ハンドボール・リーグHは2026年10月12日に開幕します。女子の飛騨高山ブラックブルズ岐阜はプレシーズンマッチで好調で、リーグH開幕記者会見ではキャプテンの角森彩が「プレーオフ初出場」を宣言しました。司令塔の吉本里緒にGKコーチ兼任の田口舞と、2人のプレーオフ経験者が加わり、チームの意識改革が進んでいます。今季にかけるブルズの意気込みを紹介します。
豊島梨奈と小林可奈が引退

2025-26シーズンの飛騨高山ブラックブルズ岐阜は、3勝17敗で勝ち点6。リーグH女子11チーム中10位でした。GK邉木薗結衣がリーグ3位の高い阻止率(.375)を残したものの、純正のプレーメーカーがいないこともあり、得点力不足で勝ちきれませんでした。しかも2025-26シーズンを最後に、レフトウイングの豊島梨奈、ライトバックの小林可奈が揃って引退。得点源2人がいなくなる非常事態となりました。
高度なシュート技術を誇る豊島は、勝負どころの1本を常に任されてきました。伊藤寿浩ヘッドコーチが「人間的に最も信頼できる選手」と言っていた豊島の引退は、大きな痛手です。左利きの小林は、小柄でも9mの外から打ち込めるシュート力で、入団以来チームを支えてきました。伊藤ヘッドも「ケガと蓄積疲労がなければ、日本代表に入れた選手」と、小林の実力を高く評価していましたが、最後のシーズンはケガもあり、本来のパフォーマンスを発揮できませんでした。
プレシーズンマッチ1勝1敗

絶対的なフィニッシャーと、リーグ有数の左利きのバックプレーヤーが引退し、ブルズのOF陣は大丈夫なのか。2026-27シーズンは、より一層得点力不足に陥るのではと懸念されていました。
ところがふたを開けると、予想以上にOFが機能していました。2026年9月に名古屋のブラザー工業体育館で行われた「東海クラブダービー」で、飛騨高山ブラックブルズ岐阜は1勝1敗。三重バイオレットアイリスには敗れたものの、HC名古屋には27-21で勝利し、プレシーズンマッチでファンを安心させました。
吉本里緒、センターに定着

OFが変わったのは、香川銀行シラソル香川から移籍した吉本里緒がセンターに定着したからです。チーム待望の司令塔が加入し、ブルズのセットOFが見違えるほど整理されてきました。2対2をわかっている吉本が真ん中にいるから、ピヴォットの角森彩のスライドプレーが生きます。吉本がOFの大枠を作るので、レフトバックに入った近内智春も楽に動けます。近内も2対2を理解しているから、吉本と響き合うシーンが何度も見られました。
いいセンターがいるとピヴォットが育ちます。キャプテンの角森をライトウイングに回した時間帯では、ピヴォットの有隅晴香が巧みなスライドプレーを見せていました。3枚目DFでもいい働きを見せ、伊藤ヘッドは「(新人の)有隅が攻守に使えるのが大きい」と喜んでいました。
近内智春、2対2狙える

吉本はOFの組み立てを、このように話していました。
「一人ひとりタイプが違うから、その人が動きやすいよう組み立てています。近内さんはシュート力があるし、2対2も狙える選手なので、そこを使いながら組み立てました。今日は名古屋が前に出てくるDFだったから、裏のスペースを使いながら攻めました」
吉本の統率力は、香川銀行シラソル香川での6年間で培ったものです。リーグH参入前の部員が少なくなった時代に、香川銀行の亀井好弘監督は、宣真高校(大阪)から入って間もない吉本をセンターに抜てきし、勝つためのOFを教え込んでいます。その後香川銀行はリーグHに参入し、岡田彩愛、松浦未南といった日本代表クラスのセンターを獲得。吉本はスタメンから弾き出されました。それでも亀井監督は吉本を重宝し、OFの流れが悪い時にワンポイントで吉本をコートに立たせて、試合を立て直していました。2026年6月のプレーオフでは、ワンポイントで出てきた吉本がステップシュートを決めて、強烈なインパクトを残しています。
吉本「自身の成長を試したい」

亀井監督への恩義を感じながらも、吉本は出場時間を求めてブルズに移籍しました。
「自分自身がどれだけ成長したのかを、コート上で試したい思いがありました。上手な人ばかりが集まっていなくても、チームとして勝てることを証明したいです。高山市の人たちはとても温かくて、そんな地域のみなさんと共に勝って、1位という景色を一緒に見られたら、高山の街も盛り上がるだろうし、ハンドボール界ももっと盛り上がるかな」
香川での2025-26シーズンに見た頂点の景色を飛騨高山でも見たいと、吉本は思い描いています。
高橋杏奈「戻って守れるように」

吉本が入ったことでOFが整理され、トータルでもいい効果が生まれています。DFの要で、昨季までキャプテンだった高橋杏奈は、ハンドボールの4局面でのつながりを感じていました。
「点が入ると、速攻で押されることも減りますね。昨季はOFのミスから戻れなくて、相手の速攻にやられるシーンが多かったのが、今回のプレシーズンマッチではシュートまで行けていたので、戻って守ることができました。昨季試合に出られなかった子が、自分のプレーを出していけたところもよかったですね」
セットOFがシュートで終わるから、たとえシュートを外しても、戻ってDFを整える時間が作れます。セットDFで守れたら、ブルズの強みであるGKで勝負できるし、堅守速攻の楽な得点も増えてきます。
伊藤寿浩ヘッド「最後は個の強さ」

伊藤ヘッドはセットOFに手応えを感じつつも、さらなる個の強さを求めていました。
「香川銀行が2対2で相手を崩すと言っても、最後は松浦未南が1対1で点を取ってくる。ウチもそういう個の強さ、コインの表裏で言う『表』のプレーをもっと磨いていきたい。『裏』を使う駆け引きは、そのあとでいい」
整理されてきたセットOFに、伊藤ヘッドが求める個の強さが合わされば、課題だったブルズの得点力が改善されそうです。
田口舞、7年ぶりにブルズ復帰

吉本のほかにもう一人、プレーオフ経験者がブルズにやってきました。GKコーチ兼任の田口舞です。熊本ビューストピンディーズから移籍してきたリーグH女子最年長プレーヤーは、7年ぶりに古巣に戻ってきました。背番号18をつけて声を出す姿は以前と変わらず、それでいて経験値は増しています。
吉本と田口が加わり、チーム内に大きな変化が生まれたと、伊藤ヘッドは見ています。
「吉本と田口が『プレーオフ』という言葉を口にすることで、チーム内に対立が起こりました。でもそれは悪いことではないし、選手同士で解決してほしいので、あえて介入しません。2人の存在が、チームの当たり前の基準を上げてくれました」
「田口の振る舞い、感情の落ち着きも大きいです。ブルズは若いチームなので、負けて落ち込みすぎたり、逆に些細なことで喜びすぎたりと、気持ちの面での浮き沈みがありました。でも今年は実力と経験のある田口が雰囲気を作ってくれるので、若い選手もわかってきました。ここは盛り上がっていいんだとか、落ち込む必要はないんだとか」
角森彩、プレーオフ出場宣言

様々なチームでプレーしてきた田口は、ブルズの選手のよさを理解しています。
「ブルズの選手は仕事もしっかりやりながら、ハンドボールをしています。他のチームよりも大変な環境だけど、その分みんな大人というか、気遣いができて優しい子が多い。だからこそ、もっと自分を出してもいい。『こういう仕事をやりながらでも、プレーオフに行けるんだよ』と」
2026年10月5日のリーグH開幕記者会見で、キャプテンの角森は「目標はプレーオフ初出場」と宣言しています。
「田口さんから『言葉にしていった方がいい』と言われていたので、記者会見でも『プレーオフ』という言葉を口にしました。チーム全体の意識付けになるし、全員が同じ方向に向けるから、いい影響が出ると思います」
どのチームと対戦しても僅差で負けていた飛騨高山ブラックブルズ岐阜が、突き抜けるきっかけをつかむシーズンになるでしょうか。
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