開幕まで2か月後に迫るパリ五輪。大会の盛り上がりに欠かせないのが、地元のスター選手の活躍だ。その一人、サッカーのフランス代表FWキリアン・エムバペ(25)がパリ五輪に出場できるのかどうか、に世界の注目が集まっている。大会の「顔」としてフランス国民のみならず、世界中のスポーツファンが期待を寄せるのとは裏腹に、エムバペを取り巻く最近の状況は厳しくなるばかりで…。
19歳で世界を獲った
エムバペはパリ19区生まれの25歳。「19歳で世界を獲った」言わずと知れたフランスの若き英雄だ。6年前の2018年FIFAワールドカップ(W杯)ロシア大会を覚えているだろう。エムバペは19歳ながらフランス代表の10番を背負い、決勝でゴールを決めるなどしてフランスを5大会ぶりの優勝に導いた。さらに2022年W杯カタール大会では、リオネル・メッシ率いるアルゼンチンとの決勝でハットトリックを決めるなどの激闘を演じて準優勝。通算8得点で大会得点王に輝いたのは記憶に新しい。
地元の超人気チーム、パリ・サンジェルマン(PSG)に所属するフランスリーグ(リーグアン)でも今季リーグ戦29試合で27ゴール・7アシストと断トツの数字を残し、6季連続で得点王に輝いた。(下に記事が続きます)
PSG退団、Rマドリードへ
ところが、エムバペはそのパリ・サンジェルマン(PSG)を今季限りで退団することを決断した。スペインリーグ(ラ・リーガ)のスター軍団、レアル・マドリードへの移籍がもはや既定路線となっている。
問題はエムバペが移籍するレアル・マドリードの「方針」だ。レアル・マドリードはすでに五輪への選手の貸し出しを拒否する方針を明らかにしている。そもそも五輪はFIFAインターナショナルマッチカレンダーに含まれていない大会で、クラブにとっては選手を貸し出す義務がない。(下に記事が続きます)
五輪は厄介なイベント
しかも、4年に一度のFIFAワールドカップの中間年にあたる今年、2024年は欧州チャンピオンを決める国別のUEFA欧州選手権(ユーロ)の開催とかぶる。今年の欧州選手権は6月14日〜7月14日にドイツで開催される。パリ五輪のサッカー競技が始まるのはこの10日後の7月24日だ。五輪は決勝が行なわれる8月9日までフランス全土で続く。欧州選手権とパリ五輪の両方に出場するのは無理がある。なぜなら、選手はかなりの強行日程を強いられ、ほとんど休養が取れない状況になるからだ。けがのリスクもある。
だから欧州のクラブチームにとって、そもそもUEFA欧州選手権(ユーロ)の直後に開かれる真夏の五輪は極めて厄介なイベントなのだ。しかも、レアル・マドリードは7月下旬から8月上旬にかけて米国でプレシーズンマッチを計画しており、ミラン、バルセロナ、チェルシーと対戦する予定がある。五輪はそのプレシーズンとも重なる。エムバペがパリ五輪に出場すれば、新たに入団するレアル・マドリードでチームメートと連係を確認する時間がなくなることになる。
レアル・マドリードはすでに、フランスサッカー連盟に対して書簡を送り、チームに所属するフランス人選手がその前にドイツで開催される欧州選手権に出場した場合、パリ五輪には参加させないことを明言している。
しかも、エムバペは25歳。五輪のサッカーは23歳以下の大会のため、各チーム3人まで登録が可能なオーバーエイジ(OA)枠でフランス代表に選出されることも条件になる。そうした状況を総合すると、エムバペがパリ五輪に出場することはかなり厳しいと言わざるを得ないのだ。(下に記事が続きます)
マクロン大統領「最大限のプレッシャーをかけた」
そんなエムバペをパリ五輪にどうしても出場させたいのが、フランスのエマニュエル・マクロン大統領(46)やパリ市幹部、大会組織委をはじめとした五輪関係者だ。自国で100年ぶりに開かれるパリ五輪を「最高のショー」にしたい。フランスの威信を示したい思いが募る。サッカーフランス男子の五輪での成績は、1984年ロサンゼルス大会決勝でブラジルを2-0で下して獲得した金メダルが最高。パリ五輪はその金メダル獲得から40年目の節目にあたる。
マクロン大統領は2024年5月、「ヨーロッパのクラブは、私たちが(五輪で)素晴らしいショーを見ることができるよう、(エムバペを)試合に出場させる必要があると思う」と発言。自身のXアカウントのビデオでも「私はレアル・マドリードがキリアン(エムバペ)を五輪のフランス代表チームでプレーできるようにすることを期待している以外、特にコメントすることはない」と発言した。
さらに今月に入ってからも、自身のInstagramで「エムバペはオリンピックでプレー? そうだといいけど。 いずれにせよ、私は彼の将来のクラブと呼ばれるものに最大限のプレッシャーをかけた 」とレアルマドリードを念頭に立て続けに奔放な発言をして話題を呼んでいる。
メッシもネイマールも五輪金メダル
エムバペは、パリ中心部から北東に約10キロ、フランス最大のスタジアム、スタッド・ド・フランスからもわずか10kmのバンリュー(Banlieue=郊外)と呼ばれる移民が多いボンディの団地で育った。カメルーン出身の元サッカー選手の父とアルジェリア系でハンドボール選手だった母の運動神経を受け継ぎ、5歳から地元のチームでサッカーを始めた。ポルトガル代表FWのクリスティアーノ・ロナウドのポスターを自室の壁に貼ってあこがれたサッカー少年だったという。
そんなエムバペ本人も、これまでは地元パリ五輪への出場には意欲を示し、前向きな発言をしてきた。パリ・サンジェルマン(PSG)でチームメイトだったリオネル・メッシは21歳だった当時、アルゼンチン代表として2008年北京五輪で金メダル。ネイマールも2016年のリオデジャネイロ五輪で地元ブラジル代表を自身のPKで金メダルに導いている。そんな影響もあるのだろう。
ただ、最近は移籍先(レアル・マドリード)のクラブの決定については「尊重する」と語り、トーンダウンしている。エムバペのパリ五輪出場の可能性はしぼむばかりだが、万一、大逆転で出場することになるとすれば、それは「政治」の力だろう。
キリアン・エムバペ 1998年12月20日パリ生まれ。パリ・サンジェルマンFC所属。フランス代表FW。圧倒的なスピードと決定力はサッカー界随一。2018年FIFAワールドカップ決勝のクロアチア戦で4点目となるミドルシュートでフランスの優勝に貢献した。10代選手がW杯決勝でゴールを決めたのは1958年大会のペレ(ブラジル)以来60年ぶり2人目の快挙だった。2022年W杯カタール大会では決勝で3得点を決めてハットトリックを達成し、通算7試合8得点でゴールデンブーツを受賞した。大会終了後の2023年には、フランス代表のキャプテンに就任した。
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