ハンドボール日本選手権女子の決勝戦は2023年12月28日、岩手県花巻市総合体育館で行われ、前回大会に続いて北國銀行とソニーセミコンダクタマニュファクチャリングが対戦。北國銀行が35-25で圧勝、大会5連覇を果たしました。MVPには、1試合17得点を挙げた日本の司令塔・相澤菜月(北國銀行)が選ばれました。
東監督「相澤、アジアで一番うまい」
第75回を迎えた女子日本選手権は12月24日から始まりました。ハンドボール女子日本代表(おりひめジャパン)のメンバーがデンマークから帰国したのは12月20日。代表選手を8人抱える北國銀行は、時差ボケ解消のための調整日を設けたため、チーム全体で合わせたのはわずか1日だけでした。永田美香キャプテンは「合わせの時間がなくて、不安はあった」と言いますが、試合を重ねながらコンビネーションを修正し、危なげなく勝ち進んでいきました。
決勝のソニー戦も、立ち上がりから北國が主導権を握ります。センターの相澤菜月が自身のステップシュートを皮切りに、ピヴォットの永田へのバックパスに、ライトバックの中山佳穂とのクロスなどで、順調に得点を伸ばしていきます。周りを活かしつつ、必要であればいつでも点は取れますよ、といった余裕が感じられました。東俊介監督が「アジアで一番うまい選手」と言うように、相澤が圧倒的なスキルでゲームを支配します。
開始3分、松本が鮮やかカットイン
相澤、中山の二枚看板に得点が集中しがちなところで、ほどよいアクセントになったのがレフトバックの松本ひかるです。代表ではレフトウイングに入り、世界選手権でデンマーク相手に大金星を挙げた試合では、後半終了間際にスカイプレーで決勝点を決めた選手です。北國に戻ってからは本職ではないレフトバックでプレーしています。
松本は「ロングシュートの練習はしていませんよ」と言いながら、準決勝のイズミ戦では引っ張りの下(右利きの松本から見てゴール左下)へ、本職顔負けのディスタンスシュートを決めました。決勝では開始3分に真ん中で鮮やかなカットインを見せてくれました。左右にいる相澤と中山が気になって、中央のソニーDFが広くなったところを見逃しませんでした。こういうさりげない嗅覚が、松本の強みです。この日2得点だけでも、十分なインパクトを残しました。
前半20-11 ソニー、両バックは好調だったが
前半11分11-5。北國が相澤の速攻でリードを広げたところで、ソニーが早めのタイムアウトを取りました。タイムアウト明けにはソニーの金城ありさがアウトスペースを割って、1点を返します。今季のソニーは、金城の得点が生命線。「今年はプレータイムも増えたので、毎試合8~10点を狙っていきたい」と意欲的です。間を割ったり、意表を突くステップシュートを放ったり、小柄でも得点能力は国内屈指。春先に左肩を痛めていなければ、日本代表にも選ばれていたはずです。
ライトバックの金城、レフトバックの伊地知愛妃と両バックが好調だったのですが、ソニーはチーム全体の得点がなかなか伸びません。このあとも苦しい展開が続きます。前半終わって20-11と、北國が大きくリードして折り返しました。
後半、ソニー・青が連続得点
後半の出だしに、ソニーはようやく息を吹き返します。ピヴォットの青麗子が2次速攻からロングを打ち込み、チームに勢いをもたらしました。さらにはレフトバックの伊地知がミドルを決めて、点差を詰めてきました。やはりソニー。地力はあります。
後半5分、21-15と追い上げられたところで、北國の東俊介監督は早めのタイムアウトを取りました。「セットOFでディスタンスシュートを2本続けて外したのもあって、確認の意味でタイムアウトを取りました。『これまでやってきた2対2で攻めよう。もっと間を攻めよう』と確認しました。ディスタンスシュートは打つべきところで打てていましたけど、ちょっと流れが悪かったので。タイムアウトでは選手たちが前向きなコミュニケーションを取ってくれたから、いい立て直しができました」。
就任1年目の東監督は初めての監督業に「選手が求めているものを提供したい」と、自分を見失いかけた時期もありました。今は「僕はニカさん(荷川取義浩前監督)にも楠本先生(繁生・日本代表監督兼大阪体育大監督)にもなれない」と、いい意味で開き直って、チームに溶け込みました。適度にいじられキャラでありながら、チームに明るさとコミュニケーションの重要性を落とし込んでいます。東監督はちょっと不器用でも、しっかり考えられる地頭があって、体育の世界だけにはとどまらない豊かな感性の持ち主です。ベンチワークでも、徐々に本来の東監督らしさが出てきました。
20本打って17得点、相澤がMVP
ワンサイドゲームになった後半で最大の見せ場を作ったのは、北國のGK馬場敦子でした。ソニーの選手がエンプティゴールを狙ったロングスローに、ベンチから飛び出した馬場が追いつき、ジャンプしてキャッチしました。馬場は小柄ですけど、脚力と俊敏性なら国内のGKでナンバーワン。スーパーキャッチに会場が湧きました。そのあとにもループシュートをジャンプして叩き落とすなど、俊敏な動きでみせています。
その後も順調に得点を重ねた北國が、35-25でソニーを下し、大会5連覇を成し遂げました。MVPに選ばれたのは、35点中17点を挙げた司令塔・相澤。ゲームメイクをしながら、速攻にセットに7mスローと、色んな形で得点を重ねました。「打てる場面は自分が狙う。世界に行っても、ディスタンスシュートを決め切れるようになりたい」と、常に世界を意識してプレーしています。はっきり言って、もう国内でやることはないレベルです。
4月のパリ五輪世界最終予選へ「パス回しから意識」
日本選手権5連覇の北國銀行。例年以上に明るく、会話も多かった東監督は「世界選手権から帰ってきた代表組が、パスの速さだったり、コンタクトの強度などで、チームのレベルを引き上げてくれた」と言っていました。ひと昔前の北國は、世界選手権の直後にある日本選手権を苦手にしていました。しかし今回は、世界選手権でパワーアップして帰ってきたように感じられました。
相澤は「パスの速さは、練習から意識していかないと変わらない。『日本は機動力が武器』と言うのなら、全員が動いて、パス回しから意識して速く展開できるようにしていきたい」と言います。世界選手権でレベルアップした個の力をさらに伸ばし、全員で課題に取り組んでいけたら、来年4月の世界最終予選でパリ五輪の出場権獲得も夢ではありません。ハンドボールの母国・デンマークに勝った世界選手権の熱量そのままに、北國銀行セブンは日本選手権を戦いました。来年4月のパリ五輪世界最終予選(ハンガリー)が楽しみです。世界最終予選は3グループごとの総当たり戦で、各グループの上位2チーム、計6チームがパリ五輪への出場権を獲得します。日本はトーナメント1でスウェーデン、ハンガリー、カメルーンと対戦します。
パリ五輪女子世界最終予選の概要
日時:2024年4月11日~14日
トーナメント1(開催地:ハンガリー)
- スウェーデン(世界選手権4位)
- ハンガリー(世界選手権10位)
- カメルーン(アフリカ大陸2位、世界選手権24位)
- 日本(アジア大陸2位、世界選手権17位)
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