2025年世界年間最優秀選手を選ぶバロンドールの表彰式が9月22日、フランス・パリで行われ、男子部門はフランス代表ウスマン・デンベレ(28歳、パリ・サンジェルマン)が、2位のラミン・ヤマル(18歳、FCバルセロナ)を押さえて自身初の受賞となった。女子部門はスペイン代表MFアイタナ・ボンマティ(27歳、FCバルセロナ)が史上初となる3年連続で受賞した。
公式戦53試合、35得点
フランス・フットボール誌が創設した由緒あるこの賞の栄誉にウスマン・デンベレが輝くことを誰が想像しただろうか。
名前を呼ばれて壇上でスピーチするウスマン・デンベレは何度も言葉をつまらせながらも母親への感謝を口にし、目頭を押さえて感涙にむせんだ。
2024-2025シーズンは、フランス・リーグ・アン29試合出場21得点8アシスト、クープ・ドゥ・フランス(フランス国内杯)4試合出場3得点1アシスト、欧州チャンピオンズリーグ15試合出場8得点1アシストでPSGの3冠に貢献。シーズンを通して公式戦53試合出場35得点16アシストを記録した。
これだけの立派な結果を残しての受賞がなぜ驚きなのか、と思うかもしれない。しかし、以前は、プロキャリアを続けられるかどうかという瀬戸際を長らくさまよっていたのだ。(下に記事が続きます)
ゲームに遅刻、ジャンクフード
アフリカ系移民の両親のもとにフランスで生を受けたウスマン・デンベレ。サッカー好きの家庭で育ちスタッド・レンヌのアカデミーに入門すると、2015年11月6日にアンジェSCO戦で18歳にしてプロデビューした。才能が認められてドイツ・ブンデスリーガのビッグクラブであるボルシア・ドルトムントに2016年夏に移籍し、香川真司の背番号7番を引き継いだ。
この時期のウスマン・デンベレは試合でそこそこの結果を残しながらも生活が乱れており、周囲が考えるポテンシャルを発揮しているとは言い難い状況だった。
食生活は、ハンバーガーやピザといったジャンクフード。チームミーティングやトレーニング、試合に頻繁に遅刻した。筋金入りのゲームオタクで移動時のチームバスでもスマホに見入ってゲームにのめり込んだ。サッカーゲームも大好きで、その情熱を自身のサッカー競技に傾けることができれば、どれだけいい選手になることができたことか。
ボルシア・ドルトムント時代には、練習中にソックスの中にスマートフォンを忍ばせて『ポケモン GO』で移動距離を稼いでいた。ソックスから、すね当てならぬスマホが見つかった時には、トーマス・トゥヘル監督も笑うしかなかった。(下に記事が続きます)
FCバルセロナでも改めず
翌2017年夏には、推定1億4700万ユーロ(約256億円)の移籍金でバルセロナに移籍した。その際は、移籍を押し通すために練習をボイコットし、去った自宅の鍵も返却せず。扉を開けると部屋は物が散乱し腐った食べ物が転がっていた。家主は滞納された家賃と瑕疵修補を求めて提訴し、ドルトムント地方裁判所は2万ユーロ(約350万円)の支払いを命じた。
FCバルセロナに加入してからも生活態度は改善せず。練習に姿を見せなかったため電話したところ、デンベレは腹痛を訴えた。そこでチームドクターが自宅に行くとどこも悪くなかった。
実際のところは、自宅で友達と深夜までゲームにのめり込み寝坊したとみられる。エルネスト・バルベルデ監督は直近の試合でデンベレをベンチ外にした。
ことあるごとにゲームへの情熱を口にするウスマン・デンベレ。しかし、それがゆきすぎて「ゲーム障害」になっていたと言われている。
フランス代表のディディエ・デシャン監督は、ウスマン・デンベレに対して、よりプロフェッショナルな姿勢を見せるように忠告した。
2023年夏にウスマン・デンベレがPSGに加入した際の移籍金は5000万ユーロ(約87億円)だった。(下に記事が続きます)
結婚と娘の誕生が変えた人生
その前後のウスマン・デンベレに転機の兆しが訪れていた。密かに交際を続けていたモロッコ出身のイスラム系インフルエンサーのリマ・エドブーシュと2021年12月に挙式。2022年9月に愛娘が誕生したのだ。家族を持ち父親となり、守るものが増えて責任感が芽生え始めた。
以前はケガがちでポテンシャルを発揮しきれなかったが、結婚後は専属の栄養士を雇い、ケガを克服するために真剣に専門的な治療を受けるようになった。
PSGの医療チームは身体の負荷管理を徹底し、長年悩まされた筋肉系のトラブルを最小限に抑えた。結果としてデンベレは耐久力を増し、シーズンを通じて決定的な役割を果たすようになった。
エンリケ監督「偽9番」起用、才能が開花
ウスマン・デンベレが才能を大きく開花させた大きな要因は、2023年にPSGの監督に就任したルイス・エンリケだ。2024年夏にフランス代表FWキリアン・ムバッペがレアル・マドリードに移籍したことにより、エンリケ監督は面談を重ねてウスマン・デンベレにリーダーの自覚を植え付けた。そして本来はウインガーのウスマン・デンベレをFWにコンバートしたのだ。
守備では最前線から激しいプレッシングを行い、攻撃ではゴール前に張り付くわけでもなく中盤に引いて神出鬼没の掴みどころのないポジショニングで相手守備陣をかき乱し得点とアシストを量産。両足を器用に操りウインガー的な動きとストライカー的な動きを見事に融合させ、新たなアタッカー像を作り上げた。偽9番で、生来の流浪なキャラクターが遺憾なく発揮された。以前から攻撃力には定評があったウスマン・デンベレだが守備を頑張るような選手ではなかった。しかし、今のPSGの戦術は、ウスマン・デンベレの前線からのチェイシングがなければ成り立たないと言っても過言ではない。
若い頃は、気まぐれな性格と乱れた私生活により、その潜在能力は永遠に封印されたかに思われた。しかし、エキセントリックながらもどこか憎めないところがあり、周囲は温かく見守り続けた。そして私たちはついに28歳にして才能全開になったウスマン・デンベレを目撃することになったのである。


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