ハンドボールの第27回IHF女子世界選手権(オランダ・ドイツ共同開催)第12日は2025年12月7日、オランダのロッテルダム・アホイでメインラウンド・グループ1の第3戦があり、8強入りを逃した日本(おりひめジャパン)は、アフリカ選手権2位のセネガルに27-23(前半11-13)で逆転勝ちし、今大会の最終戦を勝利で締めくくった。予選ラウンドでデンマーク、ルーマニアに連敗後、クロアチアに勝利して予選を突破した日本はメインラウンド進出後、ハンガリーに引き分け、スイス、セネガルに勝利。1試合も落とすことなく、無敗を守った。大会の最終順位は、9位以下の順位決定戦は行わず、他グループの試合結果によって勝ち点、得失点差などの比較によって確定する。
女子日本代表は12月8日に一旦解散し、国内組は帰国の途に就き、海外でプレーする選手はそれぞれの国へ戻る。8強へ進出したチームは12月9日から準決勝が始まり、12日に準決勝、14日に決勝が行われる。
前半1対1を9本外し監督激高

日本の選手たちに疲労の色がにじんでいた。11日間で6試合を戦い抜いてきたその過酷な日程はセネガルも同じとはいえ、日本の前半の入りはこれまでの試合と比べてもひどいものだった。
日本のベンチ前に立ちつくして戦況を見つめるモーテン・ソウバク監督はめずらしく苛立ち、激高していた。それは記者席からもはっきり見て取れた。特にミスを多発したオフェンス陣の選手には首の血管が浮き出るほど、強い口調で叫んでいた。
「チャンスを作ってもシュートを決めなければ何の意味もない。私たちはGKと1対1で、前半だけで9本のシュートを外したり、阻まれた」。ソウバク監督は試合後、怒りの理由をそう説明した。そして付け加えた。「これはワールド・チャンピオンシップ(世界選手権)なんだ。スクール・チャンピオンシップ(学校対抗)じゃないんだよ!世界トップの技術を発揮する場なんだ」
ソウバク監督が怒るのも仕方ない。日本は前半、中山佳穂の一撃で幸先よく先制したのもつかの間、佐々木春乃、佐原奈生子らがGKとの1対1の絶好機を生かせず、前半10分には相澤菜月の7mスローもポストに弾かれた。17分までに日本は、重ねたミスにつけこまれ、セネガルにターンオーバーを連続で許した。点差は8-11まで広がった。前半終了間際になってようやく、秋山なつみ、佐原が連続ゴール。日本は点差を2点に縮めてハーフタイムを迎えた。(下に記事が続きます)

「絶対勝つ」思い共有、オフェンスを修正

仕切り直しのハーフタイム。キャプテンの相澤は振り返った。「前半、シュートの(成功)確率がめちゃ低くて。ミスも多かったし、GKに阻まれた」と反省した。そして「しっかり決めきることを再確認して、絶対勝つんだという思いをチームで改めて共有しました」
後半開始直後、日本はエンジン全開で行った。攻撃を組み立てる相澤、中山、佐々木らのフローター陣はパススピードを一段と上げ、さらに動きながら、縦の動きでセネガルを揺さぶった。
「パスを回すだけじゃなくて前への推進力で、相手ディフェンスが寄るようになってシュートチャンスが増えた」と相澤。スペースをこじ開けた日本は後半7分までに中山、相澤、佐原、中山の4連続得点で15-13と逆転に成功した。
セネガルがすかさずタイムアウトで日本の勢いを止めにかかる。RWライサ・ダピナとPVハワ・ンディアイェの決定力で日本に追いすがる。後半17分、日本は17-19とまたも逆転を許してしまった。(下に記事が続きます)
158cm松浦未南、ゲームチェンジャーに

そんなピンチの連続を断ち切ったのは意外な選手だった。身長158センチ。世界選手権の代表初招集どころか、国際試合の出場経験もほとんどない、若手のLW松浦未南(23)だ。
彼女の武器は何と言っても瞬発力。ディフェンスをかき回して、試合の流れを変える力に加え、突破力もある。「監督からは1対1は止まらずに、スピードに乗った状態で勝負するようにと言われています」
後半18分の18-18の同点弾、その1分後の19-18の再逆転ゴールはいずれも速攻から、松浦が抜け出して決めた。松浦の投入でセネガルはかき乱され、明らかに足が止まった。試合終了3分前にはダメ押しの3点目も鋭く抜け出して決めた。「私は身長がない分、上からはシュートがたたけない。スピードがないと生きていけない」と松浦。「初めての世界選手権で自分がどれだけ通用するか、わからない状態で来ましたが、きょうはうまいこといけました」とはにかんだ。松浦起用が当たったソウバク監督も「今大会で松浦のベストゲームだった」とたたえた。
おりひめジャパンのメインラウンドの3戦はハンガリーに引き分けたが、スイス、セネガルには勝ち、無敗で乗り切った。ハンガリー戦では後半、6点リードの場面もあり、8強が見えた時間帯もあった。ソウバク新監督のデビューとなった国際大会で、全員がそろって準備する期間が10日程度だったことを踏まえると、期待がふくらむ結果である。目標のロサンゼルス五輪出場権獲得へ。上々の船出と言っていい。(下に記事が続きます)
キャプテン・相澤菜月「戦力増している」

2025年10月下旬からの日本での強化合宿に始まり、海外組は11月下旬のフランス遠征から合流しました。全員がそろっての準備期間は1週間あまりしかありませんでした。予選ラウンドで経験したデンマーク戦で、序盤は先行しながら後半に失速したこと。何度も追いついて勝ち越せなかったルーマニア戦の悔しさ。それらの経験を通じて、ディフェンスの踏ん張り、オフェンスの決定力不足の課題が突き付けられました。
「それでも、ディフェンスは試合をこなすごとに全員で守ることができてきました。選手たちは成長を感じています。日本代表として戦う力は増していると思います。代表に7人いる海外でプレーする選手たちの存在が大きいです。その選手たちが軸となっていいチームができつつあります。相手国のフィジカルの強さ、スピード、技術は常にそのレベルでやっているので、わかっています。私自身もいままでの(国内での)感覚と、ドイツに出てある程度分かっている状態では、だいぶ違うなと感じた世界選手権でした。
ソウバク監督「成長誇りに思う」
選手たちをまずほめたいし、たたえたい。全員がそろったのが大会直前の11月下旬だよ。本来は相手によって攻め方も守り方も戦術も異なるし、プランA、プランB、プランCと抜かりなく準備するのが理想だ。異なる相手や状況によってメンタルの準備の仕方も違う。就任してこの半年、(色々な事情で)代表の活動はなかなか進められなかった。でもこの短期間で日本女子が見せた成長と進化は目を見張るし、誇りに思う。
彼女たちの努力と献身におめでとうと言いたい。ただ、私たちにはやることがたくさんある。来年にはアジア大会(愛知・名古屋)、連覇がかかるアジア選手権(会場未定)がある。もっと成長できるし、とても楽しみだ。
個人スタッツ
| 背番号 | 選手名 | 得点 | シュート数 | 成功率 |
|---|---|---|---|---|
| 13 | 中山 佳穂 | 8 | 11 | 73% |
| 17 | 大松澤 彩夏 | 0 | 0 | — |
| 19 | 佐原 奈生子 | 4 | 8 | 50% |
| 20 | 秋山 なつみ | 2 | 3 | 67% |
| 23 | 相澤 菜月 | 4 | 6 | 67% |
| 24 | 岡田 彩愛 | 0 | 0 | — |
| 29 | 笠 泉里 | 0 | 0 | — |
| 3 | 初見 実椰子 | 0 | 0 | — |
| 30 | 亀谷 さくら | 1 | 1 | 100% |
| 32 | 佐々木 春乃 | 1 | 4 | 25% |
| 37 | 松浦 未南 | 3 | 5 | 60% |
| 5 | 金城 ありさ | 0 | 0 | — |
| 51 | 吉留 有紀 | 2 | 3 | 67% |
| 55 | グレイ クレア フランシス | 1 | 2 | 50% |
| 77 | 上嶋 亜樹 | 0 | 0 | — |
| 89 | 石川 空 | 1 | 3 | 33% |
| 合計 | 27 | 51 | 53% | |
GKスタッツ
| 背番号 | 選手名 | セーブ数 | 被シュート | セーブ率 |
|---|---|---|---|---|
| 30 | 亀谷 さくら | 8 | 31 | 26% |
| 77 | 上嶋 亜樹 | 0 | 0 | — |
| 合計 | 8 | 31 | 26% | |
メインラウンド(グループⅠ)・日本の成績
| 日付 | 対戦相手 | 結果 | 勝敗 | 前半/後半 | ペンスポ記事 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2025/12/3 | スイス | 27-21 | ○ | (13-10 / 14-11) | 記事 |
| 2025/12/5 | ハンガリー | 26-26 | △ | (7-8 / 19-18) | 記事 |
| 2025/12/7 | セネガル | 27-23 | 〇 | (13-11 / 10-16) | 記事 |
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