男子バレーボールのイタリア・セリエAでプレーする日本人選手を取材するため2026年3月13日、イタリアはミラノ・リナーテ空港に到着した。宿までのタクシーでドライバーと雑談した中で、「野球のイタリアナショナルチームは、アメリカを倒したよ」「…ふーん。イタリアリーグ?」「違う違う! ワールドベースボールクラシック(WBC)という国際大会で、日本でも開催されてたんだ。決勝ラウンドはアメリカ」「なんでスポーツジャーナリストの君はそれなのにイタリアに来たんだい?」「えーと、私はパラボロ(バレーボール)のジャーナリストで、明日ミラノで試合があるから。ミラノには2人の日本人選手がプレーしているから」
日本人のジョガトーレ…イシカワだな

運転手はスマホを操って(おいおい)「オツカだね。ミラノにパラボロチームがあるのは知ってる」「そうなんだ」「過去にもミラノに来たことはあるの?」「何回もあるよ! 去年もきたし、その前にも日本のジョガトーレ(選手)がプレーしていたし、世界選手権も開かれたからね」「前の日本人のジョガトーレ…イシカワだな」「石川選手を知ってるの?」「ああ。イシカワイズグッド」「オオツカもグッドだよ!」「次の試合を見るときは注目してみるよ。実は娘がミラノのパラボロチームでプレーしてるんだ。ユースカテゴリーだけど」「えー!すごいじゃん!」「機会があったら娘にも取材してやってくれ」「もちろん!」
野球に疎い私でも、イタリア代表がアメリカチームを倒したのはビッグニュースだったので知っていたのだが、イタリア国内では全然話題になっていないようだった。それよりもミラノにバレーボールのクラブがあって、日本人選手がプレーしていること、石川祐希がグッドな選手として記憶されていることに驚いた。
大塚達宣はミラノ2シーズン目だが、2025年末に腹筋をいため、2か月ほど試合に出場できていなかった。ミラノに5シーズン所属し、都度都度上位チームを破る立役者となっていた石川祐希がミラノ市民に「グッド」と評価されていることはうれしい驚きだった。石川がグッドなのはもちろんよく知っている。しかし大塚もまたグッドなのだ。故障から復帰した今、彼らにそれを見せつけてほしいと願いながら到着した宿で重い荷物をおろしてくれたドライバーに「グラッチェ」と手をふった。

CEVチャレンジカップ優勝まで取材

ミラノには2週間強滞在した。リーガ(リーグ)のプレーオフ準々決勝では、ミラノがコッパ・イタリア優勝のヴェローナに2敗してがけっぷちに。敵地ヴェローナでフルセットの激闘の末、大塚のサービスエース3本で最終セットを制し、第4試合まで駒を進めた。タイムアウト明けに大ブーイングを食らった中でもひょうひょうとエースをとった日本人選手のことを、ヴェローナのサポーターたちも「敵ながらあっぱれ」と思ったのか、帰り道、ヴェローナのサポーターから口々に「オオツカ」の名前が聞こえてきた。

次の試合はミラノにコンディション不良の選手が複数いたため勝ちきれなかったが、4月1日のCEVチャレンジカップの決勝で、見事優勝を勝ち取った。私は最初の予定を変更してこの試合までを取材し、翌日2日にミラノから関空へと帰国した。

とてつもない円安と湾岸情勢による航空券の高騰のため、イタリア滞在中は外食を控え、ほぼスーパーマーケットで食品を調達して宿で食べていた。徒歩圏にある大きなショッピングモールの会員になって、会員価格を享受していたのだが、レジでスマホに登録してあるその会員カードの画面がなかなか表示されない。後ろに人が並んで焦れば焦るほど出てこない。会員価格でないと倍くらいの値段になってしまうため、裕福でない日本人は必死になって会員カードの画面を表示させようとしていたが、レジの青年が機転を利かせてくれて、後ろに並んでいた御婦人のカードを読み込んで会員価格にしてくれた。確かに、ポイント還元を希望するほど長くは滞在しないし、会員価格になりさえすればよいし、後ろの御婦人はポイントも自分につくしで、ウィンウィンだった。(下に記事が続きます)
パラボロ、ミラノではメジャー

そして2日後もまた同じ青年のレジに並んで、今度はちゃんとスクリーンショットした会員カード画面をあらかじめ用意して見せると、青年は笑顔で親指を立てた。会計を済ませたときに「バケーション? ビジネス?」と聞かれたので「ビジネス。私はパラボロの記者で、ミラノには日本人選手が二人いるから」と答えると「パラボロ! 僕はパラボロが好きだよ。僕の友達にはイタリア代表のアンダーカテゴリーの女子選手がいるよ」と予想外の答えが返ってきた。
ペルージャではやはりカルチョ(サッカー)のイメージが強いのか、明日パラボロの試合があるよといってもタクシードライバーはそのことを知らなかったが、ここミラノではバレーボールは意外とメジャーな競技であるようだった。それにはパリ五輪でイタリア女子が史上初の金メダルを獲得したのも大きかったかもしれない。
ちなみにミラノの女子チームは、公式サイトで日本のバレーボールアニメ「アタッカーYOU!」をモチーフにあしらっている。このアニメはイタリアで結構人気があり、少し前のイタリア女子代表選手には何人もこのアニメがきっかけでバレーボールを始めたと答えていた。
タツオ!ブラボー!

4月1日のCEVチャレンジカップ決勝では、ミラノのホームアリーナでの選手入場のプロトコル(儀礼イベント)で、もっとも歓声が大きかったのが大塚だった。キャプテンのレゲルスにももちろん大きな歓声が送られたが、レゲルスは今シーズン限りでミラノを去ってペルージャに移籍することがほぼ明らかにされていたためか、またはリーガ準々決勝での大塚の素晴らしい働きっぷりが目に焼き付いたからか、ミラノのサポーターたちは大塚のプレー一つ一つに「ブラボー!」と拍手と歓声を送っていた。

私の隣の席にいたミラノメディアの記者は、大塚が決めるたびに「タツオ!ブラボー!!」と立ち上がって拍手。私は「タツオって誰やねん」と内心思っていたが、おそらく「オオツカ」という同じ母音が続く名字がイタリア人には発音しづらいのであろう。タクシードライバーもミラノの広報も「オツカ」と呼んでいたし、そして「タツノリ」もまたそんなにイタリア人にとって発音しやすい単語でもなさそうだ。チームメイトは「タツ」と彼を呼ぶことが多い。なので、「タツ・オツカ」略して「タツオ」なのかなと思いながらその熱狂ぶりを微笑ましく見ていた。(下に記事が続きます)
大塚「今季で力つけた」

大塚自身にもプロトコルでの大歓声について話をふると「ミラノのサポーターの皆さんにすごく愛されてるな、と感じて嬉しく思いますね」と笑顔で答えてくれた。2シーズン目となったイタリアリーグ、そしてミラノ。12月に故障してまる2ヶ月間スパイカーとして試合に出場することはできなかったが、復帰後サーブもスパイクもブロックもレセプションも、すべてが成長してコートに戻ってきた。
「故障していた時期はもちろんもどかしさはありましたが、その中でも自分がチームにできることをしようと努力していましたし、すべてのプレーについてこのシーズンで力をつけることができたと思います。今は残る5位決定戦に向けて全力を尽くしたいと思っています」。

翌朝宿に呼んだタクシードライバーは、「昨日ミラノのバレーボールチームがCEVチャレンジカップで優勝したんだよ」と告げると上機嫌で「それは素晴らしい」と答えてくれた。「日本ではバレーってどれくらい人気なの?」これは、イタリアでちょくちょく聞かれる質問だ。「日本でいちばん人気なのは野球。その次がカルチョかな。その次がバレーとバスケって感じ」と答えると、「野球が一番人気なんだ。カルチョも人気なんだね」と複雑そう。そうだ。この時ちょうどイタリアがワールドカップの出場権を逸したときだったからだ。「野球といえば、2週間前イタリア代表チームがアメリカ代表チームを倒したんだよ」と話すと、行きに乗ったドライバーとは異なり、「え、それってビッグウィンてこと?」と食いついてきた。「もちろん! アメリカは優勝候補の一つだったからね。そのアメリカにイタリアが勝ったから、日本ではとても大きなニュースになっていたよ」というと「そうなんだ。ベースボールのイタリア代表は頑張ったんだな…」と嬉しそうにその勝利を噛み締めていた。
「またミラノに来るかい? シニョーラ」「多分くる。また来季ね!」「チャオ」
湾岸情勢のために高騰した航空券を購入したときはかなり躊躇(ちゅうちょ)したが、来てよかったと思えた。石川がグッドだったように大塚もグッドなのだと、ミラノ市民が受け入れてくれた場面をこの目で見ることができたのだから。
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