリス)
バイオレットの攻守の要。3枚目が守れて、OFではレフトウイングもできるので、攻守のバランスを整える際には重宝します。打点の高いステップシュートも、対アジアなら強力な武器になるはず。若い頃はケガもありましたが、三重への移籍を機に着実に力をつけて、代表入りを目指します。
藤原 ひなた(筑波大学)
今回唯一の大学生。日本の泣きどころレフトバックの救世主になれるでしょうか。「打ち屋」というよりは、攻守のバランスに優れたタイプで、強い体と地頭のよさで「3枚目を守れるバックプレーヤー」になってくれれば。佐々木春乃(ドルトムント/ドイツ)しかいなかったポジションなので、若い力の台頭に期待です。(下に記事が続きます)
CB(センターバック)、得点力の一芸4人
喜田 ことみ(大阪ラヴィッツ)
ラヴィッツファンご自慢の「ウチのことみ」。膝のケガを乗り越えて、ようやくフル代表に手が届くところまできました。所属ではエースですが、インにアウトに自在に抜けるカットインと、速攻での飛び出しの速さで、攻撃型のセンターに育ってくれると、代表入りの可能性が高まります。周りにいい選手がいる時に、どんなプレーを見せてくれるかも見どころです。
小柴 夏輝(北國ハニービー石川)
新人ながら北國のファーストオプションで大活躍。点を取れるセンターで、しなやかなカットインと効果的なステップシュートを軸に試合を組み立てます。自身の得点が止まった時に、ボール回しも止まってしまうのが、現時点での課題。かつての横嶋彩(アランマーレ)のように、代表活動を通じて粘り強くボールを回す技術を身につけてくれたら、ゲームを支配できる司令塔になれます。ライトバックでのプレーも得意です。
齊藤 詩織(飛騨高山ブラックブルズ岐阜)
ブルズの顔とも言える存在で、国内での実績は申し分なし。センターでボールを回せて、左側にポジションチェンジしたら、得意のアウト割りでゴールを量産します。今までは気心の知れたメンバーだけでプレーをしていたので、新たな組み合わせでどんな力を引き出してもらえるか。力のある選手をどのように操るか。とても楽しみです。
井桁 晴香(HC名古屋)
必殺のステップシュートを武器に、ルーキーイヤーから大活躍。2年目で押しも押されぬ名古屋のエースになりました。ライトバックでのプレーも上手いので、右利きライトバックの時間帯を作りたいなら、井桁をベンチに入れておくのもいいでしょう。爆発力があるので、ベンチからのインパクトプレーヤーでも使えそうです。(下に記事が続きます)
RB(ライトバック)には攻撃型左腕3人
中村 歩夢(イズミメイプルレッズ広島)
長身かつ長い手足の大型左腕は、学生時代から将来を嘱望されてきました。9mの外から叩き込む豪快なロングシュートが一番の魅力です。今季は3枚目DFにもチャレンジするなど、使い勝手がよくなりました。しなやかさなら中山佳穂(BSVザクセン ツヴィカウ/ドイツ)にも負けません。
高木 奈央(イズミメイプルレッズ広島)
技術力のある大型左腕。DFの枝を利用しながら、GKとの駆け引きができるロングヒッターです。今季は2枚目DFにも挑戦し、これまでの「打つだけの人」のイメージから脱却しました。原理原則をわかってプレーしているので、初見の相手にも力を発揮してくれそうです。
金城 ありさ(ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング ブルーサクヤ鹿児島)
2024年4月の世界最終予選のイギリス戦では、美しいシュートを放ちました。「もっと金城を代表で見たい!」と思った人も多いでしょう。ファンタスティックなシューターで、160㎝の身長でも9mラインの外から決め切る技術があります。金城をセンターにした左利き3枚の布陣も面白いので、とにかく代表で出場時間を確保してくれたら 。(下に記事が続きます)
RW(ライトウイング)は守備力の阿久津が初
阿久津 祐子(熊本ビューストピンディーズ)
DF力を評価されている大型ウイング。所属では右の3枚目に入る機会が増えています。2枚目で動けるフットワーク力はないものの、体の強い左利きは貴重な存在。ライトバックには攻撃型の選手が揃っているので、バランスを取る意味でも阿久津のサイズは欠かせません。
PV(ピヴォット)は多彩4人
初見 実椰子(三重バイオレットアイリス)
非常に賢いオールラウンダー。本職のピヴォットだけでなく、流れでレフトウイングに入ったり、時にはセンターでゲームを組み立てたりと、幅広い活躍でチームを救います。どこへ行っても賢さで評価され、色んな監督のハンドボール観を吸収し、選手としては今が最盛期。コンビを組む味方を気持ちよくプレーさせるだけでなく、時には自分主導で周りを動かす強さも見せてほしいです。
安藤 かよこ(イズミメイプルレッズ広島)
パワフル安藤。6mライン付近に置いておくにはもったいない強肩と、屈強な体の持ち主です。球速があるけどシュートが単調だったり、強さの割にはDFで狙われたりといった時期もありましたが、主力の自覚が出てきた今季はいいパフォーマンスを見せています。シンプルな強さは、むしろ国際試合向きかもしれません。
兼子 樹(プレステージ・インターナショナル アランマーレ富山)
筋トレ集団アランマーレの最高傑作です。桐蔭横浜大学時代のひょろっと背が高くて、マイクを持っておどけていた時代を知る者からすると、感慨深いものがあります。まさかあの兼子が代表候補になるなんて! 強さで勝負する2対2が、アジアレベルでも通用するか。中国やカザフスタンといったサイズのある相手に真っ向勝負を仕掛けたいなら、兼子の強さは必要です。
グレイ クレア フランシス(熊本ビューストピンディーズ)
本来なら、もっと早く日本代表に定着するべきピヴォットでした。彼女の強さ、明るさ、意外な引き出しの多さは、もっと評価されてしかるべき。フリースローから振り向き様のミドルシュートに、中継に浮いてからのロングシュート。2対2からの片手キャッチに、7mスローをもぎ取る粘り強さ。ピヴォットらしいプレーも、他のピヴォットができないプレーもできる、華のある選手です。
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